バイデン政権は価格交渉によって年間250億ドルのコスト削減を目指している(ロイター)
[ロイター]米国政府は8月29日、65歳以上の高齢者が加入する公的医療保険メディケアが初めて行う医薬品価格交渉の対象となる10品目のリストを公表した。10品目には、メルクの糖尿病治療薬「ジャヌビア」、ブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの抗凝固薬「エリキュース」、アッヴィの白血病治療薬「イムブルビカ」などが含まれる。
今後のプロセスやコスト削減など、価格交渉について知っておきたいことをまとめた。
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価格交渉とは?
昨年成立したインフレ抑制法に基づき、米国政府は約6600万人が加入するメディケアが多額の費用を支出している一部の医薬品について、製薬企業と価格交渉を行うことを認めた。
メディケアは従来、法律によってメーカーとの価格交渉を禁止されていた。政府は価格交渉によって2031年までに年間250億ドルのコスト削減を目指している。
米国政府はこれまで、1年かけて製薬企業や一般から意見を募り、プログラムや規則をまとめた。29日の対象品目公表によって具体的な交渉プロセスが始まる。
交渉を経て設定された価格が適用されるのは26年。いくつかの企業や業界団体は、交渉プログラムが憲法に違反するとし、中止を求めて提訴している。
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今後のプロセスは?
製品が対象に選定された製薬企業は、10月1日までに交渉に同意しなければならない。もし拒否すれば重い罰金が科せられる。企業は同月2日までに、価格決定に必要な広範なデータを提出する。
メディケアは24年2月1日までに最初の価格案をメーカーに提示する予定で、メーカーはそこから30日の間に対案を出すことができる。交渉は同年8月1日までに終了する必要があり、メディケアは同年9月1日に新価格を公表する予定だ。法律では、新価格は元の価格より少なくとも25%安いことが求められている。
価格交渉の第2弾は25年2月に開始され、メディケアは15の高額な医薬品を対象に選定する。第2弾の新価格は27年に適用される予定だ。翌年には、さらに15の処方薬や医師が管理する医薬品(薬局で調剤されない医薬品)が追加される。
その後、メディケアは毎年20品目ずつ価格交渉を行うことになる。
患者が負担軽減を実感できるのはいつになるのか?
メディケア・プログラムの加入者は、処方薬プランの設定次第で26年にも負担軽減を実感できる可能性がある。
米国最大のビジネス・ロビー団体である米国商工会議所は、10月1日までに価格交渉の差し止め命令を裁判所から得たいと考えている。交渉の中止を求める訴訟はすべて違憲を主張している。
政府は、メディケアが価格交渉を行うことができないという憲法上の規定はないと反論している。
来年に控える米大統選では、共和党が議会とホワイトハウスを掌握する可能性がある。民主党政権で可決された法律を支持しない指導者が誕生する可能性もあり、そうなると不確実性は増す。
(Patrick Wingrove、編集:Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)