巨額赤字や親会社による売却話に揺れる住友ファーマと田辺三菱製薬。化学系製薬2社の経営に注目が集まる中、2024年4~9月期決算では両社とも予想を上回る業績を確保しました。ただ、両社の親会社は「あらゆる選択肢を検討している」としており、依然として先行きは不透明です。
住友ファーマ、立て直しに手応え
24年3月期に3549億円の営業赤字を出した住友ファーマは、今年4~9月期の売上収益が前年同期比18.4%の1807億円となり、通期予想に対する進捗率が53.5%に達しました。通期で10億円の黒字を見込むコア営業利益はゼロ(厳密には3800万円の赤字)で、前年同期の658億円の赤字から大きく改善。木村徹社長は上期の業績について「計画通りかそれ以上」とし、北米で販売する「基幹3製品」の伸びや研究開発費の削減による立て直しに手応えを示しました。
命運を握る基幹3製品の売り上げは概ね順調と言えそうです。前立腺がん治療薬「オルゴビクス」は通期予想579億円に対して上半期の実績が355億円で、進捗率は61.3%となりました。過活動膀胱治療薬「ジェムテサ」は252億円の実績で進捗率は45.9%とやや弱く、子宮筋腫・子宮内膜症治療薬「マイフェンブリー」は60億円の33.8%と遅れています。3製品トータルでは、オルゴビクスの牽引によって1308億円の予想に対して667億円(進捗率51%)を確保しました。
3製品の動向には円安も影響しており、ドルベースで見ると上期の実績は計4億3700万ドルと、通期予想9億400万ドルに対して進捗率は48.3%にとどまります。ただ、成長製品なだけに下期はさらに市場を拡大するとみられ、マイフェンブリーを除けば計画達成がある程度見通せる状況です。同社は通期の想定為替レートを1ドル=145円に置いています。
住友化学 重点事業からファーマ除外
一方、国内事業は戦線の縮小が避けられません。9~10月に募集した早期退職には604人が応募し、今年3月末時点で910人いたMRは450人へと半減します。木村社長は「コール数低下によって下期の収益はある程度低下する」と予測。コスト削減は果たせたものの、営業力が細ることで共同販促など製品導入も難しくなります。引き続き他社との販売提携に向けた交渉は行っているものの、ディテール数が限られてくるため相応の規模の案件にならざるを得ないでしょう。
今期の国内売上収益予想は1003億円(輸出や一時金収入などを含む)。これを450人のMR数で単純に割ると、1人あたりの生産性は約2.2億円となります。これでもまだ業界平均には届きませんが、当面の人員の過剰感は解消され、国内事業の赤字転落は免れそうです。
研究開発にも大ナタが振るわれました。再生・細胞医薬事業は親会社の住友化学が主導する合弁会社(今年度中に発足予定)に移管されることになっており、本社の研究開発部門は120人減って440人体制に縮小。研究開発費は通期で45%の減少を計画しています。
通期のコア営業利益10億円の予想には、事業売却を中心とするその他収益200億円が含まれます。事業売却について木村社長は「複数の交渉案件がある」として年度末までに成約できる見通しを示しており、実現すればその分が利益に上乗せされます。
必達目標であるコア営業利益の黒字化は見えてきたものの、親会社の住友化学は「あらゆる選択肢を排除しない」(岩田圭一社長)との姿勢を崩していません。10月1日付の組織再編では、「低分子創薬はシナジーが見つけにくい」(同)として住友ファーマを4つの重点事業から外しており、先行きは予断を許しません。
三菱ケミG、事業構造改革「聖域なく粛々と選別」
三菱ケミカルグループによる売却が報じられた田辺三菱製薬も、4~9月期決算は概ね順調でした。北米で販売する筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」の経口剤が好調で、国内でも糖尿病治療薬「マンジャロ」が薬価ベースで129億円を売り上げ急成長。コアベースの営業利益は前年同期比90億円増の414億円に拡大しました。
コア営業利益の通期予想は、期初の143億円減益から一転して47億円増益の610億円に上方修正。フルベースの営業利益は、希望退職者募集に伴う関連費用を計上したことで減益となりますが、売上収益とともに期初の予想からは上振れします。
10月1~11日に行った希望退職者の募集は、45歳以上かつ勤続5年以上の社員が対象。該当する社員は2200人でしたが、応募者数は開示していません。住友ファーマが604人の応募で約54億円の費用を計上したことを考えると、特別退職金として169億円ほどを見積り計上した田辺三菱でも少なくない募集があったと予想されます。
三菱ケミカルGは今月13日に経営方針説明会を予定しており、田辺三菱の今後についても方向性が示される可能性があります。1日の決算説明会で筑本学社長は、事業構造改革について「聖域はなく、粛々と選別していく」と話しました。前社長のジョンマーク・ギルソン社長は就任時、事業選別の判断基準として▽市場が魅力的▽収益が上がる▽競争優位性がある――の3点を挙げていましたが、筑本社長も同様の視点で見極める意向です。
住友ファーマと田辺三菱の4~9月期決算は概ね順調と言える内容でしたが、親会社が製薬事業をどう評価し、位置付けていくのか、それぞれの判断が注目されます。