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糖尿病薬、皮下注市場に「ゲームチェンジャー」参入…リリーの「マンジャロ」日本でも発売

更新日

穴迫励二

日本イーライリリーと田辺三菱製薬が、2型糖尿病治療薬「マンジャロ皮下注」(一般名・チルゼパチド)を発売しました。世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬で、製造販売元のリリーは「ゲームチェンジャーになる」と自信を示しています。同薬の参入は市場にどのような変化を起こすのでしょうか。

 

 

デュアル作用で注目

マンジャロは臨床試験のトップラインデータ発表から注目度を高めてきました。プラセボと比較した国際共同臨床第3相(P3)「SURPASS-1」試験では、最高用量(15㎎)を40週間投与した時点でHbA1cがベースラインから最大2.07%低下。体重は9.5㎏減少しました。同じくP3の「SURPASS-2」試験ではGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ノボノルディスクの「オゼンピック」)との直接比較で優越性が示されました。

 

日本では22年9月に承認を取得し、通常なら同年11月の薬価収載となるはずでしたが、リリーは収載希望申請を行いませんでした。その理由は、米国で先行発売したマンジャロを含むGLP-1製剤全体の需要が世界的に高まったためです。オゼンピックが出荷停止となるなど供給不安も発生し、リリーが需要に応えられる十分な供給量を確保できないおそれが強まりました。

 

セマグルチドに優越性

結果的に薬価収載は1回遅れの今年3月15日となり、4月18日の発売にこぎ着けました。供給体制について米イーライリリーは、キャパシティーを大幅に増強すべく米ノースカロライナ州に製造施設を建設することを発表。マンジャロを含むインクレチン製剤の供給能力の倍増を見込んでいます。日本の薬価算定では、臨床試験でセマグルチドに対する優越性が示されたことが評価され、有用性加算Ⅱ(加算率10%)がつきました。

 

マンジャロはGIPとGLP-1の2つの受容体に作用する新規の治療薬ですが、皮下注射の血糖降下薬という観点で見るとGLP-1製剤との競合が想定されます。日本の糖尿病治療薬市場は薬価ベースで約6700億円(22年、IQVIA集計)で、GLP-1製剤はその12%強にあたる830億円程度とみられています。

 

早期の患者に照準

「フォーカスするのは糖尿病と診断されて間もない患者さん。経口薬を1剤処方されても血糖コントロールが不十分な場合の有力なオプションになる」。日本イーライリリーのメアリー・トーマス糖尿病・成長ホルモン事業本部長は、こう説明します。糖尿病の薬物治療は、まず経口薬1剤でスタートし、血糖値が目標まで下がらなければ1剤追加するのが一般的。マンジャロはHbA1cを大きく低下させるデータを持っており、リリーは2剤目の経口薬に代わって早い時期からの処方をプロモーションの軸にする考えです。

 

かつて英国で実施された大規模臨床研究「UKPDS」では、早期の治療介入が合併症の発生や総死亡率を減少させる(レガシーエフェクト)という結果が示されています。SURPASS-1試験では、最高用量群の半数以上が糖尿病でない人のレベル(HbA1c5.7未満)まで下がったというデータもあり、これを前面に打ち出したい考えです。GLP-1製剤からの切り替えもある程度は想定されますが、そこは「注力領域ではない」といいます。

 

「これまでの糖尿病薬とは異なるレベルの期待」

ただ、自社のGLP-1受容体作動薬「トルリシティ」とのすみ分けは気になるところです。患者の病態や医師の判断にもよりますが、投与間隔が同じ週1回であることなどを踏まえると、マンジャロにシフトしていくと考えるのが自然です。リリーはマンジャロのターゲットを糖尿病早期の患者に定めていますが、第1選択薬としての使用を推しているわけではありません。

 

臨床現場の評価には自信を示します。「これまで発売してきた糖尿病治療薬とは異なるレベルの強い期待を感じる」。トーマス氏はこう話し、「医師からもゲームチェンジャーになるといわれている」と強調します。

 

【トルリシティの売上高推移】|※販売は22年12月末まで住友ファーマ、23年1月から日本イーライリリー(年度/億円)15/7|16/68|17/159|18/231|19/300|20/339|21/336|22/310|※住友ファーマの決算発表資料をもとに作成|※22年度の数値は販売移管発表前に住友ファーマが公表していた年間売上高予想

 

薬価収載時の中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によると、マンジャロのピーク時売上高予測は367億円。発売10年度目で投与患者数は年間24万人を見込んでいます。今後の動向を占う意味で薬価算定時に比較薬となったトルリシティの売り上げ推移を見てみると、発売6年度目の20年度に339億円まで拡大し、収載時に予測した200億円(10年度目)を前倒しして最大化しました。ただ、21年度以降は競合品との関係で売り上げを落としています。

 

米国では「垂直立ち上げ」

マンジャロの立ち上がりについては、リリーも手ごたえを感じ取っています。新薬には原則として2週間の処方制限があり、発売初年度は緩やかに浸透していくのが一般的ですが、トーマス氏は「医師からの期待感はこれまでにないレベル。処方制限は他の新薬と比べそれほど大きな課題ではない」と指摘。むしろ、いかにスピード感を持って患者に届けられるかを念頭に置いているといいます。

 

発売1年足らずでブロックバスターに

22年6月に発売された米国では、四半期ごとに売上高が急増しています。同年第2四半期の1260万ドルが第3四半期には9730万ドルとなり、第4四半期は2億5670万ドル、今年第1四半期は5億3640万ドルと急拡大。発売10カ月で9.03憶ドル、日本円にして1230億円という実績を残しました。日米で注射に対する患者の受容度に差はあるとはいえ、いわゆる「垂直立ち上げ」を果たしています。

 

【マンジャロの米国売上高】(百万ドル)22年2Q/12.6|3Q/97.3|4Q/256.7|23年1Q/536.4|※米イーライリリーの決算発表資料をもとに作成

 

日本市場でも「治療の2剤目」として浸透が進めば、これまでそのポジションで使用さていた経口薬やGLP-1製剤の領域にも影響を与える可能性がありそうです。GLP-1製剤では経口薬の「リベルサス」がシェアを高めており、製造販売元のノボによると22年10月時点で金額シェアが30%を超えました。リリーは田辺三菱製薬と共同販促契約を結び、早期の最大化を目指します。市場構造を大きく変えるゲームチェンジャーになるのかどうか。まずは初年度の販売実績に注目が集まります。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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