第一三共とアストラゼネカの抗がん剤「エンハーツ」(ロイター)
[ロイター]第一三共と英アストラゼネカの抗がん剤「エンハーツ」が今年8月、米国でHER2低発現乳がんの治療薬として承認された。対象となる患者は多いが、その恩恵を受けられる患者を確実に判断することが課題になっていると専門家は指摘している。
エンハーツは2019年に米国で最初の承認を取得し、腫瘍細胞にHER2と呼ばれるタンパク質を持つ進行乳がん、胃がん、肺がんの患者に使用されている。
研究者らは今年初め、従来はHER2の発現が少なすぎて薬剤の効果が期待できないと考えられていた特定の乳がん患者にもエンハーツが有効であることを見出した。米FDA(食品医薬品局)は今年8月、「転移再発で化学療法を受けたHER2低発現の手術不能または転移性乳がん」への適応拡大を承認した。
乳がん患者の5~6割がHER2低発現
米国立がん研究所によると、乳がん患者の5~6割がHER2低発現のカテゴリに入る可能性があるという。これまで、HER2低発現の患者に対する治療選択肢は限られていたが、エンハーツの承認によって治療法は変わりつつある。
しかし、今月6~10日に米国で開かれたサンアントニオ乳がんシンポジウムでは、複数の研究者が、エンハーツによる治療の対象となるHER2低発現患者の選別方法に課題があると指摘した。現在、一般的に使われている検査は大量のHER2タンパク質を測定するために作られたもので、HER2低発現の診断を正確に行うことはできないというのだ。
米イェール大のデビッド・リム博士は、従来の免疫組織化学的検査によって低レベルのHER2を定量化するのは「ゾウのために作ったはかりでネズミを量るようなものだ」とし、病理医は結果を主観的に解釈していると指摘した。
今年4月、医学誌「JAMA Oncology」に掲載された報告では、HER2低発現か否かを調べた免疫組織科学的検査について、18人の病理医に結果の解釈を求めたところ、一致率は26%にとどまったという。
正確な患者選択が重要
エンハーツは、抗HER2抗体トラスツズマブと化学療法剤デルクステカンを組み合わせた薬剤だ。副作用として重篤な間質性肺疾患があらわれることがあるため、リム氏は正確な患者選択が重要だと指摘している。
米コロラドに本社を置くセラリンク・テクノロジーズは、より正確な評価を可能にすると思われるHER2定量アッセイを市販している。同社は、免疫組織化学検査が陰性だった175人の患者のHER2を定量分析したところ、30~40%が低~中程度(modest to moderate)のHER2レベルだったと学会で発表している。
イェール大のリム氏の研究室も定量分析法を開発したが、まだ実用化には至っていない。
アストラゼネカのオンコロジー部門幹部、スニル・バーマ博士は「エンハーツの臨床的意義を解釈、決定するための研究は、新しい技術を含めて進化している」と電子メールで述べた。
リム氏はインタビューで、現在の検査がいかに主観的であるかを考えると、腫瘍医は別の答えを期待して病理医にHER2陰性を再確認するよう依頼することがよくあると指摘。「説得力のある医療ではなく本当の精密医療を望むのなら、医師は病理医に対して定量分析法を使うよう求めなければならない」と指摘した。
(Nancy Lapid、編集:Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)