J&Jの多発性骨髄腫治療薬「ダラザレックス」は、ヒアルロニダーゼを配合することで皮下注化を実現した(ロイター)
[ニューヨーク ロイター]製薬各社が、点滴で投与する抗がん剤の皮下注化に力を入れている。米ジョンソン・エンド・ジョンソンは大ヒットした多発性骨髄腫治療薬「ダラザレックス」の皮下注化に成功したが、これによって何年もの間、米公的医療保険「メディケア」との薬価交渉の対象から除外される可能性があり、何十億ドルもの利益を守ることになる。
注射による投与を可能とする成分を追加することで「新薬」とみなされ、価格交渉の対象から外れることを米国政府が容認するのか、製薬企業やウォール街は注視している。
J&Jのほか、売れ筋のがん免疫療法薬「キイトルーダ」の皮下注製剤を開発している米メルクや、皮下注化に重要な成分であるヒアルロニダーゼのライセンス供与を行っている米ハロザイム・セラピューティクスはいずれも、ロイターの取材に、皮下注化によって新薬と同等に扱われる資格を得られるはずだとの考えを示した。
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米ブリストル・マイヤーズスクイブやスイス・ロシュも、がん免疫療法薬「オプジーボ」や「テセントリク」の皮下注製剤を開発しているが、両社はコメントするには時期尚早だとしている。
昨年成立した米国のインフレ抑制法(IRA)は、メディケアに対して最も高額な医薬品の一部について、引き下げ率25%からスタートする価格交渉を初めて認めるものだ。この制度は、他国に比べて処方薬に多くの費用を支払っている米国にとって、2031年までに年間250億ドルの削減効果を生み出すことを目的としている。
バイオ薬は発売13年以上の品目が対象
65歳以上の高齢者が加入するメディケアは現在、26年に予定される第1弾の価格交渉に向け、対象となる10品目の選定を進めている。対象品目は、メディケアが十分な直接競合がないと判断する、発売から少なくとも9年以上(バイオ医薬品は13年以上)たった医薬品の中から選ばれる。27年以降も、メディケアは毎年、リストに対象品目を追加していく。
メディケアを運営するメディケア・メディケイド・サービスセンターは、既存薬にヒアルロニダーゼを加えて皮下注化した医薬品を新薬とみなすかどうかについて、コメントを避けた。
米投資銀行エバーコアISIのバイオテクノロジーアナリスト、マイケル・ディ・フィオーレ氏は、ヒアルロニダーゼによる皮下注化について「ユニークな特殊技術だ」と指摘。ヒアルロニダーゼは注射時により多くの薬物を吸収できるようにするための有効成分であり、メディケアは新薬とみなすだろうと予想している。
メディケアは今年初めに発表した薬価交渉のガイドラインで、メーカーが製品に小さな変更を加えることで対象から逃れる抜け道を塞いだ。即放性製剤から徐放性製剤への変更などがその一例だが、ディ・フィオーレ氏は、ヒアルロニダーゼを配合した注射の抗がん剤はそうしたものとは異なるとの見方を示した。
ヒアルロニダーゼ配合で「新薬」扱いに
J&Jのジョセフ・ウォルクCFO(最高財務責任者)はロイターとのインタビューで、ダラザレックスの皮下注バージョン「ダラザレックス・ファスプロ」(日本では「ダラキューロ」)が価格交渉の対象になるのは2033年か34年になるとの見通しを示した。
抗体医薬であるダラザレックスは、28年に価格交渉の対象となる基準である発売13年を迎える。20年に発売されたファスプロは、すでにダラザレックスの売り上げの80%以上を占めており、今年は95億ドルに達する見込みだ。
メルクは数年以内にキイトルーダの皮下注製剤を発売したい考えで、これが承認された時点から価格交渉の対象入りまで13年の時計が動き出す。キイトルーダの現行品(点滴静注製剤)は、早ければ28年にも価格交渉の対象になる可能性がある。
メルクは以前、ロイターの取材に対し、皮下注バージョンは投与にかかる時間が短く、ほとんどの患者で点滴静注製剤にとってかわることを期待していると述べている。アナリストの予測によると、キイトルーダの売上高は今年240億ドルを超え、早ければ26年に300億ドルを突破する可能性がある。
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サンディエゴに本社を置くハロザイムの22年の売上高は6億6000万ドルだった。同社は、ヒアルロニダーゼを含む皮下注製剤からの収益が今後の成長の原動力になると期待している。
同社のヘレン・トーレイCEO(最高経営責任者)は、メディケアは個別の医薬品の定義について「非常に明確な」見解を示しており、これに照らせばヒアルロニダーゼによって皮下注化した医薬品は新薬として扱われると述べた。
(Michael Erman/Patrick Wingrove、編集:Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)