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日本市場で存在感増すアストラゼネカ―23年は売上高2位に浮上「国内トップ」視野に

更新日

穴迫励二

アストラゼネカの国内業績が大きく拡大しています。2023年の売上高はオンコロジー領域が牽引して前年比8.2%増となり、日本市場で2位に浮上しました。堀井貴史社長は「順位は結果論」と話しますが、近年の成長は著しく、国内首位の座も視野に入ります。

 

 

3年で売り上げ1.7倍

アストラゼネカの23年の国内売上高は、消化性潰瘍治療薬「ネキシウム」の特許切れがあった中で前年比8.2%増の4960億円となりました。この数字はIQIVIAが集計した販促会社レベルの売上高で、他社との共同販促品を含めた自社オリジン製品の合計販売額です。順位は前年から1つ上げて2位となり、トップの中外製薬との差はおよそ500億円まで縮まりました。

 

アストラゼネカの業績はこの3年間で勢いを増しています。官報に掲載された決算公告をさかのぼると、10年前の13年は2335億円で外資の中でも5位というレベルでした。その後しばらくは横ばいが続いていましたが、主力製品の販売増によって21年以降は伸びが顕著です。23年の決算公告はまだ行われていないため、販促会社レベルの売上高の伸び率を当てはめて試算すると、売上高は過去3年で1.7倍、5年では2.2倍に拡大しています。

 

【アストラゼネカ過去10年の国内売上高】〈年/売上高/伸び率〉13/2,335/7.1/14/2,307/-1.1/15/2,412/4.6/16/2,370/-1.7/17/2,493/5.2/18/2,211/-11.3/19/2,796/26.5/20/2,814/0.6/21/3,483/23.8/22/4,435/27.3/23/4,800/8.2|※22年までは決算公告から、23年は販促会社レベル売上高の伸び率から試算

 

関連記事:外資製薬日本法人、22年の売上高は前年比13.4%増…コロナ薬が業績左右

 

業績拡大の原動力となっているのはオンコロジー領域で、23年は前年比28.6%の増収となりました。中でも抗PD-L1抗体「イミフィンジ」は薬価ベースで前年比2.15倍の1098億円を売り上げ、国内の医療用医薬品売上高ランキングで6位にランクイン。長らく薬物治療に変化がなかった胆道がんの適応を取得したことで、市場展開は新たな局面を迎えています。

 

抗がん剤は薬効別で最も大きな市場を形成しており、各社の大型製品がひしめいていますが、EGFR阻害薬「タグリッソ」(23年売上高1087億円)を含め1000億円製品を2つ持つのはアストラゼネカだけです。

 

関連記事:【2023年国内医薬品売り上げトップ10】前年に続きオプジーボが首位、イミフィンジやフォシーガなど急成長

 

ネキシウム特許切れもフォシーガ好調

一方、循環器・腎・代謝疾患領域はネキシウムの特許切れで20.8%の減収。ただ、SGLT2阻害薬「フォシーガ」などは好調で、ネキシウムを除くと41.5%の増収でした。フォシーガの売り上げは共同販促先の小野薬品工業が計上していますが、20年11月に慢性心不全、21年8月に慢性腎臓病(CKD)の適応を追加したことで処方患者数が大きく増加。21年度以降、売上高は3年続けて期初予想を大きく上回っての着地となりそうで、新たな適応の貢献度が見て取れます。

 

SGLT2阻害薬では、競合する「ジャディアンス」(日本ベーリンガーインゲルハイム)も今年1月にCKDの適応を取得。競合は激しくなりますが、伸びしろはまだありそうです。堀井社長は3月26日に開いた業績発表記者会見で「1300万人と言われるCKD患者の中で、早期介入できていないケースは多い。まだニーズがあり、成長を期待している」と話しました。

 

【フォシーガ売上高の推移(期初予想との比較)】〈年度/期初予想/実績〉19年/165/181/20年度/225/224/21年度/300/367/22年度/470/565/23年度/650/750|※23年度の予想は第三四半期時点の最新の修正予想

 

他方、こうした勢いにブレーキをかけているのが薬価の再算定です。この1年で2製品が対象となり、このうちイミフィンジは今年2月、同じPD-L1抗体「テセントリク」(中外製薬)の類似品として25%の引き下げを受けました。イミフィンジは22年12月に胆道がんと肝細胞がんの適応追加が承認されて以降、右肩上がりで売り上げを伸ばしてきましたが、エンサイスのデータによると今年2月の売上高は94億円と7カ月ぶりに100億円を下回っています。

 

再算定を受けたもう1つの製品は抗がん剤「リムパーザ」で、昨年11月に7.7%引き下げられました。補正加算によって引き下げ幅は緩和されましたが、オンコロジー領域の主力製品であるだけにマイナス材料となります。24年の業績はこれら2製品の販売動向が1つのポイントになりそうです。

 

【イミフィンジ月間売上高の推移】〈年月/売上高〉23年2月 53//3月/72/4月/84/5月/88/6月/101/7月/99/8月/111/9月/102/10月/111/11月/110/12月/120/24年1月/100/2月/94|※エンサイスリサーチレポートをもとに作成

 

臨床試験は国内最多

将来の成長を左右する研究開発については、26年までの3年間で適応拡大や剤形追加を含めて30件以上の製品上市を目指すとしています。国内で実施中の臨床試験数は148で業界最多だといい、中でもオンコロジーは38のプロジェクトが臨床第3相試験以降の段階にあります。

 

オンコロジー領域のパイプラインには複数の抗体薬物複合体(ADC)が控えています。向こう3年での承認申請はまだ見通せないものの、第一三共との共同開発だけでなく独自の候補物質も多く保有。免疫療法では、PD-1とそれ以外のチェックポイント分子を標的とする二重特異性抗体が複数あります。

 

関連記事:[定点観測]主要製薬企業 国内新薬開発パイプライン|モダリティ編(2023年11月版)

 

記者会見で好調な業績を発表したアストラゼネカの堀井貴史社長

 

アストラゼネカはステファン・ヴォックスストラム前社長時代に「25年までに国内トップ」の目標を掲げていました。現在の勢いが続けば、その実現も視野に入ってきます。

 

ただ、堀井社長は「順位は結果論。M&Aや製品ライセンスなどで変動するため、1位を目標にすることにあまり意味はない」と強調。同社としては一つひとつの製品価値を最大限に高めていくことに注力するといい、「サイエンスのリーダーシップという面で良い仕事ができれば、結果として売り上げ成長できると考えており、そういう意味での高みは目指していきたい」と話しました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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