2024年度薬価制度改革は「ドラッグ・ラグ/ロスの解消」と「安定供給確保」が大きなテーマ。新薬ではイノベーションの評価に重点が置かれ、さまざまな見直しが行われます。中央社会保険医療協議会(中医協)が昨年末にまとめた改革の骨子をもとに、新薬に関する薬価制度改革のポイントをまとめました。
「迅速導入加算」の新設
24年度薬価制度改革では、革新的新薬を欧米から遅れることなく日本に導入したことを評価する「迅速導入加算」が新設されます。現行の薬価制度には、世界に先駆けて日本で実用化を目指す新薬を承認審査で優遇する「先駆的医薬品」の指定品目を評価する「先駆導入加算」がありますが、迅速導入加算の新設によって先駆的医薬品に指定されていない品目にも日本での早期申請・承認に対するインセンティブが与えられることになります。
加算の要件は、▽国際共同治験が行われている、または日本で海外と同時もしくは海外より先に治験が行われている▽申請時期が欧米より早いか6カ月以内▽承認時期が欧米より早いか6カ月以内――など。新規収載時だけでなく、適応拡大に伴う改定時の加算や市場拡大再算定の補正加算(=引き下げ率の緩和)にも適用されます。
新薬創出加算の見直し
特許期間中の新薬の薬価を維持する新薬創出・適応外薬等解消等促進加算(新薬創出加算)では、企業指標(企業の新薬開発への取り組みをポイント化したもの)に基づいて加算額に差をつける仕組みが廃止されます。
従来は、臨床試験の実施数や承認取得数などで企業の新薬開発への取り組みを評価していましたが、ベンチャーなど規模の小さい企業が不利になるとの指摘があり、廃止に至りました。新薬開発でベンチャーの存在感が増す中、見直しを通じて日本市場に新薬を投入してもらいやすくする狙いです。
さらに、品目の要件に、小児向け医薬品と迅速導入加算の対象品目を追加し、対象を拡大。従来の仕組みでは加算が適用されても改定前の薬価を維持できない場合があり、22年度改定で薬価が維持された品目は加算対象品目の6割にとどまっていましたが、4月からは計算式を見直すことで薬価を維持できるようにします。
一方、24年度からは、乖離率(市場実勢価格と薬価の差)が全医薬品の平均を超える品目については、新薬創出加算を適用しないことになりました。従来は、額は小さいながらも加算は適用されており、この点は製薬企業にとって厳しい見直しとなります。
有用性系加算の評価項目の拡充
有用性系加算(画期性加算、有用性加算I、同II)では、加算率を決める際の評価項目を拡充し、従来のルールでは評価されにくかった観点でも医薬品の有用性を評価できるようにします。
有用性系加算の加算率は、評価項目のうち該当する項目のポイントを積み上げ、1ポイント=5%として算出する「ポイント制」が採用されています。ポイント制は2014年度に導入されましたが、創薬モダリティの多様化や比較試験を行うのが難しい難病・希少疾患向け医薬品の増加など、近年の創薬環境の変化には十分対応できておらず、評価の観点を追加することになりました。
追加される評価項目は、▽創薬・製造のプロセスが類似薬等と大きく異なることに基づいた臨床上の有用性が示される▽同じ疾患領域で新規作用機序の新薬が長期間収載されていない――など5つ。臨床試験の副次的評価項目でQOLの改善が示された場合なども評価の対象になります。
小児用医薬品の評価の充実
臨床試験の実施が難しく、採算が合わないことも多いため、企業が開発に手を出しにくい小児用医薬品については、薬価上の評価を充実させることで開発を促します。
新規収載時に5~20%、薬価改定時に5~30%とされている小児用医薬品に関する加算については、規定の範囲内で加算率を柔軟に判断できるよう運用を改善。従来は大半の品目で5%の加算が適用されていますが、より高い加算率を適用しやすくします。あわせて、小児加算の対象品目を新薬創出加算の品目要件に追加し、同加算の対象にします。
小児用医薬品の開発促進に向けては、薬事制度の見直しが検討されており、成人用途の開発時に企業の判断で小児用途の開発計画も同時に策定し、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が確認する仕組みが創設されることになっています。これを踏まえて24年度以降は、PMDAの確認を受けた開発計画に基づいて開発を進め、小児適応が承認された場合には、小児加算の加算率をより高く評価。計画に基づいて小児適応の開発が行われている品目が市場拡大再算定の対象になった場合、開発途中の段階であっても小児に関する補正加算を適用して引き下げ率を緩和します。
市場拡大再算定の見直し
売り上げが想定を上回って大きくなった医薬品の薬価を引き下げる市場拡大再算定では、いわゆる「共連れルール」が見直されます。
市場拡大再算定の共連れルールとは、ある医薬品に再算定が適用される場合、適応や薬理作用が類似するほかの品目の薬価もあわせて引き下げるルール。市場競争の公平性を確保する観点で設けられているルールですが、幅広いがん種に適応を広げる免疫チェックポイント阻害薬では適応拡大によって繰り返し類似品としての再算定を受けるケースがあり、結果として適応拡大に向けた開発に影響を与えるとの懸念が示されていました。
24年度からは、あらかじめ中医協が特定する領域で共連れルールの適用を除外することとします。共連れルールの適用を除外する領域については、今後、中医協で検討することになっています。