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アトピー性皮膚炎新薬、相次ぐ小児への適応拡大…デュピクセント、承認取得で処方急増

更新日

亀田真由

この5年で分子標的薬が相次いで承認され、開発競争も活発なアトピー性皮膚炎。これまでその影響が限定的だった小児の治療にも、変化が生まれています。サノフィの抗IL-4/13受容体抗体「デュピクセント」が昨年、生後6カ月以上の小児に対象を拡大。外用薬の「コレクチム」や「モイゼルト」も乳幼児に対象年齢を引き下げており、治療選択肢が広がっています。

 

 

デュピクセント、12歳未満に初の全身療法

アトピー性皮膚炎は乳幼児期から小児期に発症することが多い疾患。有病率が最も高いのは1~4歳で、年齢が上がるとともに有病率は低下しますが、一部は成人型に移行します。JMDCのレセプトデータ(診療所や病院が発行する明細書のこと)に基づく推計によれば、2022年11月~23年10月のアトピー性皮膚炎の推計実患者数は約704万人。このうち14歳までの小児が242万人を占めます。

 

アトピー性皮膚炎に対しては、ここ5年で分子標的薬を含む新薬が続々と登場しており、小児や乳幼児への適応拡大も相次いでいます。

 

2021年3月には外用JAK阻害薬「コレクチム軟膏」(日本たばこ産業=JT)が小児適応を取得し、同年9月には小児から使える外用PDE4阻害薬「モイゼルト軟膏」(大塚製薬)が承認。同年には、12歳以上を対象とする内用のJAK阻害薬「リンヴォック錠」(アッヴィ)と「サイバインコ錠」(ファイザー)も承認を取得。ステロイドとタクロリムス軟膏しか選択肢がなかった小児アトピー性皮膚炎の治療に変化をもたらしました。

 

JMDCのレセプトデータをもとに22年12月~23年11月の小児患者の薬剤使用状況を見てみると、外用ステロイドが全体の約76%を占めていますが、コレクチムやモイゼルトも使われています。当初、2歳以上を対象とする臨床試験結果をもとに承認されたコレクチムとモイゼルトは昨年、乳幼児を対象に行った臨床試験成績を追加する添付文書の改訂が行われました。

 

 

抗体医薬では、18年1月に成人向けに承認されたサノフィの抗IL-4/13受容体抗体「デュピクセント皮下注」が昨年9月、生後6カ月~15歳未満の小児に対象を拡大。12月には体重5kg以上15kg未満、30kg以上60kg未満の患者向けの用量に対応した200mgシリンジ製剤を発売し、本格的に小児での使用が可能となりました。

 

デュピクセントは、12歳未満の中等症・重症患者に対する国内初の全身療法となります。年代別に見ると、中等症以上の患者は学童期に増加する傾向があり、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(2021年度版)によれば、小学生の患者の2~3割が重い症状に悩まされているのが現状。こうした患者にとって重要な選択肢となります。

 

国立病院機構三重病院の長尾みづほ医師は、塗り薬を含めた新たな治療選択肢の意義を、「アレルギー性皮膚炎の予後を変える可能性があると考えている。早期治療の充実によって、将来的に患者さんのQOLや社会生産性の向上が期待できるのではないか」と話します。サノフィが2月に行ったメディア向けセミナーで同氏は「注射の痛みはあるものの、かゆみが減ったことで症状も落ち着き、最終的にはステロイドをほとんど使用しない状態になった患者さんもいる」と臨床試験での症例を紹介しました。

 

JMDCのレセプトデータによると、承認された23年9月以降、デュピクセントの小児向けの処方は急増しており、実際に細かくデータを見てみると、ステロイド剤をはじめとする外用剤への上乗せや切り替えが目立ちます。この傾向は成人患者とほぼ同様です。

 

【デュピクセントを使用した小児の推計実患者数】〈年月/患者数〉22年12月/48/23年/1月/64/23年2月/96/23年3月/64/23年4月/88/23年5月/88/23年6月 96/23年7月/112/23年8月/96/23年9月/144/23年10月/584/23年11月/1067|※23年9~11月は電子レセプトのみの速報値。データ提供:JMDC 小児は14歳以下を指す

 

オルミエントが近く小児用量追加予定

小児のアトピー性皮膚炎に対しては、さらなる新薬の開発も進んでいます。

 

JTが12歳以上を対象に23年9月に申請したタピナロフ(一般名、クリーム製剤)は、2歳から12歳未満の患者に対する国内臨床第3相(P3)試験を実施中。同薬はデルマバント(スイス)から導入したもので、アリル炭化水素受容体(AhR)活性化して皮膚の炎症を抑える新規の作用を持っています。

 

【国内で小児を対象に承認または開発中のアトピー性皮膚炎治療薬】〈製品名/一般名/成人/小児/作用機序/社名〉▼外用/JTE-061/タピナロフ/申請(12歳以上)/P3/AhRモジュレーター/JT/コレクチム/デルゴシチニブ/承認(生後6カ月以上)/JAK阻害薬/JT/モイゼルト/ジファミラスト/承認(生後3か月以上)/PDE阻害薬/大塚製薬 /M6101/―/P3(12歳以上)/―/マルホ|▼注射/デュピクセント/デュピルマブ承認(生後6カ月以上)/抗IL-4/13受容体抗体/サノフィ/KHK4083/rocatinlimab/P3(12歳以上)/抗OX40抗体/協和キリン/ミチーガ/ネモリズマブ/承認(13歳以上)/申請(乳幼児P3)/抗IL-31受容体A抗体/マルホ/アドトラーザ/トラロキヌマブ/承認(15歳以上)/抗IL-13抗体/レオファーマ/イブグリース/レブリキズマブ/承認 (12歳以上)/開発後期(生後6カ月以上)/抗IL-13抗体/日本イーライリリー|▼内用/オルミエント/バリシチニブ/承認/(15歳以上)/申請(2歳以上)/JAK阻害薬/日本イーライリリー/サイバインコ/アブロシチニブ/承認(12歳以上)/ JAK阻害薬/ファイザー/リンヴォック/ウパダシチニブ/承認(12歳以上)/JAK阻害薬/アッヴィ|※各社のパイプラインや臨床試験情報をもとに作成

 

抗体医薬では、マルホの抗IL-31受容体A抗体「ミチーガ皮下注用」が小児への適応拡大を申請中で、乳幼児を対象としたP3試験も進行中。日本イーライリリーが今年1月に12歳以上を対象に承認を取得した抗IL-13抗体「イブグリース皮下注」も、生後6カ月以上の小児に対する開発が後期段階に入っています。

 

リリーのJAK阻害薬「オルミエント錠」は、厚生労働省薬事・食品衛生審議会の部会で小児向けの用量と剤形追加の承認が了承されており、近く承認される見通し。中等症以上の学童期の小児に対する治療選択肢もさらに広がっていきそうです。

 

本記事はJMDCの「BIG DATA for CHILDREN」という取り組みの一環でデータの無償提供を受けております。BIG DATA for CHILDRENでは、JMDCの保有する日本最大級のヘルスケアビッグデータを活用し、病気に苦しむ子どもたちの実態を社会に伝えることで、日本の未来をつくる子どもたちを救うきっかけづくりを行っています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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