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ニュース解説

開発中止相次ぐ協和キリン、遺伝子治療獲得で反転攻勢なるか

更新日

前田雄樹

協和キリンが英バイオ医薬品企業を買収し、遺伝子治療に参入します。昨年から今年にかけて次世代戦略品候補5品目中3品目の開発を中止した同社。パイプライン強化と創薬技術獲得へ過去最大規模の買収に踏み切りました。

 

 

最大規模の買収

協和キリンは10月5日、造血幹細胞遺伝子治療(HSC-GT)の開発・販売を手掛ける英オーチャード・セラピューティクスを買収すると発表しました。約3億8740万ドル(約573億円)で同社の発行済み全株式を取得し、オーチャードの開発品が米国で承認された際に支払う追加の対価を含めると買収額は4億7760万ドル(約707億円)となります。買収は2024年第1四半期に完了する予定です。

 

オーチャードが手掛けるHSC-GTは、患者から採取した造血幹細胞にレンチウイルスを使って治療用の遺伝子を導入し、患者に投与するex vivoの遺伝子治療。さまざまな血液細胞に分化する造血幹細胞の特性により、体内のあらゆる部分に遺伝子を運ぶことができるのが特徴です。

 

オーチャードは異染性白質ジストロフィーに対するHSC-GT製品「Libmeldy」(一般名・atidarsagene autotemcel、開発コード・OTL-200)の承認を20年に欧州で取得。米国でも申請中で、米FDA(食品医薬品局)による審査終了目標日は24年3月18日に設定されています。このほか、臨床開発段階にはムコ多糖症I型に対する「OTL-203」とムコ多糖症IIIA型に対する「OTL-201」の2つの開発品が控えており、いずれも臨床第1/2相(P1/2)試験が進行中です。

 

 

協和キリンは買収を通じて希少疾患分野のパイプラインを強化するとともに、細胞遺伝子治療研究のケイパビリティを獲得。HSC-GT技術を使って有望な治療法の継続的な創出を期待します。専務執行役員チーフメディカルオフィサー(CMO)の山下武美氏は「今回の買収により、患者の生活を大きく改善することが期待できる新たなモダリティを活用できるようになる」と強調します。

 

「弾不足」なお課題

協和キリンの23年12月期の業績予想は、売上収益4260億円(前期比6.9%増)、コア営業利益880億円(1.5%増)。自社創製のX染色体連鎖性低リン血症治療薬「クリースビータ」が伸び、海外を中心に足元の業績は好調です。

 

一方で、クリースビータの次を担う新薬の開発は難航しています。21~25年の中期経営計画では5つの新薬候補を「次世代戦略品」に位置付けていますが、昨年から今年にかけてそのうち▽「KW-6356」(対象疾患・パーキンソン病)▽「ME-401」(濾胞性リンパ腫/辺縁帯リンパ腫)▽「ART402」(アルポート症候群/糖尿病性腎臓病/常染色体優性多発性嚢胞腎)――の3品目の開発を中止。次世代戦略品以外でも、遺伝子組換えアンチトロンビン製剤「アコアラン」の妊娠高血圧腎症への適応拡大を狙ったP3試験が主要評価項目未達となるなど、苦戦が続いています。

 

 

残る次世代戦略品で大型化が期待できるのは、アトピー性皮膚炎を対象に米アムジェンと共同開発している抗OX40抗体「KHK4083」。クリースビータの拡大でしばらくは成長軌道が続くものの、同薬やKHK4083に続いて成長を支える新薬の「弾不足」は否めません。

 

今回のオーチャード買収は、中長期的な研究開発力強化を企図した側面が大きく、特に近い将来、収益に貢献する新薬候補の不足という課題はなお残ります。CMOの山下氏は5日の説明会で「サステナブルな成長には今回の買収だけで十分とは考えていない」と話し、さらなるM&Aや新薬導入に取り組む考えを示しました。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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