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ニュース解説

プライベートエクイティ、新薬開発に食指

更新日

ロイター通信

ブラックストーンの本社(米ニューヨーク市マンハッタン、ロイター)

 

[ロイター]「リスクが高すぎる」として医薬品開発への投資に及び腰だったプライベートエクイティ(PE)が、この分野への投資を増やし、専門のファンドを立ち上げ、不確実性を補う取引を編み出しつつある。

 

ロイターの取材に応じた8人のバイアウト企業幹部や投資家は、臨床試験への資金供給と、それを求めて競う医薬品の数との間で広がるギャップを利用しようとしていると語った。

 

英調査会社エバリュエート・ファーマによると、世界の医薬品研究開発への支出は、2020年から26年にかけて約2000億ドルから2540億ドルへと増加すると予測されている。

 

これらの取引は、PEがよく行うレバレッジド・バイアウトのような構造にはなっていない。そのかわり、バイアウト会社は対象企業の医薬品の開発に投資する。投資するのは通常、薬事承認の一歩手前である臨床第3相(P3)試験に入ったタイミングで、バイアウト会社は対象企業と受け取るリターンについて事前に交渉する。

 

ほとんどの場合、製薬企業は、薬の開発中に▽株式の発行▽手元資金の活用▽借入金――のいずれかによってPEに資金の返済を始める。薬が承認されれば、そこから得られる収益の一部をPEと共有する。

 

ブラックストーンが10件投資

米ブラックストーンは2020年にライフサイエンス専門ファンドを立ち上げた。ファンドの規模は46億ドル。ここからすでに10件の投資を行い、主導権を握っている。

 

同社ライフサイエンス部門のグローバルヘッド、ニック・ガルガクス氏は「過去10年を見てみると、資金調達を本当に必要であるにもかかわらず、製薬企業が利用できる資金が少ない製品が数多く出現してきた」と話す。

 

ブラックストーンの投資案件には、▽仏サノフィの免疫療法薬「サークリサ」の開発に3億ユーロ(3億2000万ドル)▽英アウトロス・セラピューティクスのがん治療薬のパイプラインの進展に1億5000万ドル▽米アルナイラム・ファーマシューティカルズによる高コレステロール血症治療薬などの開発に最大11億5000万ドル――などが含まれる。これらのディールのいくつかは、対象企業の株式への投資や融資を伴うものだ。

 

関係者によると、医薬品開発のリスクに対する許容度が高まるにつれ、ブラックストーンは臨床試験中の医薬品を保有する企業の買収も検討するようになった。

 

同社は18年、26億ドルの資産を持つ臨床試験専門の投資会社クララス(米国)を買収し、この分野で大きな存在感を確立した。この戦略は、米カーライル・グループが昨年、クララスの同業で資産20億ドルのアビングワース(英国)を買収した際に見習われた。

 

カーライルも専門ファンド準備

カーライルは現在、アビングワースのチームを活用してライフサイエンス専門のファンドを立ち上げる準備をしている。その資金調達計画に詳しい関係者によると、数十億ドルの資金を集める可能性があるという。カーライルは昨年8月に初めて臨床試験に対する投資を行い、オプテア(オーストラリア)が開発中の眼科用医薬品に最大1億7000万ドルの出資を約束した。

 

カーライルのヘルスケア部門でグローバルヘッドを務めるスティーブ・ワイズ氏は「私たちは、私たちが「バイオ医薬品革命」と呼んでいるものと、発見や科学の爆発的な発展を強く信じている」と話している。

 

ブラックストーンは、その賭けを比較的安全な投資として提示している。同社は昨年、富裕層の投資家らに対し、同社が投資したP3試験段階の医薬品の86%が承認されたと説明した。

 

ただ、設立3年となるブラックストーンのライフサイエンスファンドは、リターンの創出という点ではスロースタートだ。直近の四半期決算によると、9月末時点の純内部収益率はわずか2%だった。一方、クララスがブラックストーンによる買収前に調達した前身のファンドは、9月末時点で15%の純内部収益率を実現している。

 

カーライルはアビングワースのリターンを公表しておらず、広報担当者は情報提供の要請にも応じなかった。

 

アポロやEQTも参入

ほかにも、ライフサイエンス投資会社ソフィノバ・パートナーズ(フランス)の少数株式を昨年取得し、最大10億ドルユーロの資金をコミットした米アポロ・グローバル・マネジメントや、ライフサイエンスに特化したベンチャーキャピタル、ライフサイエンスパートナーズ(オランダ)を昨年買収したスウェーデンのEQTといったPEが、この分野への参入を競っている。

 

多くのPEは、製薬企業全体にベンチャーキャピタル型の投資を行い、その資金を臨床試験に使わせるだけで、この分野に参加している。たとえば、米KKRは2016年の初期段階の資金調達ラウンドで遺伝子治療を開発しているブリッジバイオ・ファーマ(米国)に投資し、19年のIPO(新規株式公開)を通じて資金を提供し、現在も筆頭株主であり続けている。

 

PEは、医薬品をスピンアウトして新会社を設立するための資金も提供する。たとえば、米ベインキャピタルは2018年、3億5000万ドルのディールで米ファイザーが開発中の神経疾患医薬品を新設会社に移管し、セレベル・セラピューティクスを設立した。

 

投資銀行PJTパートナーズでライフサイエンス分野を担当するパートナー、トム・デビッドソン氏はこのケースについて「大企業から愛されない資産を取り出し、資金と大きな資本を提供して多様性のある会社をつくった例だ」と指摘している。

 

(David Carnevali、翻訳: Greg Roumeliotis/Diane Craft、翻訳:AnswersNews)

 

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