先月のコラムで、6月から製薬企業に転職して新しい仕事を始めたことと、そこに至った経緯や思いについて書きました。新しい職場では「アドボカシー活動」に携わっているのですが、今回は、そもそもアドボカシー活動とは何なのか、自分なりに理解した範囲で書いてみたいと思います。
先月のコラムでは、アドボカシー活動についてこのように書きました。「端的に言うと、さまざまなステークホルダーと対話をし、社会の理解を得ながら、医薬品産業をめぐる課題の解決を目指す活動」と。
実は私、今回の転職活動で初めてアドボカシーという言葉を知りました。調べてみたところ、何かしらの社会的な課題の解決を目指す活動なんだということが分かり、そこには、社会課題の解決に向けて行政などに政策提言を行うような側面と、社会課題を多くの人に知ってもらう広報・啓発活動的な側面があることを知りました。
これを仕事としてやろうと思うと気負ってしまうわけですが、よくよく振り返ってみると、このコラムを書いてきたことはある種のアドボカシー活動だったのだということに気付きました。たびたび書いている「ドラッグ・ラグ」「ドラッグ・ロス」問題などはまさにそうで、私はこの問題を少しでも多くの人に知ってもらいたい、それによって少しでも良い方向に向かってほしいという気持ちで書いてきました。私が尊敬する諸賢がおられるTwitterにも、同じような思いで発信されている方がたくさんいると思います。
現在私が所属するアステラス製薬ヘルスケアポリシー部のメンバーとは転職前から業界の課題について議論してきましたが(詳しくは先月のコラムに書きました)、彼らからすると当時の私はアドボカシー活動の対象だったと思うと不思議な気持ちになります。
「仲間を増やす活動」
今の職場に入ってから、アドボカシーという言葉を自分のものにしたくて、社内のメンバーに「あなたにとってのアドボカシー活動を一言で表すとどうなりますか」と聞いて回りました。その中で私として1番しっくりきたのが「仲間を増やす活動」という答でした。
入社したばかりでまだ社内に多くの知り合いがいるわけではありませんが、社内に仲間が増え、社外にも仲間が増え、この業界をめぐる課題の解決に向けて一人ひとりが自律的に動いていける、そんな世界を小さくてもいいから実現していけたらと今は思うようになっています。
おぼろげな状態で何となく動いてしまうのは私の悪い癖で、もう少し解像度を高められないかといろいろ探してみたところ、よく読ませていただいているshinshinoharaさんのTwitterにたどり着きました。一連のツイートは「関係性から考えるものの見方・・・社会構成主義」というnoteの記事にまとめられているので、興味のある方はぜひ読んでほしいのですが、私は読んでいる途中で「これかもしれない」と感じました。
その記事では、こんな事例が紹介されています。アメリカでは現在、中絶問題で世論が真っ二つに割れていますが、賛成派と反対派が議論すると、互いに自分の主張の正しさを理屈で訴えるばかりで、話はいつも平行線のまま両者の関係性は断絶したまま。しかし、自分が中絶に賛成/反対と思う個人的な体験を語り合うと、互いに「そういう体験があると、そういう意見になるのも当然だよな」となり、理解と融和が進んだそうなんです。
医薬品産業をめぐる課題でも、さまざまなステークホルダーと腹の中にあるものを同じテーブルに出して話し合うことができれば、そこから何かが起こるような気がしています。
最後はshinshinoharaさんのnoteの記事の一節を引用して締めたいと思います。
「これまでの思想や哲学が、『存在』にばかり光を当てて『関係性』をほぼ無視してきたことに、社会構成主義は視点を逆転させて、関係性に着目する。これは面白い考え方であり、これまで解決不能と思われていたことも、ガラッと考え方を変えることができるかもしれない可能性を秘めている」
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬ヘルスケアポリシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。 Twitter:@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |