アルツハイマー病治療薬「レケンビ」が9月25日に日本でも承認され、27日の中央社会保険医療協議会(中医協)で早速、薬価の検討が始まりました。年内の保険適用に向けた議論のポイントを整理します。
9月25日に承認されたレケンビは、アルツハイマー病の原因の1つとされるアミロイドβを標的とする抗体医薬。脳内のアミロイドβを除去することでアルツハイマー病の進行を抑制することを狙った薬剤です。適応は「アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症の進行抑制」で、体重1kgあたり10mgを2週間ごとに点滴で投与します。
承認の根拠となったグローバル臨床第3相(P3)試験では、投与18カ月時点の臨床症状の悪化をプラセボと比較して27%抑制。一方、副作用では、レケンビの投与を受けた被験者の12.6%で脳の浮腫(ARIA-E)が、17.3%に脳の微小出血(ARIA-H)が見られました。先行して承認された米国では、ARIA(アミロイド関連画像異常)を発現するリスクが高い遺伝子(APOE4)を持つかどうか投与開始前に検査することが推奨されていますが、日本では添付文書上はそうした検査は求められていません。
「年間市場規模1500億円超の可能性」
レケンビの投与対象となるのは、PET検査や脳脊髄液検査でアミロイドβの蓄積が確認された患者。添付文書では、投与する医師に対して定期的なMRI検査などARIAのリスク管理を求めています。厚生労働省は、こうした患者、医師・医療機関の要件を定めた「最適使用推進ガイドライン」を作成することにしています。
最適使用推進ガイドラインによって投与を受ける患者はある程度絞り込まれる見込みですが、アルツハイマー病によるMCI・軽度認知症の有病者数は計542万人と推定されており、厚労省は「承認された対象範囲の有病者数を踏まえると、実際の投与患者数は予想から増加する可能性がある」と指摘。レケンビが抗体医薬であることも踏まえ、「年間市場規模が1500億円を超える可能性が生じる」としています。
現在の薬価制度では、年間1500億円の市場規模を超えると見込まれる新薬が承認された場合、通常の薬価算定手続きに先立って中医協で個別に算定方法の議論を行うことになっています。この規定自体、レケンビなどのアルツハイマー病治療薬の承認をにらんで2022年度の制度改革で定められたもので、9月27日の中医協では、この規定に従って薬価専門部会で具体的な算定方法を検討することを決定。新薬は承認から原則60日以内、遅くとも90日以内に薬価収載するのがルールとなっており、レケンビについても90日以内に薬価収載できるよう議論を進めることを確認しました。
「介護費用の評価」どう扱う
レケンビの薬価算定でポイントの1つとなるのが、介護費用に対する影響を薬価にどう反映するかです。
エーザイは今年、日本の医療システム下でレケンビの社会的価値をシミュレーションした結果を論文として学術誌に発表しており、薬価収載にあたってもこのデータを提出。このデータは、医療費だけでなく介護費や家族によるインフォーマル・ケアコストなども含んだもので、こうした社会的観点に基づくレケンビの年間価値は193万8740円~467万5818円になるとしています。
薬価算定では、承認審査の過程で評価された臨床試験成績をもとに加算適用の可否などを判断しており、介護費用に対する影響などは通常、評価していません。介護費用の扱いについては、2019年4月に導入された「費用対効果評価制度」でも検討事項とされており、中医協の専門部会で今年7月に議論が始まったばかり。製薬業界は介護負担の軽減などを評価する仕組みの検討を求めている一方、海外でも先行事例が少なく、部会では「時期尚早では」との意見も出ています。
レケンビの薬価算定にあたっては、介護費用に対する影響の取り扱いを薬価専門部会と費用対効果評価専門部会で検討し、その結果も踏まえて中医協総会であらためて議論することになりました。介護負担の軽減はアルツハイマー病治療薬に対する評価の本丸とも言え、薬価にどのような形で反映させることができるのか、注目されるところです。