中国発の新薬が相次いで日本で承認されています。今年はすでに抗がん剤「ハイイータン」「フリュザクラ」の2品目が承認され、ベイジーンの血液がん治療薬「ブルキンザ」も承認間近。中国企業が行うがん領域の臨床試験数は米国を上回って世界一となっており、日本市場でも存在感が高まっています。
ブロックバスター「ブルキンザ」年内にも承認
中国バイオテックの急成長を象徴する企業の1つ、ベイジーン(百済神州)がいよいよ日本市場に参入します。第1号の製品となるBTK阻害薬「ブルキンザ」(一般名・ザヌブルチニブ)は、今月30日の厚生労働省薬事審議会医薬品第二部会で承認の可否が審議される予定。承認了承となれば年内にも承認され、通常通り手続きが進めば来春に薬価収載となる見通しです。
ブルキンザが申請中の適応症は「慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)、原発性マクログロブリン血症、リンパ形質細胞リンパ腫」。国内ではすでに4つのBTK阻害薬が販売されていますが、ブルキンザは小野薬品工業の「ベレキシブル」(チラブルチニブ)やアストラゼネカの「カルケンス」(アカラブルチニブ)とともに第2世代の共有結合型BTK阻害薬に分類されます。
海外では、2019年に中国発の新薬として初めて米国で承認を取得。21年には欧州でも承認されました。ベイジーンはブルキンザを「ベストインクラスのBTK阻害薬」とうたっており、23年の世界売上高は前年比128.5%増の12億9000万ドル(約1935億円)とブロックバスターに成長。今年上半期は11億2591万ドルを売り上げ、前年同期比116.7%増と高成長が続いています。
ベイジーンは2010年に設立され、分子標的薬や免疫療法薬を中心にがん領域に特化して新薬の開発・商業化を手掛けています。23年の会社全体の売上高は24億5878万ドル(約3688億円)で、前年から73.7%増加。ブルキンザに次ぐ主力製品の抗PD-1抗体「TEVIMBRA」(チスレリズマブ)は23年に欧州で、24年に米国で承認を取得し、日本でも食道扁平上皮がんの適応で申請中です。
「ハイイータン」「フリュザクラ」承認
ブルキンザが年内に承認されれば、日本では今年、中国発の新薬が3つ承認されることになります。
今年6月には、上海に本社を置くハイへ・バイオファーマが開発したMET阻害薬「ハイイータン」(グマロンチニブ)について、日本法人の海和製薬が承認を取得しました。適応は「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」。販売では大鵬薬品工業と提携しており、両社が10月に発売しました。
9月には、武田薬品工業がハッチメッドから導入したVEGFR阻害薬「フリュザクラ」(フルキンチニブ)が大腸がん治療薬として承認。11月の薬価収載が想定されます。武田薬品は23年にハッチメッドとライセンス契約を締結し、一時金4億ドル+マイルストン最大7億3000万ドルで中国を除く全世界で同薬を開発・商業化する権利を取得しました。同薬は、米国で23年11月、欧州で今年6月に承認を取得しており、今年4~6月の四半期売上高は100億円を超えています。
21年にはHDAC阻害薬「ハイヤスタ」(ツシジノスタット)も承認されました。同薬はバイオベンチャーの深圳微芯生物科技(Shenzhen Chipscreen Biosciences)が創出し、中国発の新薬候補を導入してグローバル開発する米HUYABIO Internationalに導出。日本ではMeijiSeikaファルマが権利を持っています。
がん治験数、中国企業が世界トップ
中国は、今やがん治療薬の一大開発国となっています。
米IQVIAインスティテュートが今年5月に公表したレポートによると、2023年に世界で行われたがん領域の臨床試験のうち、中国に本社を置く企業による試験は全体の35%を占め、34%の米国を上回ってシェアトップとなりました。中国のシェアは13年は5%でしたが、この10年で急増しており、レポートは「中国企業が世界的な新薬開発で果たす重要な役割を浮き彫りにしている」としています。
さらに同じレポートによると、19~23年の5年間に中国で発売されたがん領域の新規有効成分は83となり、81の米国を上回りました。中国で発売された83新薬のうち37新薬が海外では販売されていない製品で、レポートは「これまでに見られなかった国内先行または国内のみのイノベーションのパターンが始まった」と分析。14~18年の5年間に中国で発売された24の新規有効成分はすべて、海外で先に発売された新薬を遅れて国内に導入したものでした。
中国企業による新薬開発は活発化しており、たとえばベイジーンは臨床段階で50近いプログラムを走らせています。中国発の新薬は今後も存在感を高めていきそうです。