今年もいろいろなことがあった製薬業界。2024年の主なできごとを2回に分けて振り返ります。
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政府「創薬力強化」へ戦略目標
2024年、製薬業界は政策的に追い風が吹きました。ドラッグ・ロスが顕在化し、日本の医薬品産業の国際競争力低下が叫ばれる中、政府は4月の薬価制度改革でイノベーションに対する評価を拡充。日本での新薬開発を促すための規制緩和や、創薬への支援策が次々と打ち出されました。
政府の「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」(創薬力構想会議)は、昨年12月の立ち上げから約半年間の議論を経て今年5月に中間とりまとめを公表。これを踏まえて政府は7月、▽2026年度までにドラッグ・ロス品目の開発に着手▽創薬スタートアップへの民間投資額を倍増▽企業価値100億円以上のスタートアップを28年までに新たに10社輩出――といった目標を策定しました。
同時に政府は、国内外の製薬企業や業界団体を首相官邸に招いて「創薬エコシステムサミット」を開催。当時の岸田文雄首相は「日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』とすることに政府がコミットしていく。医薬品産業を成長産業・基幹産業と位置付け、民間の投資を呼び込む体制・基盤の整備に必要な予算を確保し、創薬力構想会議の提言を具体的に進めていくことを国内外に約束する」と宣言しました。
補正予算、創薬力強化などに1000億円
厚生労働省は9月、日本に拠点を持たない海外の製薬企業を対象に、英語での申請資料の提出を容認。10月には承認申請の要件を一部緩和し、▽海外で主要な臨床試験が終了している▽患者数が極めて少ないなどの理由で、日本で臨床試験を行うのが困難▽すでに得られているデータから日本人でのベネフィットがリスクを上回ると見込まれる――の3条件をすべて満たした場合、日本人データがなくても承認申請を可能としました。11月にはPMDA(医薬品医療機器総合機構)が初の米国拠点をワシントンに開設。現地の新興企業に日本の薬事規制をアピールするなどして参入を促します。
12月に成立した24年度補正予算には、創薬力強化や安定供給確保に向けて約1000億円を計上。臨床試験体制の構築や細胞・遺伝子治療の製造拠点の整備、バイオ人材育成への支援などが盛り込まれました。
中間年改定 カテゴリ別に対象範囲設定
4月の薬価制度改革では、欧米から遅れることなく日本で承認を取得した新薬を評価する「迅速導入加算」が新設。同加算は、今年新たに薬価収載された57の新薬のうち4つに適用されました。
新薬創出加算の見直しでは、国内での新薬開発実績に応じて加算額を調整する企業要件・企業指標を廃止し、有用性系加算の評価項目を拡充。小児加算は高い加算率を適用しやすくし、市場拡大再算定の「共連れルール」は免疫チェックポイント阻害薬など一部の領域を除外しました。
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製薬業界は24年度の薬価制度改革を「これまで行われてきた政策のネガティブな流れを変える重要な一歩」(日本製薬工業協会・米国研究製薬工業協会・欧州製薬団体連合会)と評価。3団体によると、会員企業の間ではすでに▽申請・発売時期の前倒しの検討▽小児開発の検討▽開発予定のなかった製品の開発決定――といった動きが出てきているといいます。
「メリハリついた対応に」
一方、中間年改定は、一時廃止の機運が高まったものの、結局、25年度も予定通り行うことで決着しました。
改定の対象範囲は、一律で平均乖離率の0.625倍としていた過去2回の中間年改定の基準を見直し、▽新薬創出加算品と後発医薬品は平均乖離率の1倍▽長期収載品は0.5倍――などと医薬品のカテゴリごとに設定。全体に占める改定対象品目の割合は、前回(23年度)の69%から53%に縮小しますが、依然として半分以上の医薬品が改定を受けることになります。
25年度改定では、これまでの中間年改定で行われてこなかった新薬創出加算の累積額の控除を実施。既収載品への改定時加算も中間年改定では初めて行われます。最低薬価は、消費増税に伴う対応を除いて2000年度以降で初の引き上げを実施。不採算品再算定は前回に続いて臨時的に行います。福岡資麿厚生労働相は「メリハリのついた対応になった」と語りましたが、25年度改定による薬剤費削減額は2466億円に上り、製薬業界は反発しています。
後発品、業界再編号砲
医薬品の供給不安には、まだ終わりが見えません。日本製薬団体連合会が毎月公表している供給状況の調査によると、今年11月末時点で通常出荷を行っている医薬品は全体の81.0%で、1年前の75.6%から5ポイント増加。除々に改善へと向かっているものの、依然として全体の2割近くが限定出荷または供給停止となっています。
厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」は5月、5年程度の集中改革期間を設定して安定供給体制の確保や生産効率の向上、企業間の連携・協力などの取り組みを進めていくべきとの提言を盛り込んだ報告書を公表。7月には当時の武見敬三厚労相が主要後発品メーカーの社長を集めて業界再編を要請し、「1成分あたり5社程度が適当」との見解を示しました。
武田テバ、JWP・メディパル連合傘下に
業界側でも動きが出てきました。MeijiSeikaファルマは「コンソーシアム構想」を提唱し、サワイグループホールディングスは一時、他社品の生産請け負いを呼びかけました。12月には、イスラエルのテバファーマスーティカルズ・インダストリーズが、武田テバをジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)とメディパルHDの共同出資会社に売却すると発表。JWP・メディパルHD連合はすでに、日医工と共和薬品工業を傘下に収めており、業界再編をリードしつつあります。
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24年度の薬価制度改革では、後発品メーカーの供給体制などを評価して薬価に反映する仕組みを導入。参入企業の多い後発品の収載時薬価を低く抑えるルールも厳格化されました。今年収載された後発品は140品目と前年を36品目下回って過去最低を更新。初後発では参入企業数が1~2社程度と少ない成分も目立ち、淘汰は確実に進んでいます。
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10月には、長期収載品の選定療養がスタートしました。患者の薬剤選択も変化しており、後発品メーカーからは「シェアの上昇を感じる」といった声も聞かれます。長期収載品を扱う先発品メーカーは業績への影響を慎重に見極めています。来年1月から2月にかけて発表される各社の第3四半期決算では、より具体的な影響が明らかになりそうです。
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