製薬業界で医療従事者の採用ニーズが高まっているワケ

CRO（医薬品開発業務受託機関）やSMO（治験施設支援機関）を中心に、製薬業界で看護師や薬剤師など医療機関で働いた経験を持つ人の採用ニーズが高まっています。その背景について、業界専門の転職支援サービス「Answers」を運営するクイックで医療従事者のキャリアチェンジをサポートしているコンサルタントに話を聞きました。

臨床試験の増加で人材ニーズ上昇

CROやSMOで医療系有資格者の採用ニーズが高まっているのは、臨床試験の数そのものが増えているからです。

特に増加が著しいのが、国をまたいで行われる国際共同治験です。医薬品や医療機器の承認審査を担う医薬品医療機器総合機構（PMDA）によると、その数は2011年度から2021年の10年間で3.9倍に増加。日本CRO協会に加盟するCROの総売上高も2016年から2021年の5年間で31%増えています。

一方で、人手は足りていません。CRO協会会員企業の総従業員数は2016年（1万5671人）から2021年（1万9295人）にかけて23%増（3624人増）と、各社とも人員の拡大を図っていますが、それでも試験数の増加に追いついていない状況です。特に不足しているのが、臨床試験の実施には欠かせない臨床開発モニター（CRA。臨床試験が計画に従って正しく行われているか監視＝モニタリングする職種）。近年では、複数のCROが数十人から百人規模でCRAの中途採用を行っており、こうした傾向は今後しばらく続くと予想されています。

業界全体で人手が不足している状況なので、当然、経験者だけで中途採用の枠を満たすことはできません。そのため、各社とも未経験者にも門戸を開いていますが、そこで企業が欲しがっているのが医療職としての勤務経験です。

医療職の経験がアドバンテージに

CRAの仕事には、医療機関を訪問して治験を担当する医師らとコミュニケーションをとることが欠かせません。医師をはじめ医療機関で働く人がどういう人であるか知っている、医療機関での立ち回り方を知っている、といった点で、看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士など医療職としての勤務経験がアドバンテージになるとCRO各社は考えています。

加えて、看護師経験者であればカルテが読める、薬剤師であれば医薬品に関する知識がある、といった点も重宝されます。臨床工学技士なら、その経験を生かして医療機器開発モニターとして活躍できる可能性があります。SMOなどに所属する治験コーディネーター（CRC。院内で治験の円滑な実施をサポートする職種）も、同様に医療職としての経験を生かすことができる仕事で、採用ニーズが高まっています。

CROには、CRAのほかにもDM（データマネジメント）やPV（安全性情報担当）などさまざまな職種があり、数は少ないですが未経験者でも募集できる求人が出ることもあります。難易度は高いですが、こうした職種にチャレンジすることもできますし、CRAとして入社したあと、そうしたキャリアを目指すこともできるでしょう。もちろん、CRAとして経験を積んでマネジメントに進む人も多いですし、CRAとしてメーカーに転職する道もあります。

キャリアチェンジは20代前半～30代前半が理想的

私はこれまで、たくさんの医療系有資格者の事業会社へのキャリアチェンジをサポートしてきました。キャリアチェンジを考える理由として最も多いのが、夜勤や土日のシフト出勤といった不規則な働き方を変えたいというものです。事業会社ならその希望を叶えられますし、そこで得られるビジネスマナーや英語スキル、将来的な年収の伸び（生涯年収）に期待して転職を決断される方が多い印象です。ただ、CRAは患者さんと直接接する仕事ではないので、そこに仕事のやりがいを感じている方は少し慎重に考えたほうが良いかもしれません。

基本的に、臨床現場で3年ほどの勤務経験があれば、事業会社への転職は十分可能です。一方、未経験からのキャリアチェンジになるので、30歳代半ばを過ぎると採用の難易度はぐっと上がります。事業会社への転職を考えるなら、20歳代前半～30歳代前半が理想的といえるでしょう。

事業会社の中途採用は、1年のうちで4～7月入社が最も募集枠が多くなります。転職を考えている方は、今が動き出すチャンスです。転職支援サービス「Answers」では、求人情報だけでなく、転職市場の最新動向や応募書類の添削、面接対策といったサポートも提供しています。「キャリアチェンジの相談をしたい」「とりあえず情報収集から始めたい」という方もお気軽にお問い合わせください。

（コンサルタント　菅谷義伸）