(写真:ロイター)
[ロイター]独バイエルは、新規抗凝固薬アスンデキサンの大規模後期臨床試験について、有効性が見られないため中止すると発表した。アスンデキサンはバイエルのパイプラインで最も有望視されていたプロジェクトの1つ。試験中止はこれに疑問を投げかけ、苦境にあるバイエルに新たな打撃を与えた。
バイエルの株価は11月20日午後9時3分の時点で16.4%下落し、12年ぶりの安値となった。除草剤「ラウンドアップ」の発がん性をめぐる米国での訴訟で15億6000万ドルの支払いを命じられたこともセンチメントに打撃を与えた。
エリキュースに有効性劣る
バイエルは19日夜、脳卒中リスクのある心房細動患者を対象に行っているアスンデキサンの臨床第3相(P3)試験を中止すると発表した。試験途中のモニタリングで、米ブリストル・マイヤーズスクイブ/米ファイザーのアピキサバン(製品名・エリキュース)に有効性で劣ることが示され、独立データモニタリング委員会が中止を勧告した。
バイエルはアスンデキサンが年間50億ユーロ(55億ドル)以上の売り上げを生み出し、2026年に特許切れが見込まれる主力の経口抗凝固薬「イグザレルト」(一般名・リバーロキサバン)に代わる収益源として期待していた。
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今年6月に就任したビル・アンダーソンCEO(最高経営責任者)は、低迷する株価を回復させるため、医療用医薬品、コンシューマーヘルス、農薬・種子からなるバイエルを解体する選択肢を検討している。意思決定の簡素化も図っており、管理職の削減も進めている。
独ユニオン・インベストメントのポートフォリオマネジャー、マーカス・マンズ氏は、アンダーソン氏は現在、「極めて困難な」課題に直面していると話す。
バークレイズのアナリストらは「私たちのモデルからアスンデキサンを除外したことは、バイエルの医療用医薬品事業に重大な課題が待ち受けていることを示唆している」と指摘。治験失敗は全くの驚きだったと付け加えた。
別のP3試験は継続
バイエルが中止したのは、1万8000人の患者を対象に2022年8月に開始した「OCEANIC-AF」試験。同社は今後、詳細なデータの分析を行う。安全性に関するデータはこれまでの研究と一致しているという。
同社によると、独立データモニタリング委員会は、すでに脳卒中を患っている患者を対象に行っている別のP3試験「OCEANIC-STROKE」については継続を推奨したという。
今回の治験中止は、アスンデキサンによって米国での事業拡大を期待していた製薬部門責任者ステファン・エルリッヒ氏にとっても打撃だ。イグザレルトでは米ジョンソン・エンド・ジョンソンと開発コストを共有し、米国市場の大部分を同社に任せたが、アスンデキサンでは単独開発を選択し、米国でのマーケティングや流通に多額の費用を投じる用意をしていた。
ユニオン・インベストメントのマンズ氏は、アスンデキサンについても開発費用をパートナーと分担すべきだったと指摘。「アスンデキサンの扱いはバイエルのリスク管理の新たな失敗例となった」とし、バイエルには持続可能な成長の見通しが欠けていると語った。
アスンデキサンは血液凝固第XI因子(FXI)阻害薬として知られる新しい薬剤クラスに属する。FXI阻害薬は、プライベートエクイティのブラックストーンと協力するノバルティス(スイス)やブリストルも開発を進めている。
バイエルは今年1月、開発中の4つの新薬候補について、ピーク時売上高が計120億ユーロを超える可能性があると発表した。アスンデキサンはその1つだった。
(Ludwig Burger、Jose Joseph/編集:Miranda Murray、Christopher Cushing、Emelia Sithole-Matarise/翻訳:AnswersNews)