8月7日、上院で気候変動・医療対策法案を可決した米連邦議会(ロイター)
[ロイター]米国議会が今週末にも承認される見通しとなった気候変動・医療対策法案は、メディケアプログラムにとって過去20年で最も重要な改革が含まれている。それは、高齢者医療をめぐる最大の懸念事項の1つである処方薬の急激なコスト上昇に対処することを目的としている。
米連邦議会上院は今月7日、今後10年間で4300億ドルの財政支出を盛り込んだ大規模な「インフレ抑制法案」を可決した。下院は12日に採決を行い、その後、バイデン大統領の署名を経て成立する見通しだ。
同法案は、一部の高額薬剤の価格について、2026年からメディケアが製薬企業と交渉できるようにする。03年に処方薬の保険給付プログラム「メディケア・パートD」を創設した法律の最大の欠陥の1つである、メディケアによる価格交渉を禁じる規定を修正する第一歩となる。
価格交渉は長期的には大きな意味を持つだろう。しかし法案では、処方薬の保険給付について高齢者の家計に影響を与える見直しが含まれている。
医療費の削減は、特に中・低所得の高齢者にとって重要な問題だ。カイザー・ファミリー財団(KFF)によると、メディケアの加入者は2019年に医療保険と医療サービスに対して平均6639ドルを自己負担として支出した。
法案には、メディケアの薬剤費削減につながる改革が盛り込まれており、23年から段階的に導入することを定めている。いつ、どんな見直しが行われるのか、以下にまとめた。
2023年:インスリン・キャップ、インフレ・ペナルティ
23年から、メディケア加入者のインスリンの費用に月額35ドルに制限することで、インスリン価格の急騰に対応する(民間医療保険加入者の上限は最終法案には盛り込まれなかった)。KFFによると、低所得者向けの補助金を受けないメディケア・パートD加入者の場合、インスリンの年間平均自己負担額は07年の324ドルから20年には572ドルと76%も上昇したという。
さらに23年からは、製薬企業が一般的なインフレ率を超えて処方薬を値上げした場合、リベートの形で政府に一定額を支払わなければならないペナルティが課される。KFFのシニアバイス・プレジデント、トリシア・イノマン氏は「消費者にとっては、値上げがどの程度だったかわかりにくかったので、その効果に気付きにくいかもしれない」とする一方、「製薬企業にとっては、大幅な値上げを阻害する大きな要因になるだろう」と指摘する。
さらに、メディケア・パートDがカバーする成人向けワクチンの自己負担も廃止される。KFFによると、これによって年間400万人以上が恩恵を受けることになるという。
2024年:アウトオブポケット・キャップ(その1)
法案では、加入者の年間自己負担額に上限を設けることについて、2つの段階を設定している。第1段階である24年には、パートDの『高額医療費の基準値』(catastrophic threshold)を超えて5%の自己負担を求める規定が撤廃される予定だ。これにより、がんや多発性硬化症などで特に高額な医薬品の費用を負担している受給者は恩恵を受けることになる。
最近のある調査では、自己負担が大きいため高額な処方薬の調剤を拒否するパートD加入者も多く、たとえば、抗がん剤では30%が調剤されていなかった。
また、24年にはパートDの低所得者向け補助金(LIS)の対象が拡大される。この補助金は、収入が非常に少ない加入者の保険料と自己負担分の支払いを支援するもので、低所得の高齢者にとって重要な改革となる。KFFの報告(19年)によると、加入者の半数が年間2万9650ドル以下の所得で、4人に1人は1万7000ドル以下で生活していた。
2025年:アウトオブポケット・キャップ(その2)
25年からは、加入者は年間2000ドルを超えた分は自己負担をする必要がなくなる。この改革は、薬剤費をめぐる問題の核心の1つに迫るものだ。
KFFによると、20年に年間2000ドルを超える費用を負担していたパートD加入者は140万人に上ると推定される。処方薬の価格は上昇しており、25年以降、制度見直しによって実際に恩恵を受ける人の数はそれより多くなるとみられる。
「Get What’s Yours for Medicare: Maximize Your Coverage, Minimize Your Costs」の著者でジャーナリストのフィリップ・モイラー氏は、「製薬企業やメディケア当局は、パートDの保険料の安定性に注目したがるが、自己負担支出は安定していない」とし、「この見直しは、薬剤費に対する自己負担支出に安定性をもたらすだろう」と話す。
2026年:価格交渉
03年にパートDプログラムが創設された際、最も議論を呼んだものの1つが、メディケアによる価格交渉を禁じた規定だ。
今回の法案では、メディケアに製薬企業と価格交渉を行う権限が与えられる。価格交渉は26年に最も高額な医薬品10品目から始まり、27年には15品目に広げる。28年以降も対象となる医薬品は順次追加される。
価格交渉が長期的にどれほどの効果を発揮するのか、現時点ではまだわからない。しかし、メディケイドプログラムでは何年にもわたってうまく機能している。政府の調査によると、使用頻度の高い薬剤で見た場合、パートDはメディケイドに比べて32%多く費用を支払っている。
(Mark Miller、編集: Matthew Lewis、翻訳:AnswersNews)
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