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新薬出揃ったPNH、市場競争本格化…患者1000人の疾患に1年で4つの新製品

更新日

穴迫励二

指定難病の発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に新薬の発売が相次いでいます。患者数1000人程度の希少疾患であるにもかかわらず、この1年で4つの新製品が登場。薬物治療の道を開いた「ソリリス」などを含め、治療選択肢が一通り出揃い、市場競争が本格化します。

 

 

「ソリリス」「ユルトミリス」に続き

PNHは、造血幹細胞遺伝子の後天的な変異により、「PNH型赤血球」と呼ばれる異常な赤血球がつくられることで起こる疾患です。PNH型赤血球には、正常な赤血球の表面に存在する補体制御タンパク質がありません。このため、免疫システムを構成する補体から赤血球を守ることができず、溶血(=赤血球の破壊)が起こり、ヘモグロビン尿や貧血などの症状が現れます。

 

進行はゆるやかですが、溶血発作を繰り返すうちに血栓症や腎機能の低下が起こることもあります。海外のデータでは、患者の約3分の2が慢性腎臓病を患っており、一部は腎不全による死亡にもつながっています。欧米の患者で多く見られる血栓症も含め、生命に関わることもある疾患ですが、長らく治療薬は存在しませんでした。

 

国内の患者数は、指定難病として医療費助成の対象となる中等症~重症の患者が1000人あまり。薬物治療の対象となるのも中等症以上です。軽症の患者も含めると患者数は2000人程度とされています。

 

PNHに対する新薬が国内で初めて登場したのは2010年。アレクシオンファーマの抗補体(C5)抗体「ソリリス」(一般名・エクリズマブ)が第1号でした。同社はその後、19年9月に長時間作用型の「ユルトミリス」(ラブリズマブ)を発売。維持期の投与間隔は8週に1回となり、2週に1回のソリリスから現在ではほとんど切り替わっているようです。同薬のピーク時(発売10年度目)の予測投与患者数は731人で、売上高予測は331億円。希少疾患で患者数は少ないものの、薬価が高いことから大型化を見込んでいました。

 

旭化成ファーマや中外製薬が新薬投入

新薬ラッシュの口火を切ったのは、旭化成ファーマが23年9月に発売した補体C3阻害薬「エムパベリ」(ペグセタコプラン)です。補体経路でC5より上流に存在するC3を標的とする同薬は、スウェーデンのSwedish Orphan Biovitrum(Sobi)の日本法人が同年3月に承認を取得。販売は提携する旭化成ファーマが行っています。週2回の皮下投与で、薬価は1回(1080㎎)48万8121円。年間では通常のケースで104回の投与が必要となり、薬剤費は5000万円を超えます。発売10年度目に110億円のピーク時売り上げを予想しており、2週間処方制限解除前の24年4~6月期売上高は4億円でした。

 

旭化成ファーマは今月から、メディパルホールディングスと組んでエムパベリを患者宅に配送するサービスを開始。9月に2週間処方制限が解除されたのを機に、患者負担の軽減で他剤との差別化に乗り出しました。同薬を自宅で皮下注射する場合、厳格な温度管理の下で大量の薬剤を持ち帰る必要があり、患者にとっては負担となっていました。

 

中外製薬は今年5月にC5をターゲットとする「ピアスカイ」(クロマリマブ)を発売。独自のリサイクリング抗体技術を用い、繰り返し抗原に結合することで低用量での補体阻害を可能としたのが特長です。薬価は有用性加算と小児加算がともに5%付与され、197万8062円(340㎎)となりました。維持期は4週に1回、680㎎または1020㎎を皮下投与します。年間薬剤費は約5100~7700万円と高額です。

 

【発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬】〈発売/製品名/一般名/社名/投与経路・投与頻度/ピーク時予想・発売後年度/ピーク時予想・売上高(億円)/ピーク時予想・患者数(人)〉24年8月/ファビハルタ/イプタコパン/ノバルティスファーマ/B因子/経口 1日2回"/8/215/496|24年5月/ピアスカイ/クロバリマブ/中外製薬/C5/"皮下注/4週1回"/5/105/203|24年4月/ボイデヤ/ダニコパン/アレクシオンファーマ/D因子/"経口/1日3回/4/5.3/61|23年9月/エムパベリ/ペグセタコプラン/旭化成ファーマ/C3/"皮下注/週2回/10/110/226|19年9月/ユルトミリス/ラブリズマブ/アレクシオンファーマ/C5/点滴/8週1回"/10/331/731|10年6月/ソリリス/エクリズマブ/アレクシオンファーマ/C5/点滴/2週1回"/10/197/440|※各社のプレスリリースなどをもとに作成。ピーク時予測は薬価収載時の中医協資料から

 

ノバルティス、経口単剤の「ファビハルタ」発売

ノバルティスが8月に発売した「ファビハルタ」は、単剤で使用可能な唯一の経口補体B因子阻害薬。1日2回の投与で効果を発揮しますが、使用は補体(C5)阻害剤による治療を行っても十分な効果が得られない場合に限られます。年間薬剤費は5300万円を超えます。経口薬では、今年4月にアレクシオンが補体D因子阻害薬「ボイデヤ」を発売しましたが、こちらはソリリスやユルトミリスと併用します。いずれも、抗補体(C5)阻害薬による治療を受けても溶血が残る患者への選択肢となります。

 

これら新薬はどのような患者がターゲットなるのでしょうか。「経口か注射か」「静注か皮下注か」「投与間隔は」などで判断し、患者のライフスタイルや疾患の重篤度によって薬剤が選択されそうです。

 

最も注目されるのは、経口での単剤治療となるファビハルタの処方動向です。大阪大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学の植田康敬助教は8月、ノバルティスが開いたセミナーで、「将来的に患者の半数が経口単剤に代わっていく可能性がある」と予測。有効性の高さを示した臨床試験データを踏まえ、輸血依存など生活に支障がある人には積極的に切り替えを考えると話しました。

 

コンプライアンスに懸念も

一方、中外製薬が6月に開いたセミナーでは、筑波大医学医療系臨床医学域医療科学・血液学の小原直教授が、経口剤への移行について「飲み忘れると溶血発作を起こす可能性がある」ことを懸念。コンプライアンスが良くない患者は適応にはならないとし、「注射のほうが確実。ピアスカイは 4 週に1回、ユルトミリスなら 8 週に1回で済む」と注射薬が継続される可能性を示唆しました。実際、ユルトミリスとソリリスでは8割以上の患者が満足感を示していると言い、「劇的にファビハルタに流れていくことは予想しづらい」と話しています。高額薬剤であるがゆえに、薬局で扱うことが難しいことも指摘しました。

 

ファビハルタには1次治療の適応がありませんが、海外では認められています。今後の適応追加についてノバルティスは、「市場でどう使われ、どのようなニーズが出てくるのか、医師と相談しながら試験実施の是非を検討したい」と話しています。

 

4週1回皮下投与のピアスカイについては、小原氏が多忙な患者や点滴を嫌がる患者に積極的に提案する考えを示しました。そのうえで、「予想は難しいが実感としてC5抗体を使用している患者の3~4割はピアスカイで治療される可能性があるのではないか」とし、ユルトミリスなどから徐々に切り替わると見ています。同じ皮下注でも週2回のエムパベリについては、処方患者数が「当面数十人」規模と予測しました。

 

経口薬と注射薬には利便性やコンプライアンスといった点で長短があります。新規患者の場合は、医師がフラットに提示し、患者が生活スタイルに合わせて選択することになりそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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