(写真:ロイター)
[ロイター]米ファイザーは3月13日、標的がん治療を開発する米シージェンを430億ドル(約5兆7000億円)で買収すると発表した。新型コロナウイルスワクチン・治療薬の売り上げ急減と、いくつかのトップセラー医薬品のジェネリック医薬品との競争に備える狙いだ。
ファイザーにとって今回の買収は、コロナワクチン・治療薬がもたらした豊富な資金を活用した最近のM&Aの中で最も大きなものとなる。ファイザーのポートフォリオには、2022年に計20億ドル近くを売り上げた4つのがん治療薬が加わる。
ワシントンに本社を置くシージェンは、抗体薬物複合体(ADC)のパイオニアだ。ADCは、通常細胞への影響を最小限に抑えつつがん細胞を破壊する「誘導ミサイル」のごとく機能するよう設計されている。
シージェンの株価は、買収発表後もファイザーの提示価格(1株あたり229ドル)を大きく下回っている。これは、独占禁止法の審査が長期化する可能性があることへの投資家の懸念を反映している。ファイザーの提示した価格は、シージェンの3月10日の終値に32.7%のプレミアムを乗せた水準となる。一方、ファイザーの株価は買収発表後3%近く上昇した。
Needham&Coのアナリスト、アミ・ファディア氏は「今回の買収に対する連邦取引委員会(FTC)の承認は、現時点では未解決の問題のようなものだ」と話す。同氏はFTCが調査し得る分野として膀胱がん治療での重複を指摘するが、一方でFTCがこの取引に異議と唱える可能性は50%以下だとの見方を示している。
ファイザーは買収計画に関するカンファレンスコールで、その規模から反トラスト法規制当局が今回の買収を厳しく審査する可能性が高いことを認めたが、23年後半から24年前半には買収を完了できる見込みだとした。
「より保護された分野」に進出
ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)は、シージェン買収によって「規制や特許、市場力学の観点からより保護された」分野に進出することができると語った。シージェンは、米国のインフレ抑制法(IRA)に基づく高齢者の医療費自己負担上限額の恩恵を受ける予定で、ブーラ氏はより多くの患者がシージェンの高額な薬剤にアクセスできるようになるとの見通しを示した。
ブーラ氏はさらに、複雑なバイオテクノロジー医薬品に焦点を当てることにより、IRAに基づく価格交渉までの期間を低分子医薬品に比べて長くすることができると指摘した。IRAでは米国の公的医療保険メディケアにはじめて医薬品の価格交渉が認められ、26年から最初に選ばれた10の医薬品について交渉が始まる。価格交渉の対象になるまでの期間は、低分子医薬品が承認から9年後なのに対し、生物学的製剤は13年後となっている。
関連記事:ノバルティス、米国の薬価抑制に警告…生物学的製剤優遇で「意図せぬ影響」
ADCは複雑な薬剤だ。ライバル企業による安価なバイオシミラーの開発を困難にし、収益を長期間維持できる可能性がある。
ファイザーは、主要製品の特許切れや新型コロナ関連製品の需要減少により、2030年までに170億ドルの売り上げ減が予想されている。今回の買収は、その打撃を緩和しようとする中で行われた。同社は新型コロナのワクチンと経口抗ウイルス薬で22年までに900億ドル以上の売り上げを手にしている。
関連記事:「コロナクリフ」に直面する欧米製薬企業…ワクチン・治療薬、売り上げ急減
ファイザーは、シージェンを含む最近の買収により、2030年には計200億ドル以上の売り上げが見込まれるとしている。ファイザーは最近、米グローバル・ブラッド・セラピューティクス(54億ドル)、米バイオヘブン・ファーマシューティカル・ホールディングス(116億ドル)、米アリーナ・ファーマシューティカルズ(67億ドル)を相次いで買収している。
ファイザーのがん領域のポートフォリオは、すでに24の承認された治療薬を持っている。シージェン買収により、リンパ腫治療薬「アドセトリス」、膀胱がん治療薬「パドセブ」、子宮頸がん治療薬「チブダック」、乳がん治療薬「ツキサ」が加わる。
報道によると、ファイザーのライバルである米メルクも昨年、シージェンと買収交渉を進めていた。
(Manas Mishra/Bhanvi Satija/Michael Erman、編集:Saumyadeb Chakrabarty/Sriraj Kalluvila/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)