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赤字転落の国立大病院、医薬品費増加に悲鳴「高額薬が経営圧迫」…健保連「高額レセプト」は過去最高

更新日

穴迫励二

国立大学病院の赤字が拡大し、健康保険組合の高額レセプト(1カ月の医療費が1000万円以上)が過去最多を更新する中、高額な医薬品が病院経営や医療保険財政に与える影響があらためて注目されています。遺伝子・細胞治療の登場や抗体医薬の普及などが収支を圧迫。中央社会保険医療協議会(中医協)では、アルツハイマー病に対する新薬の市場拡大が注視されるなど、公的医療保険制度の安定性や持続可能性の観点から懸念が示されています。

 

 

国立大病院、法人化後初の赤字

国立大学病院長会議が7月にまとめた2023年度の決算概要(速報値)によると、全国42の国立大学病院の収益は計1兆5657億円(前年度比184億円増)、費用は1兆5716億円(629億円増)。経常損益は前年度の386億円の黒字から60億円の赤字に転落しました。全体で赤字となるのは04年の国立大法人化後、初めて。今年度はさらに赤字が膨らむ見通しで、同会議が10月に発表した24年度の収支見込みは235億円のマイナスとなっています。

 

収支悪化の要因の1つとして同会議が指摘するのが、高額な医薬品や材料の使用の増加です。23年度は、収益全体から交付金などを除いた病院収益1兆3615億円に対し、医薬品費と材料費があわせて6072億円(医薬品費3947億円、材料費2125億円)を占めました。病院収益に対する医薬品費・材料費の割合は44.6%に達しており、12年度と比べると約8ポイント上昇。医薬品費・材料費の増加によって利益率が低下し、老朽化した医療機器の更新に資金を回せなくなるなど、「経営に大きく影響」(同会議)しているといいます。

 

【国立大学病院 収益に対する医薬品・材料費】医療費(医薬品費・材料費)/ 2012年度/3404/5910|2023年度/6072/7543|※国立大学病院長会議の記者会見資料をもとに作成

 

医薬品費は12年度から23年度にかけて1.9倍、額にして1868億円増加していますが、同会議は価格の高い医薬品の使用が増えたことが要因だとしています。薬価が10万円を超える医薬品の使用割合(金額ベース)は、21年度57%、22年度60%、23年度65%と年々拡大。使用金額が最も大きい薬剤は免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」、2位は同「キイトルーダ」で、使用金額はあわせて401億円に達しています。前年度から48億円、2年前からは108億円の増加です。両薬は市場拡大再算定などで薬価が下がっているものの、使用回数の増加が金額を押し上げています。

 

3000万円を超える超高額医薬品も頭痛の種です。23年度は、CAR-T細胞療法「キムリア」が62億円、同「イエスカルタ」が36億円使用され、この2年間で2倍以上に増えました。キムリアについては、国内での使用額の約半分を国立大病院が占めるといいます。

 

高額な医薬品の使用増加が病院経営を圧迫するという理屈は、やや分かりづらいところもあります。たとえば薬価3265万円のキムリアを使用しても、病院には患者負担と健康保険から全額が支払われるわけで、薬価差益を考えなければ支出はそのまま収入となり、影響はないようにも見えます。これについて同会議は、ある医療行為に対してコスト(医薬品費)が著しく大きくなると、その医療行為の利益率は大きく下がると説明。病院という大組織を運営する上では、利益を生み出さない医療が増えると人件費などほかの費用を賄うことができなくなると言います。

 

同会議の大島精司会長(千葉大付属病院長)は、医薬品費の増加に対しては「ジェネリックへの変更や共同調達によって安く購入する」といった対策が必要だとしています。高額医薬品の有用性は認める一方で利益を減らすという現実に、高度医療を担う大学病院は危機感を募らせています。

 

月1000万円超の高額レセプト、前年度から2割増

一方、健康保険組合連合会(健保連)は今月3日、1カ月の医療費が1000万円を超える高額レセプトが23年度に2156件と過去最高だったと発表しました。前年度から20%増え、5年前(728件)と比べると約3倍に増加。健保連は「画期的な新薬の保険収載が相次いだ」と患者への寄与を認めつつ、「医療費の高額化が一段と進展している」と警戒感を強めています。

 

高額レセプトのトップは1億7816億円で、主傷病名は脊髄性筋萎縮症(SMA)でした。SMAは14位までを占めており、いずれも月の医療費は1億円を超えています。SMAに対する遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」のレセプト発生当時の薬価は1億6708万円で、医療費のほとんどが薬剤費ということになります。

 

関連記事:関連記事:【ビジュアル解説】高額医療、変わる様相…遺伝子治療・CAR-T登場で

 

今回の集計は、高額医療費の一部を健保連が交付金として各健保組合に交付する「高額医療交付金交付事業」に申請のあったレセプトを対象にしています。集計対象となったレセプトで使用金額(薬価)が最も大きかったのは、血友病A治療薬「ヘムライブラ皮下注」で113億4565万円でした。健保連は、医療費が高額となる医薬品には「薬価が著しく高いだけでなく、一定程度高額で1回当たりの投与量が多く、かつ継続的な使用が必要となる品目」も多いと分析しています。

 

【高額レセプト合計使用額の高い上位5品目】〈医薬品名/効能・効果/合計/使用額/レセプト/件数/"保険収載/時期〉ヘムライブラ/皮下注"/血友病A/113.4565/1974/18年5月/ユルトミリスHI/点滴静注"/"発作性夜間/ヘモグロビン尿症"/113.3095/1528/19年9月/エンスプリング/皮下注/視神経脊髄炎/スペクトラム障害/46.7615/2550/20年8月/イラリス/皮下注/クリオピリン関連/周期性症候群/28.0874/1331/11年11月/ゾルゲンスマ/点滴静注/脊髄性筋萎縮症/23.3908/14/20年5月|※健保連「2023年度高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」をもとに作成

 

ヘムライブラに続いて使用金額が大きかったのは、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬「ユルトミリスHI点滴静注」(113億4565万円)。同薬も長期にわたって投与される薬剤です。視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬「エンスプリング皮下注」やクリオピリン関連周期性症候群治療薬「イラリス皮下注」など、指定難病の治療薬も使用金額が大きくなっています。

 

高額薬剤をめぐっては、中医協でも使用方法や薬価算定についての議論が続いています。直近では、9月に承認されたアルツハイマー病治療薬「ケサンラ」(日本イーライリリー)がテーマとなっており、エーザイの「レケンビ」と同様に特別なルールで薬価算定や再算定、費用対効果評価を行うことになりました。中医協の議論で支払い側は、両薬の併用や切り替えによる継続投与といったケースが出てくる可能性があると指摘しており、市場規模の拡大による医療保険財政への影響に神経を尖らせています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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