英アストラゼネカのパスカル・ソリオCEO(ロイター)
[ロンドン ロイター]英アストラゼネカのパスカル・ソリオCEO(最高経営責任者)は、ロイターとのインタビューで、将来的にワクチン事業にとどまらない可能性があるとの認識を示した。これは、世界で初めて新型コロナウイルスワクチンを実用化したにもかかわらず、その後ライバルに逆転を許した医薬品メーカーの運命がどれほど急激に変化したかを示すものだ。同社の新型コロナワクチンをめぐっては、▽生産の遅れ▽稀ではあるか重篤な副反応の発生に伴う規制当局の調査▽ほかのワクチンと比較して短い保存期間――などが影響し、展開が進んでいなかった。
パンデミック3年目に入り、新型コロナワクチンの供給が世界的に過剰となる中、先進国の多くでアストラゼネカ製ワクチンの使用は減少している。すでに世界中で多くの人に接種されている米ファイザー/独ビオンテックと米モデルナのmRNAワクチンが好まれているからだ。アストラゼネカの新型コロナワクチンは、米国ではまだ承認されていない。
ソリオCEOは8月23日のロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスやRSウイルスなどの抗体医薬のポートフォリオを強化していると語った。一方、コロナワクチン事業の将来については「われわれがそこにとどまるかどうかは確かではない」との認識を示した。彼はまた、アストラゼネカがほかの感染症のワクチンにポートフォリオを広げるかどうかもわからないとし、現時点では調査中だと語った。
同社のワクチン事業をめぐっては、▽新型コロナワクチンの販売が鈍化していること▽mRNAとの競争が激しいこと▽この分野で同社の専門性が比較的低いこと――など背景に、事業の将来について投資家の間で憶測を呼んでいる。
ボルトオン買収を模索
それでもソリオ氏は、英オックスフォード大と共同で新型コロナワクチンを開発し、世界で数十億回接種され、推定600万人の生命を守ってきたことを考えると後悔はないと話した。新型コロナワクチンは2021年にアストラゼネカで2番目に売れた製品で、その売り上げは39億ドルだった。
ソリオ氏はまた、インタビューの中で、がんや心血管治療に特化した中小企業を中心にボルトオン買収(既存事業の補完・強化を目的とした買収)を模索していることも明らかにした。ソリオ氏は「われわれは常に外部の機会を探し求めている」と語った。
ソリオ氏がCEOに就任してからの10年間で、アストラゼネカの株価は4倍になった。
ソリオ氏はインタビューで「私はこの仕事を何年も続けられる」と意欲を示した。ソリオ氏はかつて、来年退任するレイフ・ヨハンソン会長の後任として有力視されていた。しかし、彼は7月、退任の憶測を否定し、会長就任が発表されたミッシェル・デマレ氏とともにCEOとして仕事を続けるつもりだと述べた。
スイス・ロシュで経験を積んだソリオ氏は、主要製品の特許切れと新薬候補の開発失敗によって打撃を受けたアストラゼネカの再建を託され、2012年10月にCEOに就任。彼の下で同社の運命は劇的に変化した。ソリオ氏は、スペシャリティ医薬品と収益性の高いがん領域に焦点を絞り、パイプラインを補充するために買収を行った。ファイザーからの敵対的買収をかわし、研究開発に多額の投資をして、停滞していた同社の開発成功率を改善した。
米国の薬価抑制に警鐘
一方、米国で成立した薬価抑制策を含む「インフレ抑制法」に対しては、新薬開発が減少する可能性があると警告した。
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インフレ圧力については「われわれは、より革新的で生産的な企業にならなければならない。販売価格の上昇を期待することはできない」と語った。
同社の年間売上高の5分の1近くを占める中国では、薬価の下落と、新型コロナに伴うロックダウンで一部の患者が治療を受けられなくなったことが影響し、直近の四半期の売上高は前年を下回った。ソリオ氏は、第3四半期に入って売り上げは回復してきており、世界第2位の医薬品市場である中国は今後10年でさらに重要性を増すとの見通しを示した。
(Aimee Donnellan/Natalie Grover、編集:Mark Potter/Jan Harvey、翻訳:AnswersNews)