(写真:ロイター)
2023年10月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大を、領域別にまとめました。
【新薬】中国企業開発の上咽頭がん治療薬「Loqtorzi」など
消化器
Velsipity|米ファイザー
「Velsipity」(etrasimod arginine)は、中等症から重症の活動期の潰瘍性大腸炎治療薬。同薬はスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体モジュレーターで、1日1回経口投与します。臨床試験では、12週間の導入療法とその後の40週間の維持療法からなる治療を検討。12週時点と52週時点でプラセボに比べて高い臨床的寛解率を示しました。欧州やカナダなどでも申請中で、日本ではP3試験が行われています。
Omvoh|米イーライリリー
「Omvoh」(mirikizumab)は、中等症から重症の活動期の潰瘍性大腸炎治療薬として承認されました。大腸粘膜の炎症に関与するサイトカインのIL-23のp19サブユニットを標的とする抗体医薬。既存治療で効果不十分の患者を対象とした臨床試験では、寛解導入試験と維持試験の両方でプラセボと比較して有意な臨床的寛解と症状改善を達成しました。日本では世界に先駆けて今年4月に承認され、6月に提携先の持田製薬が発売。欧州でも承認済みです。
皮膚
Bimzelx|ベルギーUCB
「Bimzelx」(bimekizumab)は、中等症から重症の尋常性乾癬治療薬。炎症性サイトカインのIL-17AとIL-17Fを阻害する抗体医薬です。1480人の患者を対象に行った臨床第3相(P3)試験では、プラセボに比べて優れたレベルの皮膚クリアランスを達成。欧州では21年、日本では22年に承認されています。
Cabtreo|米ボシュ・ヘルス
「Cabtreo」(clindamycin/adapalene/benzoyl peroxide)は、尋常性ざ瘡(にきび)治療用の局所ゲル製剤。塗布回数が減少し、治療を簡素化できると期待しています。363人の患者を対象としたP3試験の結果をもとに承認されました。
神経・筋
Zilbrysq|ベルギーUCB
「Zilbrysq」(zilucoplan)は、抗アセチルコリン受容体 (AChR) 抗体陽性の全身型重症筋無力症に対する治療薬。補体C5を阻害する1日1回自己投与の皮下注ペプチド製剤で、神経筋接合部への補体が関与する損傷を阻害する作用を持ちます。国際共同P3試験では、プラセボとの比較で症状を有意に改善しました。日本では今年9月に承認。欧州でも年内に承認される見通しです。
Agamree|スイス・サンテラ
「Agamree」(vamorolone)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療に使うステロイド性抗炎症薬。毒性を抑えるよう設計されており、臨床試験では、標準的なコルチコステロイド治療と同等の有効性を示しながら、有害事象を減少させることが示唆されました。米国ではライセンスを有する米カタリスト・ファーマシューティカルズが販売を行います。欧州でも年内に承認される予定です。
がん
Loqtorzi|米コヒラス
抗PD-1抗体「Loqtorzi」(toripalimab)は上咽頭がん治療薬。「転移性または再発局所進行上咽頭がんの1次治療」に対するcisplatin、gemcitabineとの併用療法と、「化学療法後に病勢進行した再発・切除不能または転移性の上咽頭がん」に対する単剤療法が承認されました。中国のJunshi Bioが開発した次世代の抗PD-1抗体で、PD-1とPD-L1、PD-L2の結合を阻害します。中国では「Tuoyi」の製品名で販売されており、欧州でも申請中です。
内分泌・代謝
Xphozah|米アーデリックス
リン吸収阻害薬「Xphozah」(tenapanor)は「透析中の慢性腎臓病患者における血清リン濃度の低下」の適応で承認されました。同薬は腸管で局所的にナトリウムイオン/プロトン交換輸送体3(NHE3)を阻害し、リン吸収を抑制する薬剤。日本では導出先の協和キリンが高リン血症を対象に「フォゼベル」の製品名で9月に承認を取得しました。
ワクチン
Penbraya|米ファイザー
「Penbraya」は、髄膜炎菌ワクチン。10~25歳が対象です。既承認の2つのワクチン「Trumenba」「Nimenrix」の成分を組みわせたもので、主要な5つの血清型をカバー。接種回数を減らすことで予防の遅れを防ぐことを期待しています。P3試験では、TrumenbaとNimenrixの併用に対する非劣性が示されました。
【適応拡大】Keytrudaの胆道がん、非小細胞肺がん周術期など
がん
Braftovi+Mektovi|米ファイザー
BRAF阻害薬「Braftovi」(encorafenib)とMEK阻害薬「Mektovi」(binimetinib)の併用療法は、新たに「BRAF V600E変異陽性の転移性非小細胞肺がん」の適応で承認されました。2剤併用療法では、悪性黒色腫に続く2つ目の適応となります。日本では導出先の小野薬品工業が甲状腺がんへの適応拡大を申請中です。
Keytruda|米メルク
抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)は、「切除可能な非小細胞肺がんの補助療法」と「局所進行・切除不能または転移性の胆道がん」への適応拡大が承認されました。早期の非小細胞肺がんの補助療法では、術前はプラチナ製剤を含む化学療法との併用、術後は単剤で使用。胆道がんでは、gemcitabineとcisplatinを併用します。18年に迅速承認された「局所進行または転移性メルケル細胞がん」の適応では完全承認を取得しました。
Opdivo|米ブリストル・マイヤーズスクイブ
抗PD-1抗体「Opdivo」(nivolumab)は、新たに「根治切除後のステージⅡB/Cの悪性黒色腫の適格患者に対する術後補助療法」が承認。早期がんでは5つ目の適応となります。承認の根拠となった臨床試験では、プラセボと比べて無再発生存期間を有意に改善しました。
Rozlytrek|米ジェネンテック
チロシンキナーゼ阻害薬「Rozlytrek」(entrectinib)は「NTRK融合遺伝子陽性の固形がん」の適応で生後1カ月から11歳の小児に対象を拡大。年齢を問わず使用できるようになりました。あわせて、ペレット剤の承認も取得。日本では2019年に成人・小児を対象に承認されています。
Tibsovo|仏セルヴィエ
IDH1阻害薬「Tibsovo」(ivosidenib)は、IDH1遺伝子変異陽性の再発・難治性の骨髄異形成症候群に適応拡大。骨髄異形成症候群では患者の約3.6%にIDH1変異があるとされます。同適応に対する標的療法は米国初。18人の患者を対象としたP1試験の結果をもとに承認されました。日本では、急性骨髄性白血病を対象とするP3試験が進行中です。
皮膚
Zoryve|米Arcutis
1日1回塗布の尋常性乾癬治療薬「Zoryve」(roflumilast)は、6歳から11歳の小児に対象を拡大しました。2歳から5歳への適応拡大に向け、長期安全性を確認する試験も行っています。
Cosentyx|スイス・ノバルティス
抗IL-17A抗体「Cosentyx」(secukinumab)は、中等症から重症の化膿性汗腺炎に適応拡大。同疾患に使用できる生物学的製剤は約10年ぶりとなります。P3試験では、早ければ投与2週間で症状を軽減することが確認されました。
内分泌・代謝
Veltassa|スイス・ビフォー
高カリウム血症治療薬「Veltassa」(patiromer sorbitex calcium)は、12歳以上の小児に対象を拡大。同薬はナトリウムを含まない陽イオン結合非吸着性ポリマーで、腸管内で過剰なカリウムと結合して便とともに排泄され、高カリウム血症を改善すると期待されます。日本では、導出先のゼリア新薬工業が23年に申請を行いました。
眼
Vabysmo|米ジェネンテック
抗VEGF/Ang-2バイスペシフィック抗体「Vabysmo」(faricimab)は、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に適応拡大。アフリベルセプトに対する非劣性を示した国際共同P3試験の結果をもとに承認されました。日本でも中外製薬が23年4月に適応拡大を申請済みです。
その他
Voxzogo|米バイオマリン
骨端線閉鎖を伴わない軟骨無形成症に対する治療薬「Voxzogo」(vosoritide)は、5歳未満の小児に使用できるようになりました。早期に治療を始めることで、治療効果が大きくなると期待されます。欧州でも年内に生後4カ月以上2歳未満の小児への対象拡大が承認される見通し。日本では、22年に年齢を問わない形で承認されています。
【バイオシミラー】セルトリオンのinfliximab皮下投与製剤など
Zymfentra|韓国セルトリオン
抗TNFα抗体「Remicade」(infliximab)のバイオシミラー。先発品は静注製剤ですが、Zymfentraは米国初の皮下投与可能なinfliximab製剤です。欧州でも承認を取得しています。
Wezlana|米アムジェン
米ヤンセンの抗IL-12/23p40抗体「Stelara」(ustekinumab)のバイオシミラー。乾癬や炎症性腸疾患などの治療に使用されます。