国内で事業展開する外資系製薬企業日本法人の2022年業績が出揃いました。前年との比較ができた13社の合計売上高は13.4%増で、国内市場の伸び(3.2%=IQVIA集計)を大きく上回りました。ただ、業績拡大は新型コロナウイルス感染症治療薬によるところも大きく、コロナ薬の有無で明暗が分かれた面もあります。
売り上げトップはアストラゼネカ
外資系製薬企業の業績発表は、薬価ベースか決算ベースか、為替の影響やライセンス収入を含むかどうかなど、企業によってまちまちです。そのため、集計は官報などに掲載される決算公告の数字をベースに行いました。新型コロナ治療薬・ワクチンを供給するファイザーは詳細を明らかにしていないため、集計対象には含まれていません。
決算公告で22年の業績が確認できた13社の合計売上高は2兆9798億円で、前年から3500億円増加しました。増収となったのは10社で、上位4社は2桁成長を遂げています。外資系企業の新型コロナ治療薬には▽抗ウイルス薬「ラゲブリオ」(MSD)▽同「パキロビッド」(ファイザー)▽同「ベクルリー」(ギリアド・サイエンシズ)▽中和抗体製剤「ゼビュディ」(グラクソ・スミスクライン)▽同「エバシェルド」(アストラゼネカ)――がありますが、各社の業績はこれらの動向にも左右されました。
伸び率最大はMSD
売上高トップはアストラゼネカで、前年比27.%増の4435億円となりました。抗がん剤「タグリッソ」が薬価ベースで1094億円(7.1%増)と大台に乗り、SGLT2阻害薬「フォシーガ」も適応拡大で続伸。エバシェルドは政府が15万人分を買い上げ、これも増収の大きな要因となっています。英アストラゼネカは21年7月に米アレクシオン・ファーマシューティカルズの買収を完了しましたが、日本ではそれぞれが別法人として活動しており、アレクシオンの売り上げはここには含まれていません。
前年からの伸び率が最も高かったのは57.7%増のMSD。複数回にわたって薬価の再算定を受けてきた抗がん剤「キイトルーダ」は売り上げが6.0%増加し、定期接種の積極的勧奨が再開されたHPVワクチン「ガーダシル」とラゲブリオがドライバーとなりました。同社は今年4月に開いた記者会見で、ラゲブリオの政府購入分(22年9月16日から一般流通に移行)とライセンス収入を除いた売上高が前年比で24%増加したと発表しています。今年は、キイトルーダの再算定への懸念やコロナ治療薬の需要縮小といった不安要素はあるものの、接種率が10%未満にとどまるHPVワクチンの浸透を期待します。
ヤンセン、GSKも2桁増収
ヤンセンファーマは19年の売上高2124億円から3年連続で2桁成長し、3000億円を超えました。クローン病や潰瘍性大腸炎などが適応の「ステラーラ」が牽引役で、販売提携先である田辺三菱製薬の23年3月期売上高は前期比28.5%増の662億円。「ダラザレックス」「ダラキューロ」は多発性骨髄腫治療薬でリーダーのポジションを確立しています。ヤンセンは24年に国内トップ3入りを目指しています。
グラクソ・スミスクラインも40.3%の大幅増。ゼビュディが大きく貢献したほか、帯状疱疹ワクチン「シングリックス」やCOPD治療薬「テリルジー」が原動力となりました。ここ数年、2000億円台前半で推移してきた売上高は一気に3000億円を突破。ブリストル・マイヤーズスクイブはセルジーンの吸収合併が通期で寄与しました。
リリーは大幅減
売上高1800億円台には3社がひしめいています。このうち日本イーライリリーは20.0%減で、3年連続マイナス成長となりました。2000億円を割り込むのは14年以来です。「新製品」は24%伸びましたが、「成熟製品」が55%減少したことが響きました。新製品では、抗がん剤「ベージニオ」が50.6%増、日本ベーリンガーインゲルハイムと共同販促するSGLT2阻害薬「ジャディアンス」も31.3%増と市場を拡大したものの、特許切れ品の減収分を埋められませんでした。
日本ベーリンガーインゲルハイムは、ジャディアンスとその配合剤「トラディアンス」が牽引する糖尿病領域で、国内トップの地位を確保しました。サノフィはアトピー性皮膚炎や気管支喘息などの適応でシェアを高めている「デュピクセント」が売り上げトップ製品です。同薬は22年に薬価ベースで600億円近くを売り上げました。結節性痒疹と特発性慢性蕁麻疹の適応追加も承認申請中です。
「だんご状態」から再び格差
ノボノルディスクファーマは4年連続の増収で、売上高は過去最高の1196億円となりました。領域別では糖尿病が18%の成長で全体の約7割を占め、事業強化を打ち出している希少疾患は5%減で約3割でした。糖尿病領域ではGLP-1受容体作動薬が好調で、経口の強みを生かした「リベルサス」と、出荷停止から新規格の発売に至った「オゼンピック」が処方を伸ばしています。これら2剤と同成分の肥満症治療薬「ウゴービ」は薬価収載を待っている状況です。
アッヴィは21年に抗RSウイルス薬「シナジス」をアストラゼネカに返還しましたが、乾癬等治療薬「スキリージ」や血液がんの「ベネクレクスタ」が支えています。外資製薬企業の日本法人が中期的な業績見通しについて数値目標を示すのは稀ですが、同社は「2030年までに売上高2000億円」を掲げ、現在から倍増させたい考えを示しています。
10年前から継続して業績を分析できる8社を見ると、12年には最上位のMSDと下位のバイエル薬品の差がおよそ2倍ありましたが、15年には全社が2000億円台となる「だんご状態」になりました。その後、19年には再び差が開き、新型コロナを経て22年は大きく伸びた企業と横ばいもしくは減少した企業とに分かれたように見えます。
ただ、これら8社の合計売上高は停滞しています。国内市場全体がその傾向にありますが、新薬開発力があると言われる外資でも成長力に陰りが見えてきました。薬価制度上のイノベーション評価の後退やドラッグ・ラグといった問題が、ここにも表れているのかもしれません。