2023年5月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】RSウイルスワクチン「Arexvy」「Abrysvo」や更年期障害治療薬「Veozah」など
「Arexvy」英グラクソ・スミスクライン
「Arexvy」は、60歳以上の高年齢成人を対象とするRSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)ワクチン。RSウイルスによる下気道疾患の予防を目的に使用します。RSウイルスは肺や呼吸器に影響を及ぼすウイルスで、高年齢成人では重篤な呼吸器疾患を引き起こすリスクがあります。欧州でも近く承認される見通しで、日本でも申請中です。
「Elfabrio」伊チエシ
「Elfabrio」(一般名・pegunigalsidase alfa)はファブリー病治療の長時間作用型ペグ化酵素補充療法。140人以上の患者を対象とした臨床開発プログラムで安全性、忍容性、有効性が研究されてきました。欧州でも5月に承認されており、日本ではP2/3試験が行われています。
「Veozah」アステラス製薬
ニューロキニン3受容体拮抗薬「Veozah」(fezolinetant)は、閉経に伴う中等度から重度の血管運動神経症状(VMS)治療薬。ニューロキニンBをブロックして脳の体温調節中枢ニューロン活動を緩和し、ホットフラッシュ(顔のほてりやのぼせ)の頻度と重症度を軽減します。3000人以上を対象に行った国際共同P3試験の結果に基づいて承認されました。欧州や豪州でも申請中で、日本ではP2試験を行っています。
「Miebo」米ボシュロム
「Miebo」(perfluorohexyloctane)はドライアイ治療薬。眼表面での涙の蒸発を減少させる作用を持っています。涙の蒸発を標的とする治療薬は米国初。1200人以上の患者が参加した2つの臨床試験では、ドライアイの兆候と症状の両方を改善することが確認されました。
「Epkinly」デンマーク・ジェンマブ
抗CD3/CD20二重特異性抗体「Epkinly」(epcoritamab)は、再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療薬。P1/2試験の奏効率(61%)と奏功期間(中央値で15.6カ月)をもとに迅速承認を取得しました。2つ以上の全身療法を受けた成人患者が対象です。ジェンマブの二重特異性抗体技術を使って作製されたもので、米アッヴィと共同で開発を進めています。日本と欧州でも申請中です。
「Vyjuvek」米クリスタル・バイオテック
「Vyjuvek」(beremagene geperpavec)は、生後6カ月以降の小児の栄養障害型表皮水疱症(DEB)に対する遺伝子治療薬。患部に直接塗布できる局所用ゲル製剤で、再投与できる遺伝子治療薬は史上初となります。DEBはCOL7A1遺伝子の変異によって起こるまれな遺伝性疾患。Vyjuvekは同遺伝子のコピーを送達することでCOL7タンパク質の生成を促すよう設計されています。臨床試験では、主要評価項目の「6カ月時点での完全な創傷治癒」でプラセボに対する優位性が確認されました。欧州でも今年後半に申請を行う予定で、日本でも開発が進んでいます。
「Xacduro」米エンタシス・セラピューティクス
「Xacduro」は、βラクタム系抗菌薬sulbactamとβラクタマーゼ阻害薬durlobactamの配合注射剤。アシネトバクター・バウマニ(アシネトバクター・バウマニ-カルコアセティクス複合体)による院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎の治療に使用します。177人の入院患者を対象に行った臨床試験の結果をもとに承認されました。
「Paxlovid」米ファイザー
新型コロナウイルス感染症に対する経口抗ウイルス薬「Paxlovid」(ritonavir/nirmatrelvir)は、重症化リスクの高い軽症・中等症の成人患者を対象に正式承認を取得しました。米国では2021年12月に緊急使用許可(EUA)を取得し、これまでに1160万回以上処方されています。承認の根拠となったP2/3試験では、症状発現から5日以内に治療を開始した患者の死亡リスクをプラセボと比べて86%減少させました。
「Inpefa」米レキシコン
「Inpefa」(sotagliflozin)はSGLT1/2阻害薬。「心不全や2型糖尿病、慢性腎臓病などの心血管系リスク因子となる疾患の患者の心血管死、心不全による入院リスクの低減」の適応で承認されました。糖尿病の有無や左室駆出率の範囲に関わらず使用できるのが特徴です。P3試験ではプラセボに比べて心血管死や入院などの複合リスクを33%低減しました。
「Abrysvo」米ファイザー
「Abrysvo」はRSウイルスワクチン。60歳以上の高年齢成人に対し、RSウイルスによる下気道疾患の予防を目的に使用します。母子免疫でも申請中で、同適応での審査完了目標は今年8月。欧州と日本でも高齢成人、母子免疫の両方で申請中です。
【適応拡大】「Rexulti」のADに伴う行動障害、「Rinvoq」のクローン病など
「Kalydeco」米バーテックス
嚢胞性線維症治療薬「Kalydeco」(ivacaftor)は、生後1カ月~4カ月未満の小児に対象を拡大しました。この年齢層に使用できるCFTRモジュレーターは米国初。CFTR遺伝子に少なくとも1つの変異を持つ患者が対象です。
「Farxiga」英アストラゼネカ
SGLT2阻害薬「Farxiga」(dapagliflozin)は「心不全患者の心血管死、心不全による入院・緊急受診リスクの低減」の適応で、左室駆出率を問わずに使用できるようになりました。従来は左室駆出率が低下した患者が対象でした。日本や欧州でも左室駆出率を問わず承認されています。
「Rexulti」大塚製薬
抗精神病薬「Rexulti」(brexpiprazole)は、アルツハイマー型認知症(AD)に伴う行動障害に適応拡大。ADでは患者の約半数で介護者に対する暴言や暴力などが認められるといい、同適応に対する治療薬は米国初となります。同薬は大塚製薬が創製し、デンマーク・ルンドベックと共同開発を進めるD2・5-HT1Aパーシャルアゴニスト/5-HT2Aアンタゴニスト。日本でもADに伴う行動障害でP3試験を進行中です。
「Imbruvica」米アッヴィ
「Imbruvica」(ibrutinib)は、「少なくとも1つの前治療を受けたマントル細胞リンパ腫」と「全身療法が必要で、1つ以上の抗CD20療法を受けた辺縁帯リンパ腫」の2つの適応を取り下げました。マントル細胞リンパ腫の適応では2013年に、辺縁帯リンパ腫の適応では17年に、それぞれP2試験の奏効率に基づいて迅速承認を取得していました。
「Rinvoq」米アッヴィ
JAK阻害薬「Rinvoq」(upadacitinib)は、中等度から重度の活動性クローン病に適応拡大しました。対象は、1種類以上のTNF阻害薬で効果不十分または不耐容の患者。欧州では4月にクローン病への適応拡大が承認されており、日本でも申請中です。
「Ayvakit」米ブループリント
キナーゼ阻害薬「Ayvakit」(avapritinib)は、無痛性全身性肥満細胞症(SM)に適応拡大。SMはKIT D816V変異によって引き起こされるまれな疾患で、AyvakitはKIT D816Vを選択的に阻害します。進行SMに対しては2016年に承認されました。
「Injectafer」第一三共
静注鉄剤「Injectafer」(ferric carboxymaltose)は、心不全患者の鉄欠乏に適応拡大。臨床試験では、同薬の投与が患者の運動能力の改善につながることが確認されました。米国では2013年から鉄欠乏性貧血治療薬として販売されています。
「Lynparza」英アストラゼネカ
PARP阻害薬「Lynparza」(olaparib)は、abiraterone との併用療法が「BRCA遺伝子変異陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん」の適応で承認されました。prednisoneまたはprednisoloneを加えた3剤併用療法として使用します。臨床試験では、abiraterone単独療法と比べて疾患進行・死亡のリスクを75%減少しました。欧州では今年1月に同適応で承認を取得しており、日本でも申請中です。
【バイオシミラー】韓国セルトリオンのadalimumab
「Yuflyma」韓国セルトリオン
「Yuflyma」は、米国で9剤目となる抗TNF-α抗体「Humila」(adalimumab)のバイオシミラー。米国では今年7月に発売予定で、欧州でも2021年に承認されています。