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オーソライズド・ジェネリック、高シェア維持の一方で「形を変えた長期収載品依存」指摘も

更新日

穴迫励二

後発医薬品の供給不安が解消されない中、存在感を発揮しているオーソライズド・ジェネリック(AG)。2024年3月期の各社の販売状況を見ると、依然として多くの製品が高い市場シェアを誇っています。ただ一方で、厚生労働省の有識者検討会が報告書で「形を変えた長期収載品依存」と指摘するなど、そのあり方には否定的な見方もあります。

 

 

市場シェア、高いもので9割

24年3月期決算では数社がAGの売上高を開示しましたが、いずれも後発品内の数量シェアは50~90%と高水準です。

 

杏林製薬は、販売する3つのAGの売上高が前期比7%減の174億円でした。喘息・アレルギー性鼻炎治療薬モンテルカスト(先発品名・キプレス)は限定出荷があったため10億円減の123億円で、シェアは7ポイント減の60%に低下。一方、過活動膀胱治療薬イミダフェナシン(ウリトス)とアレルギー性鼻炎治療薬モメタゾン(ナゾネックス)の売上高は前期から横ばいで、シェアもそれぞれ62%、84%で変化はありません。

 

ニプロは22年12月に発売した消化性潰瘍治療薬エソメプラゾール(ネキシウム)が約160億円まで売り上げを拡大。シェアは67%を確保しています。同社は決算会見で「全82大学病院中57病院で採用されるなど、市場で高評価を得ている」と強調。10月から始まる長期収載品への選定療養導入で切り替えが促進されるとみて、「AGの強みを生かしてさらなるシェアアップを図りたい」としました。

 

【AGの後発品内シェア】〈品名/22年度/23年度〉モンテルカスト杏林/67%/60% |イミダフェナシン杏林/61%/62%|モメタゾン杏林/85%/84%|エソメプラゾールニプロ/76%/67%ベポタスチンニプロ/90%/89%|※両社の発表をもとに作成

 

第一三共エスファ、AGで業績拡大

持田製薬の黄体ホルモン製剤「ディナゲスト」は、先発品の売上高が11億円(前期18億円)だったのに対し、AGは92億円(同77億円)を売り上げ、なお増加傾向にあります。同薬には「子宮内膜症・子宮腺筋症に伴う疼痛の改善」の適応をもつ1㎎製剤と「月経困難症」の0.5㎎がありますが、後者ではAG以外の後発品は販売されていません。

 

あすか製薬ホールディングス(HD)は、配合剤を含めた高血圧症治療薬カンデサルタン類(ブロプレスなど)の売上高が10.5%減の95億9300万円。シェアは60%程度で推移しています。月経困難症治療薬ノルエチステロン/エチニルエストラジオール(ルナベル、後発品の統一製品名はフリウェル)は規格によって40~60%で変動はありません。

 

住友ファーマは統合失調症治療薬ブロナンセリン(ロナセン)が約70%、高血圧症治療薬イルベサルタン(アバプロ)と同イルベサルタン/アムロジピン(アイミクス、統一製品名・イルアミクス)はともに約50%でした。

 

第一三共エスファは現在、19成分でAGを販売。旧親会社の第一三共だけでなく、外資を含む他社からも特許切れ品を幅広く取り込んできました。その結果、売上高は年々拡大し、5年間で1.5倍に成長。各製品の後発品内シェアは非開示ですが、24年3月期の売上高全体(830億円)に占めるAGの割合は7割強に上ります。現在の親会社であるクオールHDは今後もAGを増やしていく方針を明確にしており、「先発品メーカーがAG事業化に前向きであれば、領域にこだわらずに可能な限りアプローチする」考えです。

 

【第一三共エスファの売上高】〈年度/売上高〉14/149|15/185|16/202|17/467|18/555|19/605|20/714|21/828|22/860|23/830

 

他社は予見性低下

いまや初収載となる後発品のほとんどにAGが参入するようなりました。近年は特許切れ直後だけでなく、すでに後発品が発売されている成熟市場にも後追いで参入し、シェア奪還を目指すケースが散見されます。もはや市場規模の大小を問わず先発品企業の市場戦略となっています。

 

特許との関係をにらみながら承認を取得して、他社の動向に応じて薬価収載を申請する、あるいはしないといった手法も定着しています。6月追補では、2月に承認された初後発のAG4成分のうち収載に至ったのは筋弛緩回復薬スガマデクスナトリウム(ブリディオン)1成分のみ。▽爪白癬治療薬エフィナコナゾール(クレナフィン)▽緑内障・高眼圧症治療薬リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック)▽月経困難症治療薬レボノルゲストレル/エチニルエストラジオール(ジェミーナ)――は、他社品の承認がなかったため収載を見送ったようです。

 

ただ、こうしたAGのあり方には疑問も投じられています。厚生労働省の有識者検討会が昨年7月にまとめた報告書では「先発品と同様であるといった安心感から市場シェアを獲得しやすい傾向がある」とする半面、「先発品企業がAGの製造販売業者からライセンス料等を得るケースが多く、形を変えた先発品企業の長期収載品依存となっている」と指摘。今年5月の後発品の産業構造のあり方に関する検討会報告書でもその内容が引用され、承認を取得しても薬価収載しない場合があることで他社の後発品製造の予見性を低下させるなど負の側面を列挙しました。

 

AGは先発品企業の工場で生産することで、通常の後発品に比べて安定的な供給体制を確保し、信頼を得てきました。とはいえ、必ずしも肯定的な捉え方ばかりではないのが現状で、特許切れ後は後発品に市場を譲るという本来の姿からは、やや逸脱した印象を関係者に与えているようです。こうした中で、AGは現在のような収益性を将来にわたり保っていけるのでしょうか。

 

「赤字転落の製品も」

そうした意味では、親会社が日本市場からの撤退を表明した武田テバファーマの存在も注目されます。同社はAG11成分23品目を販売しており、武田薬品工業の特許切れ製品である「アジルバ」「ロゼレム」「ロトリガ」などのAGが中心です。ほかには、グラクソ・スミスクラインから「アボルブ」「ザイザル」「アラミスト」で許諾を受けています。

 

これら製品はどういった形で他社に引き継がれるのでしょうか。AGの場合、単純な承認の承継とはいかず、「先発品企業とあらためて諸条件についての交渉が必要」(大手後発品企業幹部)になるといいます。高い市場シェアと再契約に伴う経済条件のバランス、さらには今後のAGに対する行政の方針を含め、引き受ける側がその価値を判断することになりそうです。業界再編の動きとも絡んでくるのかもしれません。

 

AGビジネスは従来の延長線上で拡大していくのか、不透明な部分は残ります。収益性については「赤字に転落している製品もある」(業界関係者)といわれ、契約一時金や売り上げに応じたロイヤルティの支払いがのしかかります。とはいえ、不安定な供給状態が改善せず品質面でもたびたび問題が発生する後発品に対し、AGの信頼感が相対的に高まっていることは確かです。

 

「後発品の品質・安定供給問題が解決しない限り、AGが高いシェアを保つ状況は変わらない。厚労省検討会での慎重な見方があるとはいえ、リスクが高い施策を実施するのは難しいのではないか」。前出の関係者はそう話しました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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