2022年に起こった製薬業界のできごとを2回にわけて振り返ります。
2回目:MR数 5万人割れ目前に…「ゾコーバ」緊急承認に社会的関心
「ラグ」ではなく「ロス」
2022年は「ドラッグ・ラグ」への懸念が再び高まった1年となりました。台頭する新興バイオ医薬品企業を中心に、海外の製薬企業が日本市場を敬遠する動きが顕在化。新薬が日本に入ってこない状況を指す「ドラッグ・ロス」という言葉も頻繁に耳にするようになり、承認が遅れる「ラグ」より事態は深刻化しています。
日本製薬工業協会(製薬協)のシンクタンク、医薬産業政策研究所(政策研)が昨年発表したレポートによると、2020年までの5年間に欧米で承認された新薬は246品目ありましたが、このうち72%にあたる176品目が日本で承認されておらず、16年(までの5年間)と比較すると、未承認薬の割合は16ポイント上昇。さらに、政策研が今年7月にまとめたレポートでは、未承認薬の多くが画期的かつ臨床的に重要な薬剤であり、こうした薬剤の開発を担う新興バイオ医薬品企業がピポタル試験に日本を組み入れていない状況が明らかになりました。
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顕在化した日本回避
今年7月の政策研のレポートでは、新興企業が臨床試験に日本を組み入れない要因について、▽患者登録に時間がかかる▽手続きが煩雑である(日本語書類の整備を含む)▽試験費用が高い▽日本の相対的な市場規模が縮小し、マイナス成長の市場と捉えられている――などが考えられると指摘。規制の見直しや収益担保のための政策が必要だとしています。
日本市場を回避する動きは新興企業だけにとどまりません。米国研究製薬工業協会によると、日本の医薬品開発への投資は2009年から15年にかけて22%増加した一方、15年から20年は9%減少。この間、世界は33%増加しており、対日投資の縮小は鮮明です。欧州製薬団体連合会(EFPIA)が今年9月に理事会構成会社10社を対象に行った調査では、7社が日本市場の優先度が「低くなった」「やや低くなった」と回答。日本の市場環境が上市中止の判断に影響した企業は4社、上市延期に影響した企業は6社ありました。
供給不足は拡大
一方、2020年末から続く医薬品の供給不足は、今年も医療現場に大きな影響を及ぼしました。
日本製薬団体連合会(日薬連)の調査によると、今年8月末時点で出荷停止や限定出荷となっている医薬品は4234品目(全体の28%)あり、昨年8月末時点の3143品目(同20%)から増加。出荷停止・限定出荷となっている医薬品の約9割(3808品目)は後発医薬品で、21年以降相次ぐ品質不正による行政処分が供給不足に拍車をかけています。
日医工 再建へ上場廃止
今年は3月に共和薬品工業が、11月に廣貫堂が業務停止命令を受け、富士製薬工業と辰巳化学に業務改善命令が出されました。昨年、過去最長の業務停止命令を受けた小林化工は事実上廃業し、生産部門はサワイグループホールディングス(HD)の子会社「トラストファーマテック」として今年4月に再出発。来年4月からサワイ製品の出荷を始める予定です。
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小林化工と同様に昨年、業務停止命令を受けた日医工は、米国事業で多額の減損損失を計上し、9月末時点で356億円の債務超過に陥りました。同社は5月に私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を申請し、11月には経営再建に向け投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズとメディパルHDの支援を受けると発表。両社が出資する新会社を引受先とする第三者割当増資を行い、日医工は来年3~4月に上場廃止となる予定です。拡大路線を主導してきた田村友一社長は、増資後に退任することが決まりました。
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「有識者検討会」の議論に注目
医薬品供給の土台が揺らぐ中、厚生労働省では「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」が立ち上がり、8月31日に初会合が開かれました。2回目の会合からは「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」に名称を変更し、革新的医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期導入と安定供給の確保に向けた方策を議論。業界の期待と注目を集めました。
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10月に開かれた5回目の会合では、今後の検討にあたっての論点として▽新薬の研究開発への投資を促すための方策▽新薬創出加算や市場拡大再算定の運用や制度のあり方、薬価改定ルールの見直しの頻度▽イノベーションや医薬品としての価値を踏まえた薬価安定の方法▽後発品メーカーの収益構造や産業構造▽安定供給に必要な薬価を維持する仕組みのあり方――などが示されました。検討会では、2024年度薬価改定を見据えて来年4月をめどに提言をまとめることにしており、その内容が注目されます。
中間年改定 今回も「平均乖離率の0.625倍超」
一方、2度目の中間年改定となる23年度薬価改定は、平均乖離率(7.0%)の0.625倍(乖離率4.375%)を上回る1万3400品目(全収載品目の69%)を対象に行われることが決まりました。全収載品目の48%にあたる9300品目で薬価を引き下げ、3100億円の薬剤費を削減します。
改定をめぐる議論で製薬業界は、原材料費高騰や安定供給対応で原価率が上昇しているとして「薬価を引き下げる環境にない」と主張。改定を行う場合は、不採算品や特許期間中の新薬に配慮することなどを求めました。
23年度改定では「臨時・特例的対応」として、不採算となっているすべての医薬品に不採算品再算定を適用するとともに、新薬創出加算を増額。業界の主張に一定の配慮がなされた一方、2年前と同様に「平均乖離率の0.625倍超」という広範な改定となりました。
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来年春ごろには、24年度薬価改定に向けた議論が始まります。薬価制度の限界がドラッグ・ラグや供給不足として表出する中、大局的な検討が必要です。