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ニュース解説

武田・アステラス・三井住友銀の合弁が始動、韓国企業の進出本格化…アイパークの今を藤本社長に聞く

更新日

亀田真由

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)を運営するアイパークインスティチュートの藤本利夫社長がAnswersNewsの取材に応じ、エコシステム構築の現状と展望について語りました。湘南アイパークでは今夏、武田薬品工業とアステラス製薬、三井住友銀行による創薬シーズ事業化支援の合弁会社が発足。昨年から取り組んでいる日韓連携では、韓国からスタートアップ企業の進出が本格化しており、すでに日本での臨床試験開始を視野に入れている企業もあります。

 

 

シコニア「3年以内に最初のスタートアップ設立」

8月に湘南アイパークに発足した「シコニア・バイオベンチャーズ」は、武田薬品とアステラスがそれぞれ33.4%、三井住友銀行が33.2%を出資。創薬シーズの事業化やスタートアップ企業の設立を支援し、日本発の新薬の世界展開を目指します。社名のシコニアはコウノトリの学名。同社の社長を兼ねる藤本氏は「(シコニア設立は)僕が言い出しっぺで、まだアイパークが武田薬品の傘下にあったころから構想していました」と明かします。

 

アイパークインスティチュートの藤本利夫社長

 

アイパークは2018年に武田薬品が自社研究所を開放する形でスタートしましたが、当初は大企業の入居が中心で、スタートアップの集積が課題となっていました。根底にある要因の1つとして藤本氏が感じていたのが、「アカデミアのシーズが産業界に結び付いてこないこと」。大学発ベンチャーの数は増え続けているものの、ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けるフェーズになるまでには、大きなギャップがあると指摘します。

 

「ほとんどのアカデミア発ベンチャーはバリデーションに苦労していて、VCや製薬企業が興味を持つレベルまでシーズを育てることができていない。だったら、産業化に向けたバリデーションを一手に担う会社を作ろうと考え、できたのがシコニアです」(藤本氏)。シコニアは、アカデミアから譲り受けたシーズを企業目線でバリデーションし、製品化の可能性を評価。次のフェーズに進めるとなれば、スタートアップを設立します。成功の可能性を高めることで、VCや製薬企業からの投資を呼び込む狙いです。

 

藤本氏は「シコニアから生まれるスタートアップは米国で臨床開発や資金調達を行う会社にしたいので、本社は米国に置く予定です。われわれが関わるのはシリーズAの手前までで、本格的な資金調達が視野に入ってきたら主体は米国のグローバルVCに任せたい」としています。起業家は米国のグローバルマネジメントプールも活用して手配する方針ですが、将来的には日本から起業家を育てることを目指しており、藤本氏は「プロセスに日本の起業家の卵を交えていきたい」と話します。アイパークインスティチュートとは提携の形で協力関係を築いており、海外VCとのネットワーク形成などで相互に連携していくことを視野に入れています。

 

出資企業拡大へ交渉

藤本氏がシコニアの構想のモデルになったと言うのが、武田薬品や米ジョンソン・エンド・ジョンソン、独バイエルが出資するイスラエルのバイオインキュベーター「FutuRX」。2010年代に発足し、アセットベースの企業をいくつも生み出しています。

 

藤本氏は「将来的にはシコニアを『Flagship Pioneering』(フラグシップ)のようにしたい」とも話します。フラグシップは米モデルナなど数多くのバイオテックを立ち上げたベンチャースタジオで、自前で数十人の研究者を抱えています。シコニアは現在、少数精鋭のサイエンティストの採用に向けて動いているところですが、藤本氏は「シコニアの研究母体をどんどん拡大させ、さまざまなイノバティブなアイディアを醸成し、会社を作っていく。まさにコウノトリのようにスタートアップを海外に羽ばたかせられる会社にしたい」と展望。さらなる出資を募るべく、複数の企業と交渉を進めていることも明かしました。

 

シコニアではまず、アカデミアのシーズに取り掛かる前に、事業モデルの検証も兼ねて「企業で戦力外となったシーズ」のアセット化を目指します。来年初頭には評価に向けた実験を開始し、3年以内に最初のスタートアップを設立するのが目標。現在は、シーズの獲得に向け、出資元の武田薬品やアステラスをはじめ複数の企業にアプローチしているといいます。

 

進出の韓国スタートアップ「来年にも日本で臨床試験」

アイパークは、昨年11月に韓国の行政機関である中小ベンチャー企業部と、今年1月に同国の五松(オソン)先端医療産業振興財団(KBIOHealth)とそれぞれ提携。大企業のネットワークを持つ日本と、多くのスタートアップが育ちつつある韓国が相互に協力し、エコシステムの構築に取り組んでいます。

 

今年9月には韓国のバイオスタートアップ8社が湘南アイパークへの入居を開始しました。8社は細胞治療など再生医療の技術を持つ企業が中心で、藤本氏は「日本のどの企業と連携したいか、あるいはどういった製品を日本で開発・上市したいか。目的が明確な企業が集まっている」と評価。日本の大手製薬とのつながりや、条件付き早期承認制度を活用しての早期市場投入を視野に入れる企業があると言います。

 

入居企業の1つである再生医療ベンチャー「イップセル」のジヒョン・ジュCEOは、横浜市で今月11日に開かれたBioJapanのセミナーで、リードパイプラインである変形性膝関節症治療薬「MIUchon」(iPS細胞由来の軟骨細胞からなる細胞治療)について、「日本での治験計画届出(IND)を計画している」と表明。韓国でも最近、臨床試験の開始が認められたばかりと言いますが、「日本でも来年後半には臨床試験を開始したい」と話しました。韓国と日本をステップに、世界への進出を目指す考えです。

 

韓国イップセルのジヒョン・ジュCEO

 

一方、アイパークもKBIOHealthを通じて3月に韓国に拠点を構え、韓国スタートアップとのネットワークづくりを強化しています。BioKoreaなどのイベント参加を通じてさらに数社がアイパークへの入居を検討しているといい、取り組みの拡大が期待されます。

 

来年にも細胞の「お試しGMP製造」サービス

再生医療の分野では、スタートアップによる開発を加速させる支援サービスの構築も進みます。その1つが、賃貸CPC(細胞培養加工施設)の設置構想。来年をめどにアイパークの母屋の一角にCPCユニットを建設し、いわば「お試しGMP製造」ができる仕組みをつくることを目指しています。

 

藤本氏はその狙いを「再生医療スタートアップにとって大きなネックとなるのが製造設備への投資。あとの製造を考えるとある程度大きな施設が必要ですが、再生医療には不確実性が伴うため、スケールアップできないことを理由に開発中止へと追い込まれることもあります。こうしたリスクを最小限にし、製造へ移るハードルを下げたい」と話します。

 

管理体制の整った母屋を活用することで比較的低コストでの建設が可能だと見ており、ソフト面のケイパビリティはCDMOに人材を派遣してもらうことで賄う計画。「研究から治験製造まで一貫して繋げることができ、研究拠点をアイパークに置くメリットも大きくなる」(藤本氏)とし、さらなるスタートアップの集積につなげる考えです。

 

アイパークそのものの拡張も視野に入れており、現在5棟ある研究棟の横に、新たな研究棟を建設することを構想しています。藤本氏は「現在、生物棟・化学棟を合わせた占有率は95%以上。ウェットラボへのニーズは底堅い」とし、「できれば28年には新棟をオープンしたい」と語りました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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