10月1日から新型コロナワクチンの定期接種が始まります。2021年2月から行われてきた全額公費負担の臨時特例接種は今年3月末で終了。今後は65歳以上の高齢者らを対象に年1回、秋冬に定期接種として実施されます。今シーズンは5種類のワクチンが使用され、約3000万回分が供給される見通しです。
5つのワクチンが使用可能
定期接種の対象者は、65歳以上の高齢者と、60~64歳で一定の基礎疾患を持つ人。インフルエンザワクチンの定期接種と同様に、重症化リスクの高い人を対象としています。定期接種に使用するワクチンは、オミクロン株JN.1系統に対応した1価ワクチン。従来から使用されているmRNAワクチン(3種類)と組み換えタンパクワクチン(1種類)に加え、世界で初めて承認されたレプリコン(自己増幅型)mRNAワクチンも使用可能となります。5製品はそれぞれ、8~9月にかけてJN.1対応ワクチンの承認を取得しました。
厚生労働省によると、直近1週間(9月16~22日)の新型コロナの感染者数は2万1400人。昨シーズンは、11月下旬から12月上旬にかけて増加が始まり、2月上旬にピークを迎えました。現在、流行の主流となっているのはオミクロン株KP.3系統(JN.1の亜系統)ですが、JN.1対応ワクチンはこれにも効果が見込めることが非臨床試験データによって示されています。
定期接種は原則として有料で、接種を受ける人は費用の一部を負担します。国は接種にかかる費用を1万5300円程度(ワクチン代1万1600円程度、手技料3740円)としており、このうち8300円を国が補助。残りの7000円を自治体と接種を受ける人が負担します。接種を受ける人の自己負担は自治体によって異なりますが、たとえば東京都では、ほとんどの自治体が都の方針に従って2500円程度に設定。インフルエンザワクチンの定期接種と同程度に抑えることで接種を促す狙いで、一部の区では自己負担なしで接種できるよう独自の補助を行うところもあります。
世界初 レプリコンワクチンも選択肢に
今シーズンの定期接種で新たに選択肢に加わったレプリコンワクチンは、MeijiSeikaファルマの「コスタイベ筋注」。米アークトゥルスから導入して開発したもので、昨年11月に世界初の承認を取得。起源株にしか対応していなかったため昨年度は供給を行わず、あらためて承認を取得したJN.1対応ワクチンを今シーズンの定期接種に合わせて発売しました。
レプリコンワクチンはmRNAワクチンの1種で、「sa(Self-Amplifying=自己増幅型)RNAワクチン」とも呼ばれます。レプリカ―ゼという酵素の働きによって抗原タンパク質をコードするmRNAを複製(自己増幅)し、より多くのタンパク質を合成できるのが特徴。従来型のmRNAワクチンの約10分の1の接種量で同等もしくはそれ以上の抗体を誘導できます。このため、効果が従来のmRNAワクチンより長く続くとされ、同社が国内で行った臨床試験では接種1年後まで従来のmRNAより高い中和抗体価を維持できることが確認されています。同社の小林大吉郎社長9月25日に開いた記者説明会で「年1回の定期接種に最適なプロファイル」と話しました。
一方、コスタイベをめぐってはSNSを中心に科学的根拠のない情報が流布しており、小林氏は「非科学的な情報が蔓延することで本来接種すべき人にワクチンが届かないことは公衆衛生上の脅威。特に、医学・薬学の専門家で事実に反する・非科学的な主張を繰り返す団体・個人に対しては、民事・刑事両面での法的措置を含め厳正に対処する」と強調。そうした状況で「(事業としては)当初見込んだストーリーは描けないかもしれない」としつつ、「承認された規格は16ドーズで、手間がかかることも承知している。実臨床でのデータを積み上げ、透明性高く情報提供を行うことで評価を高めていきたい」と話しています。
説明会に登壇したMeijiSeikaファルマの小林大吉郎社長(同社提供)
供給見込み3000万回分 mRNAワクチンが8割
厚労省が今年8月に公表した今年度の定期接種への見込み供給量は全3224万回分。mRNAワクチン3製品(ファイザーのコミナティ、モデルナ・ジャパンのスパイクバックス、第一三共のダイチロナ)が2527万回分と78.4%を占め、武田薬品工業のヌバキソビッド(組み換えタンパクワクチン)が270万回分(8.4%)、コスタイベが427万回分(13.2%)となっています。mRNAワクチンの供給量の内訳は明らかになっていませんが、昨年の秋冬接種ではコミナティが全体の89%を占めていました。コミナティは今回の定期接種に合わせてプレフィルドシリンジ製剤(12歳以上対象)を投入し、利便性の向上を図っています。ヌバキソビッドも1バイアルあたりの量を2人に減らし、医療現場で使いやすくしました。
順天堂大医学部総合診療科学講座の内藤俊夫主任教授はMeijiSeikaファルマの記者説明会で「一度打ったことのあるワクチンを選ぶ人は当然いるし、データが多い分、医療従事者としても選ぶポイントになりやすい」としつつ、モダリティ、副反応の程度、国産か否かといった観点で選ばれる場面も出てくると指摘しました。
モデルナ・ジャパンが行った全国1242人を対象に今夏行った調査では、新型コロナワクチンの接種意向は全年代で21%と、インフルエンザワクチンの41%の半分にとどまりました。定期接種対象者に限っても32%(インフルエンザは54%)となっており、調査では副反応や安全性への懸念、費用の高さが接種意向の低さにつながっていると分析しています。臨時特例接種として行われた昨秋冬の65歳以上の接種率は53.7%でした。