GLP-1受容体作動薬への需要が世界的に高まっています。海外では2型糖尿病に加えて肥満症での処方が拡大しており、生産が追いついていません。日本国内でも出荷に制限がかかるなど供給に支障をきたしていますが、新薬の登場で市場は拡大を続けています。
リベルサス、患者シェア39%
米イーライリリーは今月2日、2023年第3四半期(1~9月期)決算を発表し、GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」(一般名・チルゼパチド)の世界売上高が29億5770万ドル(約4500億円)に達したことを明らかにしました。22年6月に世界で初めて米国で発売されて以降、飛躍的に市場を拡大させています。糖尿病領域世界トップのノボノルディスク(デンマーク)も同日、GLP-1受容体作動薬「オゼンピック」の23年第3四半期の世界売上高が656億5300万デンマーク・クローネ(約1兆4300億円)に達し、為替変動の影響を除いて前年同期から58%増加したと発表しました。
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需要の増大で世界的に品薄となっているGLP-1製剤ですが、日本ではどのように市場が構成されているのでしょうか。メディカル・データ・ビジョン(MDV)が全国237病院の処方を分析したデータによると、近年発売された新薬が勢力図を塗り替えていることがはっきりとうかがえます。
▽「ビクトーザ」(ノボノルディスクファーマ)▽「トルリシティ」(日本イーライリリー)▽「オゼンピック」(ノボ)▽「リベルサス」(ノボ)▽「マンジャロ」(リリー)――のGLP-1製剤5製品の処方患者数を見ると、20年5月まではトルリシティとビクトーザの2剤が市場を分け合う構図で、全体の6割をトルリシティが占めていました。
利便性で処方拡大
そこに割って入ってきたのが、同じセマグルチドを有効成分とする注射剤のオゼンピックと経口剤のリベルサスです。オゼンピックは発売1年後から一気に患者数を増やしましたが、製造委託先のGMP上の問題で22年から出荷を調整・停止し、一時的に低迷。代わって台頭したのがリベルサスで、今年6月には処方患者数トップに躍り出ました。オゼンピックも、薬価未収載だった複数回使用可能な2mg製剤を急遽発売したことで勢いを取り戻したようです。
リベルサスは、ノボが独自技術を使って分子量の大きいGLP-1の経口投与を可能にした製剤です。1日の最初の食事の前に服用し、その後30分は飲食ができないという制約があるものの、1日1回の経口投与という利便性に加え、オゼンピックの出荷調整もあって処方が広がりました。MDVのデータによると、同薬のGLP-1製剤市場での今年8月時点のシェアは処方患者数ベースで39%、金額ベースで24%に上っており、今後さらにその数値を高めていきそうです。
マンジャロ、4~9月に売上高31億円
世界的に注目を集めているマンジャロは、日本でも今年4月に発売されました。GLP-1とGIPの2つのインクレチンに作用し、HbA1c低下・体重減少の効果はGLP-1のみを標的とする薬剤を上回ることが臨床試験で示されています。
販売を担当する田辺三菱製薬によると、23年度上半期(4~9月期)の売上高は31億円(4~6月期が9億円、7~9月期が23億円)に達しました。MDVのデータを見ても、オゼンピックやリベルサスに比べて立ち上がりが早いことがわかります。虎の門病院の門脇孝院長は6月に都内で講演した際、「(マンジャロは)肥満のある患者ではファーストチョイスで使われる局面もある」と話しており、経口血糖降下薬を使わずに最初から処方されるケースもありそうです。
ただ、供給体制はいまだ整わないままです。全6規格のうち高用量の4規格が6月の発売から1カ月で限定出荷を余儀なくされ、先行して4月に発売した低用量の2規格も8月には限定出荷となりました。解除の見通しは現在のところ立っていません。米リリーのダニエル・スコブロンスキー最高科学・医学責任者は先月、AnswersNewsのインタビューで「供給はかなりタイト。工場を新設しているが、製造を開始するまでには時間がかかる」と状況を説明。需要が急速に拡大する中で供給が追いついていないことに理解を求めました。糖尿病治療のゲームチェンジャーとして期待を集めていましたが、出鼻をくじかれた感もあります。
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市場構造一変させる存在に
ただ、海外での爆発的な売り上げ拡大を踏まえると、国内にも相当な潜在需要があるものと推察されます。出荷制限はなお続いていますが、今後の市場動向を占う上ではリリーが15年9月に発売したトルリシティが参考になるかもしれません。同薬の初年度の売り上げ(薬価ベース)は7億円と、2週間処方のしばりもあってゆったりとした滑り出しでした。しかし、2年目から急速に市場浸透し、5年目の19年度に300億円に到達。以降、20年度に339億円でピークに達するまで、毎年300億円台の売り上げを保ってきました。
GLP-1受容体作動薬は、2010年に国内初のビクトーザが登場して以降、しばらくは同じインクレチン製剤であるDPP-4阻害薬の陰で苦戦。HbA1c低下効果の高さは認められていたものの、注射剤であることがハードルの1つになったと言われています。しかし、週1回投与のトルリシティが登場したことで状況は一変。ビクトーザも再評価され、売り上げを伸ばしました。
マンジャロはGIPにも作用することでより顕著なHbA1cや体重の減少効果が期待されます。供給体制が整えば、トルリシティのように市場構造を大きく変える存在になるかもしれません。
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そのトルリシティは長らく市場のトップを走ってきましたが、今年1月から販売が住友ファーマからリリーに移管されました。その後、3月になって世界的な需要動向を要因に限定出荷を開始。投与患者数はこの半年あまりで半減しています。
適正使用が課題に
GLP-1製剤の市場は体重減少効果への期待もあって今後も拡大していく見通しですが、一方で美容目的の不適切な使用をどう抑えるかが課題となっています。
厚生労働省は7月と11月の2度にわたって医療機関や医薬品卸に適正な使用と供給を要請。11月の要請では卸に対し「注文を受けた際には、薬事承認を得た範囲での治療を目的としたものであるかどうかを確認し、薬事承認範囲外の治療目的であることが明らかな場合には納入をしないなど、糖尿病治療を行っている医療機関・薬局への供給をお願いしたい」と踏み込みました。
国内では今年3月、セマグルチドを有効成分とする肥満症治療薬「ウゴービ」(ノボ)が承認を取得しましたが、供給体制を整えてから発売するとして現在のところ薬価収載されていません。マンジャロも11月8日に米国と英国で肥満症を対象に承認されており(製品名・ゼップバウンド)、日本でも開発が進められています。
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