削減が進む一方、生産性は上昇し続けているMR。2021年度は、1人あたりの売上高が初めて2億円を突破しました。国内市場が停滞する中、削減はどこまで進むのでしょうか。
1人あたり生産性、10年で4割上昇
MR認定センターが9月に公表した2022年度版の「MR白書」で、2021年3月末時点の国内のMR数が前年度比1378人(3.2%)減の5万1848人となったことがわかりました。国内の医療用医薬品市場が伸び悩む中、製薬各社が新卒採用を絞り、早期退職を募集して営業部門の人員適正化を進めていることがあらためて裏付けられました。
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一方、MR1人あたりの生産性は向上しており、2021年度はついに2億円を突破しました。薬剤費抑制策によって国内の事業環境は厳しく、収益を維持するにはMRを削減するしかないようにも見えてきます。
21年度は2.06億円
MR1人あたりの生産性は、IQVIAの国内医療用医薬品市場の規模(薬価ベース)を、MR白書で公表されているMR数で割って算出しました。過去10年をさかのぼって見てみると、市場は11年度の9兆5349億円が21年度に10兆6887億円に拡大しましたが、この間の年平均成長率(CAGR)は1.2%と停滞しています。一方、11年度に6万3875人いたMRは21年度に5万1848人まで減少。MR数は13年度にピークを迎えましたが、その後は8年連続で減少しており、CAGRはマイナス2.1%となっています。
市場拡大を上回るペースでMRが減少した結果、1人あたりの生産性は右肩上がりで上昇しています。1人あたりの生産性は、11年度は1.49億円でしたが、C型肝炎治療薬のヒットで一時的に市場が膨張した15年には1.69億円に上昇。MRの削減が加速した20年には1.93億円に達し、21年度は2.06億円と大台に突入しました。この10年でMRの生産性は4割近く上昇したことになります。
今のペースで生産性上げるなら5年後にMRは4万人
MRの生産性は今後もこのトレンドに沿って上昇を続けていくのでしょうか。生産性には「MR数」と「市場規模」の2つの要素があり、このうちMR数については一定の水準まで減少し続けるのは避けられそうにありません。
21年度はそれまでの3年間と比べて減少幅が小さくなっていますが、今年はファイザーが大規模なリストラを行うと伝えられています。ノバルティスもグローバルで10億ドルの販管費削減を打ち出しており、日本法人の動向が注目されています。国内の大手でも余剰感のある企業が複数存在するのが現実で、適正規模を探る動きはなお続きます。
国内の医薬品市場は、短中期的には10兆円台前半で停滞すると予想されています。薬価算定の厳格化と毎年改定で拡大する要素に乏しく、米IQVIAは22~26年の日本市場の成長率を年平均マイナス2%~プラス1%と予測しています。業界は、8月から議論が始まった厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」に期待を寄せますが、仮に業界の求める方向で薬価制度を見直すべきとの結論が出たとしても、それによって即座に市場が好転するとは思えません。
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4万人なら2.5億円、3万人なら3.3億円
こうしたことを踏まえた上で、21年度を起点に5年先のMRの生産性について考えてみましょう。国内医療用医薬品市場がこの先も10兆円でほぼフラットだと仮定すると、MR数が現在のまま(約5万人)なら生産性も2億円を維持することになります。ただ、MRが5年先も今と同じ数ということはありえないでしょう。近年の減少ペースが続いて26年度に4万人まで減ったとすると、1人あたり生産性は2.5億円まで上昇し、減少スピードが加速して3万人まで減れば3.3億円に跳ね上がることになります。
過去10年で1人あたり生産性が4割上昇したことを踏まえると、5年後に想定される生産性は2.5億円前後が目安となり、MR数は4万人ほどまで減少することになるのかもしれません。業界全体として効率化の意識が更に高まれば3万人台に向かうことも考えられるでしょう。
エムスリーによると、MRにかかるコストは人件費や関連資材などすべて含めて業界全体で年間1兆5000億円に上るといいます。1人あたり約2800万円となる計算です。26年度にMRが4万人まで減るとすれば、そのコスト削減効果は単純計算で3000億円を超えます。
製薬企業としては、これを研究開発費に振り向けてパイプラインの強化を図りたいのが本音でしょう。内資系企業は大手であってもブロックバスター候補をいくつも抱えているわけではありません。研究開発の面でも生産性向上を迫られており、当面は手を着けやすい営業の効率化を進めてリソースを再分配していくことが課題と言えそうです。