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【展望2025】ドラッグ・ロス解消、問われる政府の本気度…米トランプ政権発足、製薬業界への影響注視

更新日

前田雄樹

2025年は製薬業界にとってどんな年になるでしょうか。今年の業界関連のトピックスをピックアップし、新年を展望します。

 

 

中間年改定、全体の53%対象に実施

4月に行われる2025年度薬価中間年改定は、改定対象範囲を一律に設定した過去2回の中間年改定と異なり、医薬品のカテゴリごとに対象範囲が定められました。「創薬イノベーションの推進や医薬品の安定供給確保の要請にきめ細かく対応する」(昨年12月の官房長官・財務・厚生労働の3大臣合意)とし、新薬創出加算の対象品目と後発医薬品は平均乖離率(5.2%)の1倍超、新薬創出加算の対象でない新薬は0.75倍超、長期収載品は0.5倍超に該当する品目が改定の対象となります。

 

厚労省の試算によると、対象品目は全体の53%にあたる9320品目。前回の中間年改定(23年度)改定の69%から縮小するものの、半分以上の品目が対象となります。政府は改定による薬剤費の削減額を2466億円としており、影響は小さくありません。

 

 

今回の中間年改定では、23年度に続いて臨時的に不採算品再算定を実施。2000年代に入って初めてとなる最低薬価の引き上げも行われます。過去2回の中間年改定では行われなかった改定時加算も適用。一方、後発医薬品参入などに伴う新薬創出加算の累積額控除も中間年改定としては初めて行われ、対象品目は1年前倒しで薬価の引き下げを受けることになります。

 

中間年改定をめぐっては昨年、製薬業界が廃止を主張し、一時その機運も高まりましたが、結局は予定通り行われることで決着しました。福岡資麿厚労相は「メリハリのついた対応になった」としていますが、業界側は「ネガティブな政策が決定され遺憾。ドラッグ・ラグ/ロスの解消が後退しかねないことを懸念する」(日本製薬工業協会)、「業界にとってより厳しい環境になる」(日本ジェネリック製薬協会)などと反発しています。

 

波紋呼ぶ「創薬支援基金」

今年は、26年度薬価制度改革に向けた議論の年です。前回の24年度の制度改革ではイノベーション評価の充実が図られ、業界は「イノベーション重視の国に変貌を遂げる始まり」(日本製薬工業協会・米国研究製薬工業協会・欧州製薬団体連合会)と受け止めました。政府は昨年、国内外の製薬企業などを集めて「創薬エコシステムサミット」を開き、ドラッグ・ロス解消と創薬力強化に向けた戦略目標を策定。規制緩和や支援策を次々と打ち出しています。

 

そうした流れを断ち切るかのように行われる25年度中間年改定に、業界には失望が広がっています。昨年末には、新薬創出加算品目を持つメーカーに収益に応じた資金の拠出を義務付け、創薬スタートアップの研究開発を支援する「創薬支援基金(仮称)」の創設を政府が検討していることも明らかになり、米国研究製薬工業協会(PhRMA)と欧州製薬団体連合会(EFPIA)が「市場の魅力をさらに低下させる」として反対の声明を発表するなど、波紋を呼んでいます。

 

政府は今年、戦略目標の達成に向けた取り組みを本格化させるとともに、「官民協議会」を設置して投資や人材を日本に呼び込むための策について検討していくことにしています。

 

ただ、PhRMAとEFPIAは「予見性があり支援的な保険償還の環境がなければ、目標は達成できなくなり、官民協議会の努力も無駄になる。厚労省が誤った政策を撤回するまで、これらの取り組みへの参加を留保する」と表明しており、不透明感も漂ってきました。PhRMAとEFPIAは「適切な政策環境とパートナー間の信頼関係がなければ、ドラッグ・ロスの防止や投資の呼び込みは実現できない」としています。こうした声に政府はどう応えるのか。本気度が問われます。

 

薬機法改正「安定供給責任者」設置義務化など

厚労省は今年の通常国会に医薬品医療機器等法(薬機法)の改正案を提出する方針です。

 

厚生労働省の厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会は昨年末、薬機法改正に向けた議論をまとめました。とりまとめは、▽製造販売業者等による品質保証責任の明確化▽品質の確保された医療用医薬品の供給▽ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けた創薬環境・規制環境の整備▽医薬品へのアクセスの向上と医薬品の適正使用の推進――の4本柱となっています。

 

安定供給をめぐっては、医療用医薬品の製造販売業者に対して「安定供給体制管理責任者」(仮称)の設置を義務付け、安定供給に必要な取り組みを薬機法上の遵守事項として規定。限定出荷や供給停止の届け出義務も定め、怠った場合の罰則についても今後検討します。

 

品質確保に向けては、 2019年の薬機法改正で実現しなかった責任役員の変更命令を盛り込みました。課徴金制度の対象を品質や製造の不正に拡大することも検討されましたが、法制上困難との理由で今回は見送られました。

 

ドラッグ・ラグ/ロスの解消では、条件付き承認制度を見直します。重篤かつ代替治療がないなど医療上の必要性が高い医薬品を対象に、探索的試験の段階で臨床的有用性が合理的に予測可能な場合に承認を与える制度に変更。追加データの内容によっては承認を取り消すことができる規定を設けます。 現在の条件付き承認制度は承認取り消しの規定がなく、探索的試験で一定の効果が確認できた場合や、検証的試験の途中での適用を想定しており、欧米の類似の制度と比べて承認件数が少ないことが課題として指摘されていました。

 

 

25年度政府予算に関する厚労・財務両省の閣僚折衝では、後発品業界の再編を後押しする基金を医薬基盤・健康・栄養研究所に設置することで合意しました。後発品業界の再編をめぐっては今年、イスラエルのテバファーマスーティカル・インダストリーズが4月1日までに武田テバの全株式を売却し、同社はジェイ・ウィル・パートナーズとメディパルホールディングスの傘下に入ります。 政府の24年度補正予算には、品目統合などを行う企業を支援する事業が盛り込まれており、再編に向けた動きがさらに出てくるか注目されます。

 

肥満症薬「ゼップバウンド」登場へ

国内市場には今年も注目の新薬が登場します。

 

日本イーライリリーの肥満症治療薬「ゼップバウンド」(一般名・チルゼパチド)は昨年12月に承認を取得しており、今年発売となる見込み。肥満症では昨年、ノボノルディスクファーマの「ウゴービ」が発売されており、市場競争が始まります。

 

中国発の製薬企業ベイジーンは、BTK阻害薬「ブルキンザ」(ザヌブルチニブ)で日本市場に参入する見通し。がん領域では、第一三共が自社にとって2つ目の抗体薬物複合体(ADC)となる抗TROP2ADC「ダトロウェイ」(ダトポタマブ デルクステカン)の発売を予定しているほか、アムジェンはDLL3とCD3を標的とする二重特異性抗体「イムデトラ」(タルラタマブ)を市場投入します。

 

バイオジェンが発売を見込む「クアルソディ」は、SOD1(スーパーオキシドジスムターゼ1)遺伝子変異を有する筋萎縮性側索硬化症(ALS)の遺伝的原因を標的とする薬剤として期待。ファイザーが申請中の片頭痛治療薬リメゲパントは、経口のCGRP受容体拮抗薬として注目されています。

 

 

海外に目を向けると、米国では今月20日、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任します。保健福祉省(HHS)長官に指名されているロバート・F・ケネディ・ジュニア氏はこれまで、FDA(食品医薬品局)の「解体」を主張し、肥満症治療薬に批判的な考えを示すなどしており、混乱を巻き起こす可能性もあります。中外製薬の奥田修社長CEOは「トランプ政権になって変わること、変わらないことがあるだろう。サイエンスに懐疑的な考えを持つケネディ氏のHHS長官就任がどういう影響を及ぼすのか注目していかなければならない」と話しており、業界は動向を注視することになります。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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