
大学での遺伝子治療研究の様子(ロイター)
[ロイター]遺伝子治療薬は希少疾患の治療薬として期待されているが、開発の失敗や撤退、売り上げの伸び悩みにより、肥満やがんといったより早く、より高い利益が見込まれる分野に初期投資家を奪われている。
ファイザーが撤退
一部の製薬企業は遺伝子治療薬から撤退している。ファイザーもその1つで、同社は最近、患者1人あたり350万ドル(約5億2600万円)で販売していた血友病の遺伝子治療薬の販売を中止した。この分野のパイオニアで、かつて100億ドル近い時価総額を誇ったブルーバードバイオは先月、プライベートエクイティファームに3000万ドルで売却された。
ディールフォーマから提供されたデータをロイターが分析したところ、遺伝子治療・遺伝子編集製品の開発者が2024年にベンチャーラウンドで調達した資金は39件で14億ドルに満たなかった。23年は60件で35億ドルを調達したが、ピークだった21年の122件・82億ドルと比べると57%減少している。
アーンスト・アンド・ヤング(EY)のグローバル・ライフサイエンス・ディール・リーダー、スビン・バラル氏は、遺伝子治療に対する投資家の関心を回復させるには「より良い方法でより安く製造する必要がある」と指摘する。
ノバルティスなどの企業は、遺伝子治療の研究を続けていると述べている。同社の遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」は、米国で脊髄性筋萎縮症を持って生まれた乳児の95%以上に使用されており、小児向けの開発も進められている。
バーテックス・ファーマシューティカルズは23年に、ゲノム編集技術CRISPRを使った世界初の治療「Casgevy」を発売した。対象は鎌状赤血球症だが、24年の売上高はわずか1000万ドルにとどまった。同社のスチュアート・アーバックルCOO(最高執行責任者)は、患者がCasgevyによる治療を受けるためのプロセスを引き続き進めていると強調。ゲノム編集が患者にとって最善の解決策であると信じ、それを追及してきたと述べた。
「障害は解決されると確信」
米FDA(食品医薬品局)のピーター・マークス生物製剤評価研究センター長は、科学的な課題、製造の難しさ、社会実装といった障害は解決されると確信しているとロイターに語った。マークス氏は今月初めの取材で「われわれは規制プロセスを合理化する必要がある。それと製造の改善が組み合わさることでコストを下げるパッケージができ、遺伝子治療は超高額ではなくなる」と指摘した。
遺伝子治療をめぐっては、安全性に対する懸念もある。サレプタ・セラピューティクスは今月19日、同社の遺伝子治療を受けた16歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者が、投与から数カ月後に急性肝不全で死亡したと発表した。
一方、肥満症治療薬は、効果の高い新薬の登場で大きな需要が喚起され、今後数年で市場規模が1500億ドルに達すると予測されている。この分野は昨年、ベンチャーキャピタルから17億5000万ドルの資金を集め、6億3000万ドルだった前年から3倍に増えた。
世界のバイオ医薬品のベンチャー投資は23年の232億ドルから24年には270億ドルに増加した。ディールフォーマのデータによると、がんが103億ドルで最大のセクターとなっている。
大量に生産して大量に流通させることができる従来の医薬品とは異なり、遺伝子治療はより個別化されており、製造には特殊な装置や材料が必要だ。
ボストン・コンサルティング・グループのバイオ医薬品部門リーダー、プリヤ・チャンドラン氏は「人々は遺伝子治療の将来を信じている」とし、「全体的な経済と政策の状況に課題があるため、投資は減少している」と話した。
業界団体「投資は再び活発化する」
細胞・遺伝子治療の業界団体The Alliance for Regenerative Medicineは、これから新たな試験データが出てくるにつれ、投資は再び活発化すると見ている。同団体の広報担当者は「大手のバイオファーマは、遺伝子治療のパイプラインを進化させ、より患者の多い疾患に取り組むために投資を続けている」と語った。
ファイザーは今年2月、血友病Bに対する遺伝子治療薬「Beqvez」の販売を中止したが、このとき同社は需要が弱いと述べた。同社は23年に初期段階の遺伝子治療研究から撤退。開発を進めていた筋ジストロフィー向け遺伝子治療薬も昨年、後期臨床試験で期待通りの結果が得られず、取り組みを断念した。
ブルーバードは鎌状赤血球症向けのLyfgeniaを含め、3つの遺伝子治療を米国で販売している。Lyfgeniaは、バーテックスとクリスパー・セラピューティクスのCasgevyと競合する。
大手製薬企業が主力製品の特許切れに直面する中、高額な遺伝子治療が患者、医師、保険会社に受け入れられ、持続的な利益をもたらすというエビデンスは重要性を増している。
モルガン・スタンレーは、大手米バイオ医薬品企業の25年の売上高のうち、35%にあたる約1750億ドルが10年以内に特許切れになると推定している。EYのバラル氏は「企業はパイプラインを補充し、ギャップを埋めることができるよう、十分なスピードで投資を行おうとしている。これは資本配分の選択だ」と語った。
(取材:Deena Beasley、編集:Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)