内資製薬企業で早期退職募集の発表が相次いでいます。直近2週間でトーアエイヨー、住友ファーマ、田辺三菱製薬、協和キリン、武田薬品工業の5社が募集を発表。背景は各社各様ですが、事業環境が変化する中、人員体制を見直す動きが加速しています。
住友ファーマは700人「合理化必須」
7月31日、住友ファーマは約700人の早期退職者を募集すると発表しました。対象は、生産部門と再生・細胞医薬事業部門以外の部署に所属する40歳以上かつ勤続5年以上の社員。同社の単体従業員数は2836人(6月末時点)で、募集枠はこの4分の1にあたります。同社では過去最大規模の早期退職者募集です。
同社は、主力製品だった抗精神病薬「ラツーダ」が23年2月に米国で特許切れを迎え、業績が低迷。23年3月期に745億円、24年3月期に3150億円の最終赤字を計上し、今期も160億円の純損失を見込んでいます。米国ではすでに人員削減を行っており、23年3月末時点で2200人いた米子会社の社員を1年で約1000人減らしました。
国内では今年6月、パーキンソン病治療薬「トレリーフ」(24年3月期売上収益155億円)に後発医薬品が参入。今後も、国内トップ製品である糖尿病治療薬「エクア」「エクメット」(同計306億円)の特許切れが控えています。業績悪化に伴って開発品の絞り込みも行いました。同社は「事業規模、パイプライン、製品構成の変化に対応した全社レベルでの事業体制のスリム化が喫緊の課題。厳しい財務状況も踏まえ、合理化を含む抜本的な構造改革が必須と判断した」としています。
同社のMR数は6月末時点で950人。木村徹社長は「当然、一番大きな人数がいる営業本部からたくさんの応募があるだろう」とし、MRの減少によって売り上げにもネガティブな影響が出るとの見方を示しました。「営業力がかなり減ることになるので、MRの活動も相当工夫しながらやっていくことになる」と話しています。
トーアエイヨーも4分の1削減
トーアエイヨーも従業員の4分の1近くにあたる約100人の希望退職者を募ります。同社は昨年も希望退職者の募集を行っており、このときは約50人の枠に対して61人の応募がありました。今回の対象は勤続3年以上の従業員で、生産部と信頼性保証部の従業員は対象外となります。
同社は循環器領域に特化して事業展開していますが、薬価の毎年改定や後発品の供給問題など事業環境は厳しくなっています。近年は希少疾患向け医薬品の開発や海外展開に向けた取り組みを進めるとともに、自社販売への切り替えなどコスト削減も行ってきましたが、「将来に向けて持続的に安定した収益基盤を構築するためには、さらなる抜本的な組織体制の見直しが必要不可欠と判断した」としています。
田辺三菱「収益が安定している今やるのが適切」
田辺三菱製薬の希望退職者募集は、45歳以上で勤続5年以上の従業員が対象で、募集人数は定めていません。同社は「継続的に企業価値を高めるには、国内の事業基盤を維持しつつ北米を中心とした成長市場の事業を強化することが必要で、成長戦略と構造改革を両輪で進めていくことが不可欠」と指摘。「成長戦略実行に必要なケイパビリティを持つ人員の配置」と「専門性の高い人材、多様な人材が活躍できる組織の実現」に向けた人材ポートフォリオの見直しを加速させるため、希望退職者の募集を行うと説明しています。
同社の業績は、北米で販売する筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」が好調で比較的安定しています。ただ、辻村明広代表取締役は8月1日の三菱ケミカルグループの決算説明会で「早期退職をするしないにかかわらず、国内の営業体制や営業のやり方は抜本的な改革が必要だ」と強調。「将来の成長の方向性を考えると、収益が安定している状況の中でこうした施策を打つのが適切だと判断した」と語りました。
同社をめぐっては、三菱ケミカルGからの切り離しも取り沙汰されていますが、辻村氏はそれと希望退職者の募集に「関連性は全くない」と強調。同社は、糖尿病・肥満症治療薬チルゼパチドの販売で日本イーライリリーと、呼吸器ワクチンのプロモーションでモデルナジャパンと提携しており、辻村氏は「日本市場がベースにあっての海外展開。日本では引き続き、われわれの基盤やノウハウをレバレッジできる機会があれば積極的にやっていく」と述べました。
協和キリンは研究部門対象、低分子創薬縮小で
協和キリンも、グローバル製品であるFGF23関連疾患治療薬「クリースビータ」の販売拡大で業績が好調な中、早期希望退職者募集に踏み切ります。対象は▽研究本部▽生産本部CMC研究センター▽品質本部グローバルCMC研究ユニットの一部組織――に所属する30歳以上かつ勤続3年以上の従業員。同社によると該当する社員は500人程度で、人数を定めず募集します。
募集の背景は研究体制の見直しです。同社は「骨・ミネラル」「血液がん・難治性血液疾患」「希少疾患」を重点領域とし、先進的抗体技術と造血幹細胞遺伝子治療の2つのモダリティに注力する研究体制への移行を進めています。低分子創薬研究は大幅に縮小し、関連するCMC研究・品質関連業務を縮小することを計画しており、こうした動きに伴って希望退職者の募集を行うことにしたといいます。
同社の山下武美チーフメディカルオフィサー(取締役専務執行役員)は8月2日の決算説明会で「伝統的な低分子創薬にわれわれの強みを見いだせず、競合優位性という点では難しい」と指摘。宮本昌志社長CEOは「低分子を否定しているわけではない。次のモダリティにつながるようなものは残していくし、良いものがあればライセンスインしていく」と話しましたが、従来型の低分子創薬は基本的には自社では行わない方向へと向かいます。山下氏は、研究へのリソース配分の見直しが目的だとし、「人員削減が目的ではない」と話しました。
武田薬品工業も8月2日、国内事業の運営体制見直しにあわせて「フューチャー・キャリア・プログラム」(希望退職・転職支援プログラム)を行うと発表しました。オンコロジー以外の主要な国内事業を所管するジャパンファーマビジネスユニット(JPBU)では、疾患別の事業部を新薬中心と既存製品中心の2事業部に再編。国内の研究開発組織も、全社的な効率化プログラムにあわせて運営体制を見直します。希望退職は両組織で行う予定で、詳細は労組と検討して決めるとしています。