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免疫チェックポイント阻害薬は皮下注の時代へ―テセントリクSC、英国で世界初承認

更新日

亀田 真由

世界で一大市場を形成する免疫チェックポイント阻害薬が皮下投与の時代を迎えようとしています。8月末、「テセントリク」(スイス・ロシュ)の皮下注製剤(SC)が英国で承認。「キイトルーダ」(米メルク)や「オプジーボ」(同ブリストル・マイヤーズスクイブ)も開発の最終段階に入っています。投与時間の短縮など患者負担の軽減が期待され、各社は静注製剤からの切り替えによって2020年代後半から30年代前半に訪れる特許切れ後の収益維持につなげたい考えです。

 

 

米国では24年市場投入

世界市場は370億ドル(約5兆円)に上るとも言われる免疫チェックポイント阻害薬に、皮下投与製剤が登場します。抗PD-L1抗体「テセントリク」を販売するロシュは8月末、英国で同薬の皮下注製剤の承認を取得しました。免疫チェックポイント阻害薬の皮下注製剤の承認は世界初です。

 

ロシュは米国と欧州でも昨年11月に申請。米国では今月15日に審査終了目標日を迎えましたが、CMCプロセスの更新が必要だとして承認は先送りされました。ロシュに皮下注化技術を提供する米ハロザイム・セラピューティクスによると、CMCプロセスの更新は年内に完了する予定で、ロシュは2024年には米国で発売できると見ています。市場投入は当初の想定から遅れることになりましたが、それでもライバルの抗PD-1抗体「キイトルーダ」や同「オプジーボ」に先行する状況に変わりはありません。ロシュは「(米国の状況は)他国には影響しない」としています。

 

テセントリクの皮下注製剤は、ハロザイムが開発したヒアルロン酸加水分解酵素「rHuPH20」(ボルヒアルロニダーゼ アルファ)を配合したもの。ヒアルロニダーゼの働きによって皮下のヒアルロン酸を局所的に分解し、皮下に大量の薬剤を注入できるようにしています。臨床試験では静注製剤との同等性が確認されており、静注製剤が承認されているすべての適応が対象。投与にかかる時間は静注の30~60分から7分に短縮され、患者や医療機関の負担軽減が期待されています。

 

関連記事:ダラツムマブ 皮下注化の立役者…独自のDDS技術を持つ米バイオ医薬品企業ハロザイムとは

 

ロシュがハロザイムの皮下注化技術を適用するのは、抗がん剤「ハーセプチン」「リツキサン」と、ハーセプチンと同「パージェタ」の配合剤「Phesgo」に続いて4剤目(日本ではハーセプチンとリツキサンの皮下注製剤は未承認、Phesgoは申請中)。これらの薬剤に関する研究によれば、▽不快感の低減▽投与のしやすさ▽投与時間の短さ――といった理由から、ほとんどの患者が静注よりも皮下注を好むことが示唆されています。Phesgoでは、発売済みの国・地域全体で35%、英国では92%が静注製剤の併用から切り替えており、ロシュはテセントリク皮下注でも同じことが期待できるとしています。

 

ドル箱製品の売り上げ維持

各社が皮下注製剤に期待するのは特許切れ後の収益維持です。22年に約39億ドルを売り上げたテセントリクの従来製剤は2030年代前半に特許切れを迎えると予想されていますし、年間売上高200億ドル超の「キイトルーダ」や100億ドル近くの「オプジーボ」も米国で28年の特許切れを見込んでいます。皮下注製剤への切り替えによってバイオシミラーとの競争を回避し、ドル箱製品の売り上げを守りたい考えです。

 

米メルクは、単剤療法や化学療法との併用療法が中心となる早期がんでの活用に焦点を当ててキイトルーダの皮下投与製剤の開発を進めています。2種類の皮下注製剤を開発していますが、重点を置くのはヒアルロニダーゼを配合した「MK-3475A」。今年、日本を含むグローバルで臨床第3相(P3)試験を開始しました。静注製剤と同じ2つの投与間隔(3週ごと・6週ごと)に対応できることから臨床的有用性が高いとみています。試験結果は来年9月ごろに判明する見通し。同社は、皮下注製剤の実用化は「(静注製剤の特許が切れる)28年を超えてリーダーシップを維持し続ける」機会になるとしています。

 

ブリストルは腎細胞がんの2次治療を対象にオプジーボ皮下注製剤のP3試験を実施中。ハロザイムの技術を活用しており、静注製剤が承認されているすべての適応を対象に25年までの承認取得を目指しています。アストラゼネカも抗PD-L1抗体「イミフィンジ」(デュルバルマブ)の皮下投与製剤について、薬物動態と安全性を検証するP1/2試験を行っています。

 

【皮下投与製剤を開発中の抗PD-(L)1抗体】<製品名/社名/開発段階/海外/日本>テセントリク/アテゾリズマブ/スイス・ロシュ/承認(英国)/申請(米欧)/検討中(中外製薬)|キイトルーダ/ペムブロリズマブ/米メルク/P3/P3*|オプジーボ/ ニボルマブ/米ブリストル/P3/検討中(小野薬品)|イミフィンジ/デュルバルマブ/英アストラゼネカ/P1/2/―|―/sasanlimab/米ファイザー/P3/P3|※*日本法人のパイプラインにはないが、P3試験の実施国に入っている|※各社のパイプラインや決算資料をもとに作成

 

ただ、日本での展開についてはまだ見通せる状況にありません。中外製薬は「皮下注について検討は必要」としているものの、開発を実施するかどうかは不明。小野薬品工業は国内導入に向けてブリストルと協議を進めていますが、開発時期については検討段階としています。キイトルーダを含め、国内での特許切れはいずれも30年代前半と予想されており、数年たてば動きはより具体的になってきそうです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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