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米製薬業界、ロビー活動に195億円費やすも薬価抑制策導入で歴史的敗北

更新日

ロイター通信

薬局の棚に並ぶ処方薬(米ポーツマスの薬局で撮影、ロイター)

 

[ワシントン ロイター]米国の大手製薬企業は今年、議会や政府機関へのロビー活動に他のどの業界よりも多くのカネをつぎ込んだが、高齢者・障害者向け公的医療保険メディケアに処方薬の価格交渉を認める法案を阻止できず、歴史的な敗北を喫した。

 

米国の製薬業界は今年、少なくとも1億4200万ドル(約195億円)をロビー活動に費やしたが、処方薬の価格抑制策を盛り込んだ「インフレ抑制法」が成立した。議会や業界の関係者によれば、同法の成立は製薬業界にとってまれに見る敗北であり、世界で最も収益性の高い米国医薬品市場で薬価抑制の先例となるものだ。

 

米議会上院保健委員会議長のパティ・マレー上院議員(民主党)はロイターの取材に「これは大きな第一歩だ」と指摘し、「医薬品の価格を下げるために価格交渉などの措置をとれるようになったことは初めてのことだ。これは、今後さらに多くのことを行うための舞台となるだろう」と語った。医療政策の専門家によると、同法の成立は民主党に対する製薬業界の影響力が弱まっていることを示しており、業界が価格交渉への反対の主な論拠としている「イノベーションを阻害する」という主張は、もはや国民に対して説得力を失っているという。

 

カイザー・ファミリー財団が昨年10月に行った世論調査では、民主党員の95%、共和党員の71%を含む83%の米国人が、同法に盛り込まれたメディケアによる価格交渉を望んでいた。

 

「製薬業界の連中は、法案に反対するためあらゆるものを投げつけてきた」と米議会上院財務委員会の議長を務めるロン・ワイデン上院議員は話す。製薬業界の強力な業界団体である米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、上院議員に公開書簡を送り、法案に反対するよう要請した。PhRMAのスティーブ・ユーブル理事長は政治専門メディア「ポリティコ」に対し、法案に賛成した議員は「フリーパスを手に入れることはできない」と述べた。

 

ユーブル氏は「PhRMAのように、現代の政治的アドボカシーのあらゆる手段を自由に使える団体はほとんどない」と言う。PhRMAの広報担当者は、今後もすべての議員に対して働きかけを続けていくとした一方、議員に責任を持たせるというユーブル氏のコメントには言及しなかった。PhRMA広報担当者のブライアン・ニューウェル氏は電子メールで「すべての問題で合意することはできないかもしれないが、イノベーション、高度に熟練した労働力、医薬品へのアクセスを支える政策環境を促進するには関与と対話が重要だと考えている」と述べた。

 

当初案からは縮小

政治資金の動きを調査する非営利団体オープン・シークレッツのデータをロイターが分析したところ、製薬業界は今年上半期に議会や政府機関へのロビー活動に少なくとも1億4260万ドルを費やしていた。これはどの業界よりも多く、昨年1月に始まった中間選挙期間中の選挙寄付には少なくとも1610万ドルを投じている。

 

ロビー活動に投じられた資金の約3分の2にあたる約9300万ドルは、PhRMAとその会員企業によるものだ。

 

製薬業界は法案への反対活動の中で、医療保険の価格が17%上昇しているのに対し、医薬品の価格上昇は過去1年間で2.5%にとどまるとし、医薬品はインフレに関与していないと主張した。評論家は、この数字は高額なブランド薬と安価なジェネリック医薬品を組み合わせたもので、患者の費用負担への影響を覆い隠していると指摘する。カイザー・ファミリー財団の調査によると、2020年にメディケアが給付対象とした全医薬品の半分で、インフレ率を上回って価格が上昇したと推定されている。

 

製薬業界は、米市場で価格を抑制することは、企業の新薬開発への投資を阻害することにつながると警告してきた。

 

インフレ抑制法をめぐっては、当初の提案では250の医薬品の価格引き下げを支援するとされていた。しかし、業界を支持する民主党議員の働きかけもあって昨年11月にこの規定は縮小され、最終的には最も高額な20の医薬品に焦点を当てることで決着した。

 

オープン・シークレッツによると、当初の提案に反対したのは、民主党内で業界から最も多くの寄付を受けているステン・シネマ上院議員とスコット・ピーターズ下院議員だった。2人は製薬業界からそれぞれ20万1000ドル以上、32万ドル以上の献金を受けているという。

 

ピーターズ氏はロイターの取材に「継続的に新薬の開発に取り組んでいる企業が投資を回収できるよう、適切な“間”をつくった」とし、「彼らも無事に切り抜けたのではないかと思っている」と話した。

 

業界はどう動く?

民主党関係者や業界団体幹部、政策専門家らは、法案への幅広い支持と、11月の中間選挙を前に成果を必要とした民主党への圧力が、製薬業界の反対運動を跳ね返したと見ている。

 

カイザー・ファミリー財団の医療政策担当バイスプレジデント、ラリー・レビット氏は「今回の件で、製薬業界は民主党内には友人がほとんど残っていないことに気がついただろう」と話し、「製薬業界は、これが悪しき前例になると見ており、おそらくそうなるだろう」と指摘している。

 

政策専門家は、製薬業界は法律の影響を可能な限り小さくしようとする活動を展開すると予想している。元米政府医療政策担当官で現在は慈善団体アーノルド・ベンチャーズのヘルスケア担当上級副社長を務めるマーク・ミラー氏は「業界は裁判所に訴え、将来的には法律を変えようとするだろう」と言う。

 

この法律が投資家心理に及ぼす影響についてはまだわからない。多くの人は、医薬品株を景気後退時の安全な賭けの1つと見ているからだ。JPモルガンのアナリストは「米国の医薬品セクターに対するセンチメントは数年来の高水準にあり、インフレ抑制法による医薬品改革が投資家のポジショニングを大きく変えるとは考えていない」と述べている。

 

(Ahmed Aboulenein、編集: Michele Gershberg/Deepa Babington/Leslie Adler、

翻訳:AnswersNews)

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