12月1日、約7年ぶりの新薬となる関節リウマチ治療薬「ナノゾラ」を発売した大正製薬ホールディングス(HD)。医療用医薬品を取り扱う医薬事業が赤字となる中、立て直しにつながるか注目されます。
2期連続赤字
大正製薬HDの医薬事業は、好調なセルフメディケーション事業(一般用医薬品)とは対照的に苦戦が続いています。2022年3月期の医薬事業の業績は、売上高385億4300万円(前期比24.2%減)で、営業利益は13億1900万円の赤字(前期は24億9500万円の黒字)でした。同年4月に中外製薬との骨粗鬆症治療薬「エディロール」の販売提携が終了したのが痛手となり、初めて営業赤字に転落しました。
23年3月期の業績予想は、売上高369億円(4.3%減)、営業利益は65億円の赤字と、医薬事業の経営は厳しさを増します。主力のSGLT2阻害薬「ルセフィ」は10%程度の成長を見込んでいますが、ほかにめぼしい製品はありません。
これまで、抗菌薬「クラリス」など主力品の特許が切れたり、富士フイルムHDと資本・業務提携を解消したりといったことがありましたが、それをカバーする大型新薬の投入はなく、販売提携なども実現していません。この間、創業以来初となる大規模な早期退職者の募集も行いました。こうした状況から、医薬事業の将来を不安視する声が社内からも聞かれます。
ナノゾラ「売り上げ100億円台目指す」
研究開発費の推移を見ても、セルフメディケーション事業への投資は活発な半面、医薬事業は減少傾向にあります。今期は臨床第3相(P3)試験を実施中の不眠症治療薬「TS-142」への費用がかさむため前期を上回りますが、5年前は2.5倍あった両事業の研究開発費の差は1.6倍まで縮小しています。TS-142以外の後期開発パイプラインは、ナノゾラの剤形追加(オートインジェクター)が申請中、ルセフィの適応拡大(小児)がP3試験の段階にあるだけ。11月に厚生労働省の部会で承認が了承された抗肥満薬「アライ」も、医療用を経ない「ダイレクトOTC」です。
医薬事業立て直しのカギとなるナノゾラは、15年にベルギーの企業から導入したもので、大正にとっては16年1月発売の経皮吸収型鎮痛消炎剤「ロコア」以来の新薬となります。国内初の抗TNFαナノボディ製剤で、分子量が小さいため従来の抗体ではアプローチできなかった疾患標的部位にアクセスできる可能性があると言われます。大正製薬HDの北谷脩取締役は11月の決算会見で、ピーク時売上高について「100億円台を目指す」と意気込みを語りました。
9番目の参入
ただ、関節リウマチは競合の激しい領域です。ナノゾラは生物学的製剤として9番目の参入となりますが、同じ作用機序の抗TNFα抗体だけでもすでに1000億円を超える市場が形成されており、このほかにも経口のJAK阻害剤5品目がしのぎを削っています。さらには「レミケード」「エンブレル」「ヒュミラ」にはバイオシミラーが参入。価格の低さから徐々に使用が拡大しています。ナノゾラは国内約 80 万人と推定される関節リウマチ患者に対し、製品特性を生かしてどこまで処方を獲得できるかがポイントになります。
一方、医薬事業では主要製品の1つである骨粗鬆症治療薬「ボンビバ」が、共同販売している中外製薬から譲渡され、大正製薬の単独販売へと切り替わることになりました。同薬は13年8月に注射剤が発売され、両社で共同販売を開始。16年4月には錠剤を追加し、今期の売上高予想は中外(12月期)が70億円(14.6%減)、大正(3月期)が71億円(3.4%減)の計141億円です。24年3月期からは中外分が大正の業績に上乗せされます。
しかし、注射剤には今月、後発医薬品が参入する見通しです。ボンビバの処方は多くが注射剤のため、今後、切り替えの影響を受けることになります。来年6月には錠剤にも後発品が発売される可能性があり、単独販売の効果も一時的なものにとどまりそうです。
予防・診断もターゲットに
つまるところ、当面の事業展開はナノゾラが軸になります。業績に本格的に貢献し始めるのは通院せずに自己注射ができるオートインジェクターが承認(9月に申請済み)されてからになるかもしれませんが、販売提携が終了したエディロールにかわる主力品として、病院市場を中心に垂直立ち上げを狙います。
医薬事業全体としては、将来的な体制再構築も視野に入っています。大正製薬HDの上原茂副社長は、製品導入を積極的に行う一方で、未病や予防・診断分野もターゲットにする考えを表明。従来から「ベンチャーキャピタル的な活動」(上原氏)を続けているといい、創薬関連や健康などの分野で投資や協業の機会を模索していく方針です。