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「多様性を日本にも」湘南アイパークが「日韓バイオエコシステム」の構築に動くワケ

更新日

亀田真由

湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)が、韓国のバイオエコシステムとの連携に動き出しています。両者は、スタートアップが中心の韓国バイオクラスターと、大企業も多く入る湘南アイパークを有機的に結びつけ、再生医療分野を中心に国境を越えたエコシステムを構築したい考え。運営会社アイパークインスティチュートの藤本利夫社長は、連携によって「スタートアップの多様性が日本に生まれてくる」と期待します。

 

 

日韓連携で互いの弱点を補完

湘南アイパークが韓国のエコシステムとの連携に動き始めたのは今年に入ってから。五松先端医療産業振興財団や中小ベンチャー企業振興公団といった同国の行政機関が相次いでアイパークを訪れたのをきっかけに、協力に向けた具体的な議論が始まりました。

 

2018年の開所以来、湘南アイパークはボストンやサンフランシスコといった欧米のサイエンスパークとの連携を進めてきました。しかし、エコシステムとしての成熟度があまりに違うため、アイパーク側から貢献できることが少なく、「言うなれば、このまま高望みを続けていいのかという疑問があった」(藤本社長)。韓国との連携が動き出したのは、同国や中国、台湾の台頭をあらためて認識し、関係を見直すべく声をかけようとした矢先だったといいます。

 

現在、両者が互いの課題を補完し合える領域として挙がっている分野の1つが、細胞治療を中心とする再生医療。韓国で続々と立ち上がるスタートアップと、大企業が集まる湘南アイパークを有機的につなげ、産業化を進めていくことを目指しています。神奈川県藤沢市の湘南アイパーク内に韓国のスタートアップが入居することをステップに、アイパークが韓国に拠点を構えることを構想しており、中小ベンチャー企業振興公団と具体的な協議を行っています。

 

韓国では、ソウルや仁川、清州といった地域でスタートアップの集積が進んでおり、中でもプレイヤーが集中するソウルは資金調達額で東京や湘南を上回っています。韓国政府は再生医療をはじめとする先端バイオ技術を国家戦略技術の1つに掲げていて、国を挙げて研究開発や人材育成を支援。2011年には世界で初めて幹細胞治療製品を実用化した実績があります。

 

グローバル市場進出のきっかけに

一方で、産業化には課題があります。再生医療製品の米国承認はいまだ叶わず、韓国国内でも2015年以降は製品化が途絶えているのが現状。規制やガイダンスが整っておらず、INDひとつ行うにも時間がかかる環境であることが影響しています。

 

今月11日、横浜市で開かれたBioJapanで講演した中小ベンチャー企業振興公団のイ・ビョンチョル氏は、韓国エコシステムの課題について「中小企業が中心でビッグファーマがいない」と指摘しました。

 

産業化に課題を抱えているのは日本も同じです。国内では日本のアカデミアの技術をもとに開発された製品がいくつか承認されていますが、グローバル製品として収益を上げているものはほとんどありません。藤本氏は、現状を打開するにはスタートアップを増やして企業とつなぎ、産業化への道を開いていく必要があるとする一方、現状はスタートアップの数も多様性も欠けていると指摘します。

 

両者は、クロスボーダーに連携することで互いの弱点を補完し、グローバルな競争力を備えたエコシステムが構築できると期待。BioJapanでは、米国市場のみならず、地の利を生かしてインドなどの新興市場への進出のきっかけにもなるのではとの声も出ました。

 

海外企業誘致で多様性、25年までに「次世代治療エコシステム」

湘南アイパークはもともと、武田薬品工業が自社の研究所を開放して始まったサイエンスパーク。田辺三菱製薬やキリンホールディングスなど、オープンイノベーションを求める大手企業を中心に集積が進んできた経緯があり、スタートアップやアカデミアの参画が課題でした。韓国のスタートアップがアイパークのエコシステムに入ってくることは、こうした課題にもはまります。

 

藤本氏は「韓国やその他の国からスタートアップに集まってもらいたい。シリコンバレーも起業家の半分は海外からの移住者。スタートアップを盛り上げていくには、アイパークにも海外企業の存在が必要だと思っていますし、国籍の面からもスタートアップの多様性を広げていきたい」と話します。

 

アイパークインスティチュートの藤本利夫社長

アイパークインスティチュートの藤本利夫社長

 

さらに藤本氏は「東アジアとして大きな魅力あるエコシステムを作り上げることができれば、欧米のメガファーマからの投資も受けやすくなるのではないか」と指摘。アイパークでは、すでに台湾の国家生技研究園区や中国の蘇州工業園区と提携しており、彼らとも国を超えたエコシステムの交流を活性化し、リージョンの魅力を高めていく考えです。

 

再生医療で取り組み活発化、文献翻訳で11社協力

日韓連携がフォーカスする再生医療領域では、湘南アイパーク内での取り組みも盛んになっています。再生医療関連のプレイヤーが増え、これに特化したサービスのニーズが高まってきたためです。

 

その1つの成果として、アイパークに集まる11社とアイパークインスティチュートが共同で細胞医薬品製造に関する英語文献「A-CELL(※)」を日本語に翻訳。9月に一般公開しました。取り組みに参加したのは▽AGC▽中外製薬▽Cytiva▽オリヅルセラピューティクス▽日本ポール▽日立グローバルライフソリューションズ▽三菱商事▽ぺプチグロース▽武田薬品工業▽テルモBCT▽サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ――。翻訳作業と並行して勉強会も開催し、人材育成や製造にかかる課題の共通認識を得たといいます。

 

藤本氏は「A-CELLの取り組みで終わるのではなく、このコンソーシアムを活用して勉強会を行うなり、協働して1つのアセットを育てるなり、プロジェクトを展開できたらと考えています。エコシステムの中でせっかくプレイヤー同士がつながってきているので、韓国も含めてさまざまな主体に入ってもらい、再生医療に特化したエコシステムを作りたい」と展望します。ウェットラボを持つ強みを生かして研究から臨床試験に入る段階に焦点を当てていく考えで、賃貸CPC(細胞培養加工施設)をアイパーク内で回していくことも計画中です。

 

次世代治療では、核酸医薬でも入居するCDMOのエリクサジェン・サイエンティフィックなどを中心に取り組みが進んでいます。再生医療、核酸医薬ともにエコシステム構築の柱となるのは▽施設や機器の充実、サービス・コミュニティの整備▽湘南鎌倉総合病院や国立がん研究センターとの連携による臨床研究への橋渡し▽人材育成支援――の3つ。並行して進め、25年までに次世代治療のエコシステムを形成することを目指します。

 

※細胞医薬品製造のCMCのベストプラクティスをまとめた文献。国際的な再生医療業界団体「Alliance for Regenerative Medicine(ARM)」と米国のバイオ医薬品製造技術研究団体「The National Institute for Innovation in Manufacturing Biopharmaceuticals(NIIMBL)」が22年7月に発表した。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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