米アムジェンが日本での事業展開を加速させています。アステラス製薬との合弁を解消して6年半が経過。売上高は2023年に867億円まで拡大し、大型新薬の投入によってさらなる売り上げ拡大を見込みます。日本法人のスザナ・ムルテイラ社長らが12月13日に記者会見し、継続的な成長に自信を示しました。
23年は売上高879億円
アムジェンが最初に日本市場に参入したのは1993年。当初は、自社開発した新薬を他社に販売委託する形で事業を展開していました。07年から自社販売体制の構築に取りかかりましたが、時期を同じくしてエリスロポエチン製剤「エポジン」などの主力品で発生した安全性の問題を契機に米国本社が世界的な人員削減を実施。日本では骨粗鬆症やがんによる骨病変の治療薬として開発していたデノスマブを第一三共に導出し、08年には日本法人も売却して武田薬品工業の子会社(武田バイオ開発センター、14年に武田本体に統合)となりました。
こうした経緯でいったん日本市場から撤退しましたが、13年10月にアステラス製薬との合弁会社「アステラス・アムジェン・バイオファーマ」(AABP)を設立して再参入。当初から20年をめどに米アムジェンの完全子会社とする契約で、同年4月にこれを実現しました。アステラスとはその後も3製品でコ・プロモーションを継続しています。
「向こう3年で2桁成長」
再参入後に日本市場に投入した製品はAABP時代を含めて7つ。第1弾となった高コレステロール血症治療薬の抗PCSK9抗体「レパーサ」は16年4月に発売されましたが、抗がん剤「オプジーボ」とともに「最適使用推進ガイドライン」の対象第1号となり、使用に対して厳しいしばりがかかりました。その後、心血管イベントの抑制効果が発表されたりもしましたが、ピーク時予想売上高492億円に対して23年度はアステラスの販売額で67億円にとどまっています。
一方、急性リンパ性白血病治療薬「ビーリンサイト」は、でピーク時23億円の予想を大幅に上回る112億円を23年度に売り上げ、前年度から42.6%伸びました。骨粗鬆症治療薬「イベニティ」は488億円で、アステラスでは抗がん剤「イクスタンジ」に次ぐ売り上げ規模に育っています。
アムジェン日本法人の売上高は、21年の563億円から22年に686億円、23年は879億円へと上昇カーブを描いています。同社は「向こう3年間で2桁成長を達成」する見込みとしており、1000億円の大台は確実に視界にとらえています。
「テッペーザ」成長牽引、肺がん治療薬を来年投入
中期的に業績を牽引するのは、今年11月に発売した活動性甲状腺眼症治療薬「テッペーザ」です。ピーク時の売上高予想は494億円で、これには今後適応を追加する予定の非活動性甲状腺眼症も含まれているといいます。薬価は97万9920円と高額で、薬価算定では有用性加算Ⅰ(45%)と市場性加算Ⅰ(5%)がつきましたが、原価の開示度が低かったため加算係数はゼロでした。治療にかかる薬剤費は、体重60㎏の患者の場合、ワンクール8回(23バイアル)の投与で約2250万円かかる計算です。
甲状腺眼症には長らく治療法がありませんでした。初期にはドライアイアや異物感、充血などの症状を呈しますが、最重症例では失明を引き起こす可能性もあり、同社はアンメット・ニーズに応える選択肢になると期待しています。国内の有病者数は約3万5000人で、ピーク時の投与患者数は3400人と少ないものの、発売初年度(12月まで)で40~50症例への投与を想定しています。
日本は「最も伸びている成長市場」
ムルテイラ社長は今年6月の就任にあたり、「アムジェン・ジャパン2030ビジョン」を掲げました。これに沿って31年までに12製品の発売と38の適応追加を実現したい考えです。新薬開発は循環器疾患、がん、骨疾患、炎症・免疫性疾患、神経疾患など幅広く、後期の開発段階にも複数の新薬候補があります。
アムジェン日本法人のスザナ・ムルテイラ社長(左)と米国本社ローバル・コマーシャル・オペレーションズ上級副社長のマード・ゴードン氏
来年の発売を予定するのが、すでに厚生労働省の部会で承認が了承されている小細胞肺がん治療薬の次世代BiTE抗体「イムデトラ」(タルラタマブ)。片頭痛の発症抑制薬「アイモビーグ」(エレヌマブ)、骨粗鬆症治療薬「イベニティ」(ロモソズマブ)、乾癬治療薬「オテズラ」(アプレミラスト)は、小児適応の追加が臨床第3相(P3)の段階にあります。注目領域の肥満症・2型糖尿病では、GIPR抗体GLP-1ペプチド複合体がP2に控えています。
13日の記者会見にムリティラ社長とともに出席したグローバル・コマーシャル・オペレーションズ上級副社長のマード・ゴードン氏は、日本を「最も伸びている成長市場」と評価。これまで世界に送り出した新薬の6割以上がファースト・イン・クラスだとし、自社製品の革新性を強調しました。
豊富なパイプラインの一方で、営業体制の構築は1つの課題と言えそうです。同社では20年の合弁解消から現在まで4人の社長(うち1人は暫定)が就任し、昨年6月にはイベニティを担当するスペシャリティケア事業本部で早期退職者を募集しました。現場からは安定的な組織運営を求める声も聞かれます。