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ニュース解説

エーザイの「レケンビ」とアステラスの「べオーザ」大型化期待の新薬、販売の立ち上がりは

更新日

穴迫励二

アルツハイマー病治療薬「レケンビ」と、更年期障害治療薬「べオーザ」。エーザイとアステラス製薬が大型化を期待する新薬の販売状況が、今月発表された2023年4~6月期決算で明らかになりました。両社の将来の屋台骨を担う2剤の立ち上がりと今期の見通しを探ります。

 

 

レケンビ「30年度1兆円」に自信

7月6日に米国で正式承認を取得したレケンビは、世界初のアルツハイマー病(AD)に対する疾患修飾薬です。1月の迅速承認取得以降、営業活動は極めて限定的でしたが、正式承認に伴い公的医療保険の適用対象が広がったことを受け、処方に向けた動きも本格化。売上高や投与患者数は明らかにしていませんが、正式承認を境に「出荷するバイアル数や推定患者数は数倍に増加している」(内藤景介・常務執行役グローバルADオフィサー)といいます。同社は、大規模な統合医療ネットワークを含め、これまで処方の準備段階にあった多くの施設で実際に処方が始まっていることを確認。すでに1400人の神経科医が処方可能な状態になっています。

 

レケンビの処方拡大には、アミロイドPET検査の保険償還が進むことが必要です。現在はその前の段階であり、主に脳脊髄液中のアミロイドβによる確定診断を経て投与されています。米保健福祉省のメディケア&メディケイド・サービスセンターは、より侵襲性の低いPET検査の保険償還を制限してきましたが、その方針を見直すことを決めており、秋にも最終判断が示されます。実現すれば、処方拡大に弾みをつける大きなきっかけとなるでしょう。

 

エーザイはレケンビの長期的な売り上げ予測について、「2030年度に1兆円」を掲げています。その達成に向けて重要となるのが、患者負担の軽減です。レケンビは点滴静注製剤で、2週間に1回の投与が必要ですが、エーザイは投与時の負担が少ない皮下投与製剤(オートインジェクター)と、4週間に1回の維持投与レジメンの開発を進めています。いずれも23年度中に申請する予定です。

 

カギ握る「皮下投与」と「維持投与レジメン」

ADは慢性的に神経の変性を来す疾患であり、アミロイドβが除去された後も進行は止まりません。レケンビの臨床試験では18カ月時点ですべての主要・副次評価項目を達成し、6カ月からプラセボと比べ高度な有意差を確認。エーザイは「中長期の投与が更なるベネフィットをもたらす」としており、オートインジェクター製剤や維持投与レジメンの承認は治療継続を後押しする重要なポイントになりそうです。

 

レケンビは欧州や日本でも申請中。日本では8月21日の厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会で承認の可否が審議されますが、日本で発売された場合、処方にかかわる検査や診断などの体制は十分なのでしょうか。内藤常務は41人を抱えるエリアコーディネーターが、専門施設でのMRI、PET、脳脊髄液検査の実施状況と患者にどこまで対応可能かなどについて調査を進めていると説明。「将来的なキャパシティは一切問題がないことを確認している」と話しています。

 

23年度の売上高は第2四半期業績発表で明らかにされそうですが、処方患者ベースでの予想は1万人としており、実際の売上高は年間の薬剤費2万6500ドル(約380万円、割引前価格)や治療開始時期などによって決まってきます。米イーライリリーが開発する同じAD疾患修飾薬のドナネマブ(一般名)もFDA(米食品医薬品局)に承認申請を完了しており、競合が発生する市場環境となりましたが、エーザイは「今期の患者数1万人、30年売上高1兆円とその中間目標に対しても順調」と自信を示しています。

 

 

べオーザ「想定以上の高い関心」

閉経に伴う顔のほてりやのぼせなどの血管運動神経症状に対する非ホルモン治療薬ベオーザは、5月に米国で承認を取得し、6月から本格的な情報提供活動を開始しました。通期の売上高予想493億円に対し、4~6月期の実績は6億円でしたが、秋以降に勢いがつくと見ています。そのためには、民間保険のカバレッジを上げるとともに、医師や患者への認知度を高めることが必要です。

 

民間保険のカバレッジは15%に達したといい、アステラスは「一般的には(発売からカバレッジまで) 3 ~ 6カ月かかるため、現在の数値は想定通り」としています。保険会社との協議では予定を前倒ししてミーティングの開催要請が寄せられるなど、「想定以上に強い関心が示されている」と強調。今年度末までには大部分の民間保険でカバレッジの対象となることを見込んでいます。

 

医師と患者に向けた活動では、秋から患者向けの本格的なDTC(消費者向け広告)を展開する方針。医師に製品プロファイルへの理解が浸透していない段階で、DTCを見た患者が医療機関に行き医師に製品名を連呼するのは「最悪の状態」(岡村直樹社長)と考えているからです。適切に処方してもらうため、患者向けの本格的な活動は第3四半期(10~12月期)からとし、それまでに医師への情報提供を徹底するとしています。

 

初年度493億円の売り上げ予想

医師に対しては活動開始から1カ月間で約4万人と対面できており、1週間分の錠剤が入ったサンプルを7万ボトル配布しました。サンプルは処方データや売り上げには反映されませんが、服用することで実処方につながることが期待できるとしています。それにはもちろん、保険のカバレッジ向上が影響してきます。

 

アステラスはベオーザについて、新薬を積極的に処方するいわゆるアーリーアダプターを9万7000人と推計しており、9月末までに6万5000人にコンタクトするという計画を立てています。1か月で4万人の医師と対面できたことには一定の価値がありそうです。

 

同社は、週次の処方箋データ(IQVIA集計)を見る限り立ち上がりにスピード感がないことを認めていますが、保険のカバレッジとDTCの開始で通期売上高予想493億円の達成は可能だと強調しました。

 

レケンビとベオーザの通期売り上げが目論見通りとなるかは、年内におおよそのめどがつきそうです。将来的に軌道に乗ってくればレケンビは文字通り屋台骨となって業績を支え、ベオーザは特許切れを控える抗がん剤「イクスタンジ」の減収をカバーする有力な存在になります。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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