2022年に薬価収載された新薬49成分(投与経路の違いによる重複を含む)のうち、ピーク時の売上高予測が100億円を超えたのは13成分だったことが、AnswersNewsの集計でわかりました。希少疾病用医薬品が全体の4割を占め、大型化を見込む製品は少なくなっています。
売り上げ予測、最大は「ウィフガート」の377億円
11月16日、年内最後となる新薬の薬価収載が行われました。今年は6月の緊急収載を含めて新薬の薬価収載が5回あり、収載されたのはあわせて49成分。同一成分で異なる投与経路を持つものが2成分あり、これらを除くと実質的には47成分となります。
今年収載された新薬のピーク時売上高予測(薬価ベース)は計4132億円でした。過去にはC型肝炎治療薬「ソバルディ」「ハーボニー」などが収載された15年に8000億円を超えたこともありましたが、近年は新薬開発がスペシャリティ領域にシフトしていることもあり、おおむね4000億円前後で推移しています。がんや自己免疫疾患といった領域では、適応追加によって将来的に市場を拡大する製品も増えています。
原価開示度50%未満で加算ゼロ 10成分に適用
22年に収載された新薬のうち、ピーク時の売上高予測が100億円を超えたのは13成分でした。最も金額が大きかったのはアルジェニクスジャパンの重症筋無力症治療薬「ウィフガート」の377億円。同薬の薬価は原価計算方式で算定され、有用性加算II(加算率5%)と市場性加算I(10%)がつきましたが、原価の開示度が50%を下回る場合には加算係数をゼロとするルールによって実質的に加算が適用されませんでした。
同ルールは今年4月の薬価制度改革で導入されました。導入初年度となった今年は、原価計算方式で薬価算定され、補正加算がついた10成分すべてに適用されました。
ウィフガートに次ぐ324億円のピーク時売上高を予想した「スキリージ」(アッヴィ)は、19年5月に乾癬の適応で薬価収載されていますが、今回はクローン病の適応追加に伴って「オートドーザー」という新製剤が収載されました。加齢黄斑変性などの治療薬「バビースモ」(中外製薬)は、新規性が乏しい新薬に適用する類似薬効比較方式IIで薬価算定。ピーク時に320億円の売り上げを見込んでいて、市場で「アイリーア」「ルセンティス」といった既存品と競合します。
ピーク時売上高予測が300億円を超えたのはこれら3成分で、200億円台が4成分、100億円台が6成分ありました。
外資が65%
今年収載された新薬を俯瞰すると、大きく2つの特徴が見えてきます。
1つは外資系企業が目立つこと。投与経路違いによる重複を含む49成分のうち、内資系企業の製品は17成分(34.7%)で、外資は32成分と全体の65.3%を占めます。ピーク時売上高予測が100億円を超える13成分に限ってみると、12成分が外資系企業のもので、そこにはメガファーマだけでなくスペシャリティ領域に特化した比較的規模の小さい企業の製品も含まれています。
ウィフガートのアルジェニクスや、軟骨無形性症治療薬「ボックスゾゴ」のバイオマリンファーマシューティカルは、いずれも希少疾患に特化した研究開発型企業。イドルシアファーマシューティカルズは、本社のあるスイス以外では世界で初めて日本に法人を設立(18年3月)し、今年、くも膜下出血術後の脳血管攣縮を抑制する「ピヴラッツ」の販売を開始しました。
昨今、日本の薬価制度の厳しさを背景に、外資が対日投資を縮小する動きが伝えられています。新薬創出力で優位に立つこれら企業の投資判断に、薬価制度の見直し論議はどう影響するのかも注目です。
希少疾患でも一定の市場
そしてもう1つは、希少疾患を適応症とする新薬が増え、なおかつ疾患の種類も幅広くなっていることです。今年収載された新薬の4割にあたる19成分が希少疾病用医薬品に指定されており、神経線維腫症治療薬「コセルゴ」(アレクシオンファーマ)や寒冷凝集素症治療薬「エジャイモ」(サノフィ)など、当該疾患に対する初の治療薬として収載された新薬も含まれます。国内の患者数は神経線維腫症が4万人、寒冷凝集素症は発症率が 100 万人あたり 16 人程度とされています。
希少疾病だけにピーク時売上高は控えめな製品が多いものの、「ボックスゾゴ」(ピーク時予測投与患者数515人)やアルナイラムジャパンのトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬「アムヴトラ」(同376人)は100億円を超えています。対象患者数が少ない新薬であっても、その画期性や治療選択肢の乏しさといった要因から一定の市場を獲得することは可能です。メーカーにとっては、高い薬価がつきやすいという魅力もあります。
外資はここでも中心的存在で、内資の製品は「タクザイロ」(武田薬品工業、遺伝性血管性浮腫)、「エザルミア」(第一三共、成人T細胞白血病リンパ腫)、「タブネオス」(キッセイ薬品工業、多発性血管炎)の3成分のみ。タクザイロももともとは買収したシャイアーの開発品ですし、タブネオスもスイス企業からの導入品です。
新薬開発は生活習慣病などの大市場で大型化を狙う時代から、アンメットニーズの充足へとシフトしています。将来的な適応拡大を見据え、“小さく産んで大きく育てる”傾向も見られます。