新型コロナウイルス感染症が流行の「第8波」に入り、解熱鎮痛薬の需給が逼迫する中、最も多く処方されるアセトアミノフェン製剤も限定出荷が続いています。同製剤で約85%の市場シェアを持つ「カロナール」の製造販売元、あゆみ製薬の唐沢清紀会長CEOに、現在の供給状況と増産の見通しを聞きました。
23年度は年間30億錠の生産を計画
――昨夏の「第7波」以降の出荷状況について教えてください。
唐沢清紀・あゆみ製薬会長CEO:昨年7月から9月にかけて、カロナール11品目すべてを「限定出荷」(すべての受注に対応できない状況)に移行しました。汎用規格である200mg錠に換算して年間28.8億錠の生産体制を維持していましたが、感染拡大で欠品になるおそれが出たからです。限定出荷に移行してからは、あらかじめ決めた数量だけを医薬品卸に出荷しています。当初は、感染の波が落ち着けば制限も解除できると考えていましたが、まったくそうはなっておらず、在庫を確保することもできない状態が続いています。
フル生産を継続しているので実需がどのような状態か不明で、例年だと出荷量が多くなる年末年始への対応もできていません(取材は昨年12月末に実施)。医療現場・薬局では11品目のうち「細粒20%」の需給が逼迫していると聞いていますが、毎月の出荷量が決まっているため増産は難しいのが実情。細粒20%の生産量はカロナール全体の7%程度ですが、細粒しか飲めない患者さんもいるため要望は強いようです。
剤形別の生産量は錠剤がほぼ9割を占めています。アセトアミノフェン製剤におけるカロナールの市場シェアは約85%です。
カロナールの供給状況について話すあゆみ製薬の唐沢会長CEO
外部委託を拡大
――今後の生産量の見通しは。
唐沢氏:自社工場では現在、集中的にカロナールを製造していますが、供給が追いつかないので2019年度から外部への委託を開始しました。19年度の生産量は200mg錠換算で自社製造が15億錠、外部が5億錠でした。可能な限り自社製造したいのですが、22年度は委託分が増加しており、今後も委託先を拡大していく方向です。23年度以降は現在よりさらに2~3億錠増やす予定で、委託先との契約も済ませています。
22年度は当初、前年度より4.3億錠多い27.8億錠の生産を予定していましたが、感染者が急増したため28.8億錠まで引き上げました。23年度は後半から委託先が拡大することもあり30億錠を計画していて、24年度は32~33億錠まで増やすことを見込んでいます。新型コロナが収束すれば需要は落ち込むでしょうが、それでも19年度のレベルには戻らないと考えています。
この生産量でどの程度の感染者数まで対応できるかは、新型コロナ以外の用途で使われる分もあるので読み切れません。ワクチン接種が始まった初期のころは、副反応に対して使用されたこともあり、接種回数とカロナールの需要には一定の相関がありましたが、感染が拡大してからは副反応への処方に比べて使用量が何倍も多いコロナ患者・感染者に圧倒的に多く処方されているようです。
コスト増で利益率低下、汎用規格は最低薬価に
――昨年末、厚生労働省が医療機関・薬局向けに解熱鎮痛薬の供給相談窓口を設置しました。
唐沢氏:一部の調剤薬局から問い合わせはあります。厚労省からは出荷に関する依頼がありましたが、在庫状況を報告しており、対応できないと伝えています。ただ、強い要請を受けたので、ある1つの剤形だけ部分的に協力しました。われわれの立場としては患者さんに適切に行き渡るかどうかが重要であり、ぎりぎりの調整をしました。
――為替や物価高の影響で製造コストが上昇しています。
唐沢氏:製造原価は円安やエネルギー価格の上昇によって大変厳しい状況で、利益率も今年度は大きく下がっています。原料価格そのものが円安の影響を受け、輸送費や工場の電気代も上がっており、委託先からも値上げの要請を受けています。労働力の確保も難しくなっており、人件費の増加につながっています。さらに、昨年4月の改定で薬価が平均6%引き下げられ、200mg錠は最低薬価(5.9円)まで下がりました。
適応拡大もプロモーション控えざるを得ず
カロナールは昨年7月に公知申請が認められ、これまで頭痛や腰痛など特定の疾患や症状に限定されていた鎮痛の対象が「各種疾患および症状における鎮痛」に変更されました。当初は関連学会と協力して「術後疼痛」と「リウマチ痛」を適応として追加することを考えていましたが、厚労省との協議を経て幅広い解釈で適応を取得することになりました。
アセトアミノフェンをめぐっては、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)との作用機序の違いを明確に示す論文が出ており、これをもとに現在は両剤ともに投与禁忌となっている疾患からアセトアミノフェンを除外するよう求める活動も行っていきます。
こうした動きは、本来なら積極的にプロモーションすべきことですが、出荷量が十分でない中では控えざるを得ないのが実情です。