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【ポイントを整理】薬価制度改革、議論大詰め…「ラグ/ロス解消」「安定供給確保」対策の方向性は

更新日

前田雄樹

2024年度薬価制度改革をめぐる議論が大詰めを迎えています。今回の制度改革は「ドラッグ・ラグ/ロスの解消」と「安定供給の確保」が大きなテーマで、厚生労働省は11月29日の中央社会保険医療協議会(中医協)薬価専門部会にこれまでの議論を整理した論点案を提示。2日の中医協総会では今年度の薬価調査の結果、平均乖離率が約6.0%だったことが報告され、年内の骨子とりまとめに向けて議論は佳境に入ります。現時点で見えている制度改革の方向性を整理しました。

 

 

【ラグ/ロス解消】「迅速導入加算」を創設、有用性加算の評価拡充

1つ目のテーマであるドラッグ・ラグ/ロスの解消に向けては、

▽革新的新薬の日本への早期導入を評価する「迅速導入加算」の創設
▽新薬創出・適応外薬解消等促進加算の見直し
▽有用性系加算の評価項目の拡充
▽小児用医薬品の評価の充実
▽市場拡大再算定の見直し

――などが柱。ここ数回の制度改革に比べてイノベーションに対する評価が目立つ内容で、厚労省はこうした薬価上の措置によって日本企業の創薬力の強化とドラッグ・ラグ/ロスの解消を後押ししたい考えです。

 

【ドラッグ・ラグ/ロス解消に向けた薬価制度の主な見直し案】 日本への早期導入に関する評価/迅速導入加算を創設し、欧米に遅れることなく日本に導入される革新的新薬を評価/収載後の外国平均価格に基づく引き上げを可能に|新薬創出加算の見直し/企業要件を廃止し、ベンチャーなど小規模な企業が加算の恩恵を受けやすくすることを検討/品目要件を増やし、対象品目を拡大/改定前の薬価を維持できるよう計算式を変更/平均乖離率を上回る品目は加算対象から除外|有用性系加算の見直し/評価項目を増やし、対象を拡大|小児用薬品の開発促進/小児加算の加算率を柔軟に判断できるようにする/小児加算による評価の対象になり得る品目を新薬創出加算の対象に追加/成人用との同時開発で小児加算の加算率を高くする| 市場拡大再算定の見直し/特定の領域で類似品の適用(いわゆる共連れルール)を除外|※中医協薬価専門部会の資料をもとに作成

 

革新的新薬の日本への早期導入を評価

革新的新薬を国内に迅速に導入した場合の薬価上の評価は製薬企業が求めていたもので、新たに創設する「迅速導入加算」では、欧米に大きく遅れることなく、または欧米より早く日本で申請・承認取得した新薬を評価。現行の薬価制度には、世界に先駆けて日本で実用化を目指す新薬を承認審査で優遇する「先駆的医薬品」の指定品目を評価する「先駆導入加算」がありますが、先駆的医薬品に指定されていなくても日本での早期申請・承認にインセンティブが設けられることになります。

 

加算の要件は▽国際共同治験が行われている、または日本で先に治験が行われている品目▽優先審査品目▽申請時期が欧米より早い、または欧米の最初の申請から6カ月以内の品目▽承認時期が欧米より早い、または欧米の最初の承認から6カ月以内の品目――となる方向。新規収載時だけでなく、適応拡大についても改定時に適用されます。

 

日本への早期導入に対する評価では、外国平均価格調整ルールについて、既収載品目に対する適用を見直します。現行ルールでは、収載後の適用は原価計算方式で薬価算定された品目だけが対象ですが、類似薬効比較方式で算定された品目にも拡大。現行ルールでは認められていない価格の引き上げも可能にします。患者負担を考慮し、引き上げには上限を設ける方向で、厚労省は「改定前薬価の1.2倍」を提案しています。

 

新薬創出加算、企業要件・企業指標見直しは議論続く

新薬創出加算の見直しでは、企業要件・企業指標の見直しが焦点です。企業要件・企業指標は、新薬開発への企業の取り組みに応じて加算額を調整する仕組み。臨床試験の実施数などが評価されるため、ベンチャーなど規模の小さい企業が不利になるとの指摘があり、厚労省は廃止を提案しています。一方で「廃止すれば企業の取り組みが後退するのではないか」と懸念する声もあり、結論はまだ出ていません。

 

品目要件には「小児の効能効果、用法用量が明確であり、小児加算の対象となり得る品目」と「迅速導入加算の対象品目」を追加。加算額については、改定前の薬価を維持できるよう計算式を見直す一方、市場実勢価格との乖離率が平均を上回る品目は加算対象から外す方向。現行では、平均乖離率を超える品目は加算を減額するルールとなっており、ここは厳しくなります。

 

有用性系加算 評価項目増やし対象を拡大

有用性系加算(画期性加算・有用性加算)の見直しでは、評価項目を増やすことで加算を適用しやすくします。有用性系加算は、▽臨床上有用な新規の作用機序を持つ▽類似薬に比べて高い有効性・安全性が示されている▽治療方法の改善が示されている――の3つの観点で計15の評価項目が設定されていますが、24年度改革では「創薬・製造プロセスが類似薬等と大きく異なることに基づく臨床上の有用性」や「同じ疾患領域で新規作用機序の新薬が長期間収載されていない」など5項目を追加。これまで評価されてこなかった観点を加えることによって、加算の対象を広げます。

 

小児用医薬品の開発促進に向けては、小児加算の加算率を柔軟に判断できるようにするほか、小児の効能効果や用法用量が明確で小児加算の対象となり得る品目に新薬創出加算を適用できるようにする方向。成人用の開発時に小児用の開発計画を策定し、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の確認を受けた品目が、実際に計画に沿って開発を進めて小児適応の承認を取得した場合、小児加算の加算率を高く設定するなどの対応も行われます。

 

市場拡大再算定「共連れルール」特定領域は除外

市場拡大再算定では、製薬業界がかねてから批判してきた類似品の引き下げ、いわゆる「共連れルール」が見直されます。多様ながん種に適応が広がる免疫チェックポイント阻害薬のような薬剤では、適応拡大が進むことで類似品として再算定による引き下げを受けやすくなっており、適応拡大に向けた開発を阻害していると指摘されてきました。24年度の制度改革では、中医協が決めた特定の領域で類似品の適用を除外することになる見通しです。

 

イノベーションの評価ではこのほか、改定前の薬価より価格が引き上がりやすくなるよう、改定時の加算の適用方法を見直す方針です。

 

【安定供給確保】後発品、供給体制の評価を薬価に反映

後発医薬品を中心とする医薬品の安定供給の確保では、

▽安定供給体制の評価に基づく「企業指標」の導入と薬価への反映
▽収載数の多い後発品の収載時薬価の見直し
▽薬価を下支えする制度の充実

――が柱です。

 

【安定供給確保に向けた薬価制度の主な見直し案】企業指標の導入と評価|安定供給体制に関する情報の公表を後発品メーカーに求め、その評価結果を薬価に反映| 収載数の多い後発品の収載時薬価の見直し/収載時薬価を先発品の4割に抑える基準(内用薬)を7品目超に厳格化|薬価を下支えする制度の充実 /基礎的医薬品の品目要件を一部緩和/不採算品再算定について、前回改定で対象となった品目の価格乖離状況を踏まえて必要な対応を検討/最低薬価について、価格乖離の状況や流通制度に関する議論も踏まえて必要に応じて検討|※中医協薬価専門部会の資料をもとに作成

 

安定供給への取り組みを薬価に反映

後発品の「企業指標」は、安定供給に関する情報の公表を企業に求め、医療現場で採用品目の選定に活用してもらうとともに、評価結果を薬価に反映する仕組み。評価の指標は、▽安定供給に関する情報の公開▽安定供給のための予備対応力の確保▽供給実績▽薬価の乖離状況――の4つの観点で計17項目が挙がっていますが、24年度改定では現時点で評価可能な一部の項目に限って運用を開始する方向です。

 

指標に基づく企業の評価は、項目ごとの点数の合計点に基づいて行います。厚労省は、上位20%を「A区分」、合計点がマイナスとなった企業を「C区分」、その他の企業を「B区分」とし、A区分の企業の品目を一定条件の下で3価格帯とは別の扱いにすることや、薬価の下支え措置の恩恵を受けやすくすることを提案しています。

 

企業指標の導入はシミュレーションを行った上で最終判断する方針。24年度薬価改定では試行的な導入とし、価格帯の扱いについては一部の医薬品に限定して適用する方向です。

 

新規収載時薬価は厳格化

同時に収載される品目が多い後発品の薬価算定は厳格化される公算です。現在の制度では、内用薬で同時に収載される品目が10を超える場合、薬価は先発医薬品の4割(通常は5割)とされていますが、厚労省はこれを「7品目超」に見直すことを提案しています。薬価を抑えることで参入を抑制し、安定供給上の課題である少量多品目構造の解消につなげたい考えです。

 

基礎的医薬品の要件を緩和

薬価を下支えする制度の充実に向けては、長期にわたって広く使われている医療上の必要性の高い医薬品の薬価を維持する「基礎的医薬品」の要件を一部緩和。収載からの期間を「25年」から「15年」に短縮し、適用対象を拡大します。

 

薬価が低く製造を続けることが難しくなった医薬品の薬価を引き上げる「不採算品再算定」は、前回改定で対象となった品目の実勢価格の乖離状況などを踏まえて必要な対応を検討するとしています。薬価の下限を定める「最低薬価」についても、価格乖離の状況や流通制度に関する議論を踏まえて検討する方針です。

 

12月1日の中医協総会では、今年度の薬価調査の結果、市場実勢価格と薬価の乖離は平均約6.0%だったことが報告されました。平均乖離率は前回(22年度)の約7.0%、前々回(21年度)の7.6%から大幅に短縮。平均乖離率が明らかになったことで、24年度改定に向けた議論はここからさらに加速します。

 

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