イーライリリーのインスリン製剤「ヒューマログ」(米ユタ州の薬局で2020年1月撮影、ロイター)
[ロイター]米イーライリリーは、米国で最も一般的に使用されているインスリン製剤「ヒューマログ」「ヒューマリン」の定価を、今年第4四半期から70%引き下げると発表した。
同社はまた、ノンブランド品である「インスリンリスプロ」の価格を1バイアルあたり25ドルに引き下げるとともに、一部のインスリン製剤の自己負担額を月額最大で35ドルとする支援プログラムを拡充し、米国の薬局の85%で適用されるようにする。
米国政府は今年から、公的医療保険メディケアパートDでインスリンの自己負担額の上限を月額35ドルに抑制している。バイデン大統領はこれを公的医療保険に加入していない大部分の米国人にも広げるよう求めており、今回のリリーの動きはそれを受けたものだ。一部の議員は、この動きを法律によって後押しする可能性に言及している。
200万人が費用支払えるように
リリーのデイビッド・リックスCEOはCNNのインタビューに「議会や医療制度の動きを待つこともできたが、われわれは自らこの基準(月額上限35ドル)を適用する」と答えた。
今回の変更により、約200万人が生命を維持するために必要なインスリンの費用を支払えるようになる可能性がある。約350万人のメディケア加入者の多くはすでに自己負担額が35ドル以下に抑えられているが、民間保険加入者の約20%と保険未加入のインスリン使用患者の17%が恩恵を受けることになるとみられる。
米国のインスリン市場は、リリー、サノフィ(仏)、ノボノルディスク(デンマーク)の3社で90%を占めている。リリーの株価は値下げ発表後、1.3%上昇した。
サノフィは、自社の患者支援プログラムによって自己負担額を保険加入者の大半で月額15ドル、保険未加入者で月額35ドルに抑えているとしたが、リリーに続いて値下げを行うかどうかについてはコメントを避けた。ノボは、小売大手のウォルマートと提携して1バイアルあたり25ドルで入手できるようにしたり、最大3バイアルを99ドルで提供するプログラムを行ったりしていると述べた。
バイデン氏は3月1日、議会や製薬企業に対して、リリーに続いてインスリンの価格を引き下げるよう呼びかけた。リリーのリックスCEOはメディアとの電話会議で、今回の発表に先立ってバイデン政権と話をしたことはないが、共和党の上院議員スーザン・コリンズ氏らインスリンの費用に上限を設けることに積極的な議員とは以前から対話していたと述べた。
(写真:ロイター)
一部のアナリストは、リリーが議会の動きに先行しようとした可能性を指摘する。スタイフェル投資会社の主席政策アナリスト、ブライアン・ガードナー氏は「議会がインスリンの価格を制限する可能性は高まっており、リリーがそれに反応したのは確かだ」と語った。
値下げ「米国の新たなスタンダードになるはず」
インスリン「ヒューマログ」の廉価版である「リスプロ」の現在の定価は100単位/mLで82.41ドルだが、リリーは今年5月から25ドルに引き下げる。ヒューマログU-100は274.70ドルから66.40ドルに、ヒューマリンU-100は148.70ドルから44.61ドルになる。
リリーは昨年、一部の消費者のためにリスプロの価格を40%引き下げると発表している。
医薬品の定価は、保険やその他の補助制度などにより、患者が実際に支払う金額とは異なることが多い。35ドルの上限は、リリーのアクセス支援プログラムに参加している薬局だけが対象だが、リックスCEOによるとほかの薬局を利用している患者は同社のウェブサイトを通じてリベートを受け取ることができる。
リックス氏は、こうした値下げが「米国の新たなスタンダードになるはずだ」とし、ほかのメーカーや関係者に「この時点でわれわれと会ってほしい」と呼びかけた。
米糖尿病協会によると、米国では3700万人の糖尿病患者のうち約840万人がインスリンを使用している。リックス氏によると、同社は以前からインスリンの値下げを計画しており、今年の販売予測にも織り込んでいるという。
(Bhanvi Satija/Patrick Wingrove/Andrea Shalal/Susan Heavey/Ahmed Aboulenein、編集:Arun Koyyur/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)