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エーザイ「レケンビ」で収益構造一変…「30年度に売り上げ1兆円」の皮算用と「がん事業」の今後

更新日

穴迫励二

エーザイのアルツハイマー病治療薬「レケンビ」(同社提供、ロイター)

 

アルツハイマー病(AD)治療薬「レケンビ」(米国製品名、一般名・レカネマブ)の世界展開が見えてきたエーザイ。2030年度に1兆円を超える売り上げを想定しており、超大型製品として業績をけん引することになりそうです。「がん」と「中枢神経」を2本柱とする事業構造は、その軸足を中枢神経へと大きく移すことになるのでしょうか。

 

 

レケンビ、25年度から急成長

レケンビは今年1月6日に米国で迅速承認を取得。同社は即日、フル承認に向けた申請を行い、現在、FDA(食品医薬品局)による審査が行われています。審査終了目標日は今年7月6日ですが、米退役軍人保健局(VHA)は早くも同薬の保険適用を開始しました。日本では1月16日に申請しており、優先審査品目に指定されたことから、年内の薬価収載が見込まれます。欧州と中国は来年前半が発売のめどとなりそうです。

 

業績への貢献は2023年度からとなりますが、そこで注目されるのが価格と投与患者数です。米国では、同薬の投与によって削減される医療費や介護費用を勘案して算出した「社会的インパクト」のうち、6割を社会に還元し、残りの4割を売り上げとして自社に割り振るという考え方で価格を設定。その結果、価格は患者1人あたり年間2万6500ドル(約350万円)となりました。

 

日本では中央社会保険医療協議会(中医協)が薬価を決めることになりますが、社会的インパクトとしてエーザイが強調するのが、公的介護保険にかかる費用約10兆円の半分はAD関連だとする国のデータです。AD当事者1人あたりの年間介護費用は、軽度認知障害(MCI)の25万円に対して高度認知症では273万円と、状態が悪化するに従って大きく増加します。レケンビは早期AD(MCIと軽度AD)患者に投与することで進行を3年程度遅らせると推定されており、内藤晴夫CEOは「早いステージにとどめるというアドバンテージを価格に反映させるべきというのが正直な思いだ」と話します。

 

投与対象は32年に世界300万人

実際に投与される患者数は、どこまで広がるのでしょうか。レケンビは脳内にアミロイドβが蓄積している患者を対象としており、医療機関を受診してアミロイドβ検査で陽性と判断された患者が投与を受けることになります。

 

【AD疾患修飾薬の投与対象となる患者】|※AD=アルツハイマー病|1.早期AD有病者(ADによるMCI・軽度AD)/MCI=軽度認知障害/2.医療機関を受信し早期ADと診断/3.アミロイドβ検査/4.アミロイドβ陽性/5.AD疾患就職薬投与|エーザイの記者懇談会(23年3月9日)資料をもとに作成

 

エーザイは、2030年には世界の早期AD有病者2.3億人のうち約250万人が、32年には2.4億人のうち約300万人が投与対象になると推計しています。日本に限ると、有病者数は25年以降、600万人ほどで推移する見込みで、その5~10%にあたる30~60万人が投与対象となる想定です。ただ、これはAD疾患修飾薬全体としての推計で、他社から別の疾患修飾薬が出てくれば患者を奪い合うことになります。

 

こうした前提の下で数字を積み上げたシミュレーションによると、レケンビの売り上げは29年度あたりに1兆円に到達し、32年度には1兆2000億円程度まで拡大します。伸びが加速してくるのは25年度あたりから。この時点では承認が早い日米市場が先行しますが、リキッドバイオプシーによるスクリーニングや診断の普及が見込まれることも追い風となり、それ以降は急角度で右肩上がりの成長を遂げると期待しています。

 

【エーザイ 2032年度までの収益シミュレーション】|※成功確率調整後の社内推計に基づくシュミレーション。正確な業績予想ではない。|レケンビ/レンビマ/その他(新製品群を含む)|※エーザイの記者懇談会(23年3月9日)資料をもとに作成

 

「レンビマが築いたフランチャイズの重みは大きい」

レケンビが中長期的な屋台骨となることで、2本柱である「がん」と「中枢神経」のバランスも大きく変わります。ここ数年、同社の業績を支えてきたのは自社創製の抗がん剤「レンビマ」です。同薬は15年5月の発売当初に内藤氏が「1200億円のポテンシャル」と意気込んでいましたが、立ち上がり数年は順調とは言い切れませんでした。エポックとなったのは18年3月に米メルクと結んだ大型の共同開発・販促契約。これにより、レンビマへの期待は「最大5000億円超」まで膨らみました。

 

ただ、前述のシミュレーションからは、レンビマの売上高はピークとなる25年度で3500億円程度と読み取れます。エーザイによるとこれは、現在進行中の適応追加試験の成功確率を掛け合わせるなどによってはじき出した数字で、見かけ上は特許が切れる26年度にレケンビとほぼ同じ売り上げとなっています。もっとも、その後は後発品に押されて漸減することは避けられず、がん領域は縮小傾向になっていくのかもしれません。

 

しかし、内藤氏は「レンビマが築いてきたフランチャイズの重みは大きい」とし、それ以降も研究者、専門医、患者の信頼に応えていきたいと強調します。がん領域の事業を継続して発展させる姿勢を示しており、26~27年度あたりを見据えて、特に婦人科系がんに力を入れたい考えです。

 

がんは婦人科系に注力

婦人科系では、メルクの抗PD-1抗体「キイトルーダ」とレンビマの併用療法(進行性子宮内膜がんや子宮体がん)や自社の抗がん剤「ハラヴェン」をペイロードに用いた抗体薬物複合体「MORAb-202」(子宮内膜がん、卵巣がん、乳がん)などを開発中。先のシミュレーションによると、全社の売上高は32年度に2兆円に迫る勢いですが、このうち6000億円近くを占める「その他」(新製品群など)の中でも、一定割合をがん領域で稼ぐとしています。

 

エーザイはかつて、認知症治療薬「アリセプト」と消化性潰瘍治療薬「パリエット」を軸に収益基盤を固め、09年度には売上高8032億円を記録。同社にとって最高の売上高となったこの年は“アリパリ”2剤で全体の6割を占めていました。再び成長局面を迎えた同社ですが、今度はレンビマとレケンビが今後数年の柱となり、それ以降はレケンビが文字通り大黒柱となります。中枢神経領域は、AD疾患修飾薬市場で他社の追随を許さない「ぶっちぎり」(内藤氏)を目論みますが、果たしてがん事業はどれほどの存在感を発揮することができるのでしょうか。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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