9月から秋冬の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種が始まります。原則年1回接種となって初めて行われる今回の秋冬接種は、来年以降のワクチンの需要を見定める上で重要なベンチマークになるとみられています。米ファイザーは今秋冬の接種率が低調だった場合、ウイルス領域への投資を縮小する方針を示しており、各社の事業戦略にも影響を与えそうです。
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日本では9月20日開始
国内の秋冬接種は、生後6カ月以上の希望者全員を対象に9月20日から始まる予定です。初回接種、追加接種ともに、流行の主流となっているオミクロン株XBBに対応した1価ワクチンを使用します。ファイザーとモデルナが7月にXBB.1.5対応1価ワクチンをそれぞれ申請しており、承認後、9月から順次供給を始める見込み。対象は、ファイザー製が生後6カ月以上の初回接種と追加接種、モデルナ製が6歳以上の追加接種です。政府は秋冬接種用としてファイザーから2000万回分、モデルナから500万回分を購入することで両社と合意しています。
国内の新型コロナワクチン接種は、2023年度から原則として秋冬の1回となっており、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人らに対しては春にも接種の機会が設けられました。海外の主要国も同じような対応をとっています。
国産ワクチン初承認も供給は行わず
国内では8月2日、第一三共がmRNAワクチン「ダイチロナ筋注」の承認を取得。日本企業が開発した新型コロナワクチンの承認は初ですが、起源株を対象とした追加接種用のワクチンであるため、供給は行いません。塩野義製薬が昨年11月に申請した組み換えタンパクワクチンもダイチロナと同じタイミングで承認の可否が審議されましたが、こちらは現在のデータでは有効性を明確に評価するのは難しいとして継続審議となりました。
第一三共はXBB.1.5対応ワクチンの開発を急ぎ、早ければ年内に供給できるようにしたいとしています。国産ワクチンが実際に使えるようになるには、まだ時間がかかりそうです。
今秋の接種率「動向予測する指標に」
新型コロナワクチンや治療薬を供給する欧米の製薬企業は今年、それらの売り上げが急激に減少する「コロナクリフ」に直面しています。
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米ファイザーの2023年1~6月期決算は、前年同期に比べて売上高が42%減、純利益が56%減。22年に通期で378億ドルを売り上げた新型コロナワクチン「コミナティ」の世界売上高は1~6月期時点で前年同期比79%減と落ち込みました。同社とともにコミナティを手掛ける独ビオンテックも、1~6月期の売上高が85%減、純利益は94%減で、4~6月期は1億9000万ユーロの最終赤字に転落しました(前年同期は16億7200万ユーロの黒字)。
ファイザー/ビオンテックに次ぐシェアを持つ米モデルナも、23年1~6月期に13億100万ドルの純損失を計上(前年同期は58億5400万ドルの黒字)。売上高は前年同期比80%減でした。
ビオンテック「支出を監視」
各社は、今年の秋冬接種が、来年以降の新型コロナワクチンの需要を占う上で重要な判断材料になると見ています。
ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)は1~6月期決算の説明会で、「今秋のワクチン接種率は、来年の動向を予測する信頼できる指標になる」とし、「年末までに不確定要素は取り除かれるだろう」と指摘。開発中の季節性インフルエンザとの混合ワクチンが発売されれば、将来的に接種率の上昇が期待できると述べました。
ブーラ氏は「われわれは今年も新型コロナポートフォリオへの投資を継続し、次の流行シーズンに備えていく」とする一方、今秋冬の需要が低調だった場合、コスト削減プログラムに着手する用意があると表明。その一環として、ワクチンを含むウイルス領域への投資縮小に言及しました。
4~6月期に最終赤字を計上したビオンテックは、通期の研究開発費の見通しを従来の24~26億ユーロから20~22億ユーロに引き下げると発表。同社のイェンス・ホルスタインCFO(最高財務責任者)は「収益には不確実性があるため、コストベースを見直して支出を注意深く監視している」とコメントしました。
各社とも秋以降のワクチンの需要増を見込んでおり、ファイザーは上期実績の45億5200万ドルに対して通期で135億ドル(前年比64%減)の売り上げを予想。モデルナも上期の21億2100万ドルに対して通期で60~80億ドルになるとしています。