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アステラス、営業効率化へ大なた…グローバルで1000人削減 DXで生産性向上

更新日

亀田真由

アステラス製薬が営業の効率化へ大なたを振るっています。製品構成の変化やデジタルコミュニケーションの浸透を背景に、今年度、グローバルで1000人の人員削減を行い、国内では4月に営業体制を大きく見直します。

 

 

早期退職に650人 うち500人が営業部門

2027年に主力の前立腺がん治療薬「イクスタンジ」の特許切れを控えるアステラス製薬。これを見据えて昨年5月に策定した21~25年度の経営計画では、▽イクスタンジと重点戦略製品の売り上げを25年度に1.2兆円以上にする▽フォーカスエリア・アプローチプロジェクトから創出される製品の売り上げを30年度に5000億円以上にする▽コア営業利益率を25年度に30%以上にする――を成果目標に掲げ、新製品への十分な投資を確保しつつ、販管費は絶対額で20年度の水準を維持する方針を示しています。

 

関連記事:アステラス 2027年の「XTANDIクリフ」への打ち手は

 

経営計画では、25年度に売上収益が20年度比5割増となる一方、販管費を維持することで売り上げに対する比率は20年度から10ポイント圧縮して21%に低下する見込み。同社はあらゆる面で効率化に取り組むことにしており、その一環として大なたを振るうのが営業組織の改革です。

 

岡村直樹副社長は今月2日の決算説明会で「スペシャリティ製品へのシフトという製品ポートフォリオの変化に加え、新型コロナウイルス感染拡大による顧客との面談手法の変化、デジタルコミュニケーションの浸透に対応する」と強調。すでに今年度、日米欧と中国、韓国などで約1000人の人員削減を行い、これを含む営業組織の改革で年間180億円程度の費用削減が見込まれることを明らかにしました。昨年国内で行った早期退職には想定の450人を大きく上回る650人が応募。このうち約500人は営業部門だったといいます。岡村副社長は「(要員数は)常に見直していくことが不可欠」とし、「新型コロナもあって見直しに拍車がかかっている部分はある。これで終わるというつもりはまったくない」と、さらなる切り込みも示唆しました。

 

【アステラス製薬営業体制の変革】製品ポートフォリオ・事業環境の変化/スペシャリティ製品へのシフト/コロナ禍での面談手法の変化・デジタルチャネルの浸透|1/国内販売体制の変更/・/エリア担当制から製品担当制に変更(▽固形がん▽血液がん▽関節リウマチ▽スペシャリティケア)/・人材育成や講演会運営支援などを一手に担う「コマーシャルエクセレンス部」、デジタルケイパビリティ機能を集約した「デジタルコミュニケーション部」を新設/・全国119の営業所を廃止し、各都道府県に1カ所を基本に「コミュニケーションオフィス」を設置/2オムニチャネルを活用した活動の強化//・オウンドメディアのログなどからニーズを分析し、医師の求める情報を提供/・国内では4領域6製品でオンラインMRを活用/・グローバルでチャットボットによる一部製品の情報提供を実施/・メタバースを活用したオンラインでの双方向コミュニケーション/3継続的な要員最適化/・21年度は日米欧中韓などで1000人規模の要員減少(日本では早期退職に650人が応募。うち営業職は500人)|⇒重点戦略製品へのリソース集中もあわせ、年間約180億円の費用削減効果|※アステラス製薬の決算説明会・DX説明会などをもとに作成

 

国内営業 エリア担当制から製品担当制に

4月1日付で行う国内営業組織の見直しでは、MRの販促体制をエリア担当制から製品担当制に変更し、担当領域として▽固形がん▽血液がん▽関節リウマチ▽スペシャリティケア(整形/腎/泌尿器/糖尿病/循環器/消化器など)――の4つの疾患領域を設定。全国119の営業所は廃止し、各都道府県に1カ所を基本に社員が自由に利用できる「コミュニケーションオフィス」を設置します。

 

効率化のカギを握るのがデジタルです。コロナ禍で医療従事者とのコミュニケーションのしかたは大きく変化しており、アステラスはオムニチャネルコミュニケーションの強化に取り組んでいます。

 

2020年にはチャットボット「Collabot」による情報提供サービスを開始し、昨年6月にはオンラインでの活動に特化した「オンラインMR」の運用をスタートしました。昨年4月にリニューアルした医療従事者向けサイトでは、サイト利用状況からユーザーである医師のニーズを分析し、それをもとにオムニチャネルで情報を届ける活動を展開。メタバースを活用した情報提供手法の構築にも取り組んでおり、第1段階として仮想空間上での研究会・講演会について今年1月からパイロットを行っています。

 

4月の国内営業組織の見直しでは、デジタルに関する機能を集約した「デジタルコミュニケーション部」を新設し、デジタルツールを活用した情報提供体制の構築・運用を進める方針です。

 

DXでバリューチェーン全体を効率化

効率化に取り組むのは営業だけではありません。創薬から安定供給まで、バリューチェーン全体を通じてデジタルトランスフォーメーション(DX)による生産性向上を図っています。

 

たとえば創薬では、化合物スクリーニングで得られたヒット化合物から、活性や薬物動態の課題をクリアした医薬品候補化合物を取得するまでのサイクルをDX化しました。「Human-in-the-Loop 型の医薬品創製プラットフォーム」と呼ぶこのプラットフォームでは、AI(人工知能)による化合物デザイン・予測→ロボットによる自動合成→ロボットとAIによる細胞アッセイというループに研究者の評価を挟み込み(Human-in-the-Loop)、ループの回転を高速化。従来2年を要した研究を約半年に短縮できるといいます。熟練の技が必要な細胞創薬でも、実験ロボットとAIによって効率化・高速化を図っています。

 

【アステラス製薬が取り組む各バリューチェーンのDX】<領域><取り組み><具体的内容>/<創薬>大規模バーチャルスクリーニング/検証では、従来1~2年かかるスクリーニングを最短1~2週間で実施/Human-in-the-Loop型の医薬品創製プラットフォーム/ロボットによる実験結果とAIの分析・予測を研究者が判断し、ヒット化合物から医薬品候補化合物を導く/ロボットとAIによる細胞創薬プラットフォーム「Mahol-A-Ba」/ロボットによる高精度・高再現性の実験でiPS細胞の研究を加速|開発/1つのアプリで完結するDCTプラットフォーム/3~5年以内に整備し、グローバル展開|製造/データマイニングシステム「DAIMON」/2018年から稼働、今後バイオ医薬品に展開予定|販売/オムニチャネルコミュニケーション/オンラインMR:21年6月~チャットボット:グローバルで20年~/オウンドメディアの刷新//21年4月に改修、訪問者数31%増|ライフサイクルマネジメント//ファーマコビジランス業務の自動化/AIやRPAを使った安全性情報の取り込み|※アステラス製薬のDX説明会資料をもとに作成

 

今後3~5年でDCTプラットフォーム構築へ

臨床開発では、分散型治験(Decentralized Clinical Trials=DCT)プラットフォームの構築に取り組みます。DCTをめぐっては、説明・同意取得、診察、PRO(患者報告アウトカム)といったプロセスでデジタル化が進んでいますが、アステラスは3~5年以内にこれらを1つのアプリで完結できるプラットフォームにまとめ上げ、グローバルで展開することを目指しています。

 

製造現場でのデータ管理・解析では、2013年から自社でデータマイニングシステムの開発を進めてきました。完成したシステム「DAIMON」は18年に稼働しており、一変量モニタリング、因果・回帰関係モニタリング、多変量モニタリングを通じて低分子医薬品の品質管理を行っています。今後、バイオ医薬品にも展開していく考えです。

 

昨年10月には、研究開発の生産性向上とスピードアップを狙い、研究組織をアジャイル型に変更したアステラス。研究に続き営業組織を大胆に変革し、DXも組み合わせて効率化を目指します。

 

関連記事:「本部」解消し「アジャイル型」に…アステラス、研究組織改編の狙いは

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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