新型コロナウイルスに対する不活化ワクチンを開発している明治グループが、mRNAワクチンの技術基盤の獲得に乗り出す意向を表明しました。同グループの医薬品事業の中核を担うMeijiSeikaファルマの小林大吉郎社長は、「安全性の不活化ワクチン」と「開発スピードのmRNAワクチン」を状況に応じて使い分けていくことが重要だと話します。
不活化コロナワクチン、9月申請へ
明治グループのKMバイオロジクスとMeijiSeikaファルマは7月6日、開発中の新型コロナウイルス感染症向け不活化ワクチン「KD-414」について、昨年10月から行っている国内臨床第2/3相(P2/3)試験で良好な結果が得られたと発表しました。
発表によると、有効性については「現在実施中の国際共同P3試験で『バキスゼブリア』(アストラゼネカのウイルスベクターワクチン)に対する優越性が十分期待できる結果」だったといい、安全性は「副反応発現のプロファイルは国内既承認の新型コロナワクチンと異なることが示唆され、インフルエンザワクチンと同程度であることがわかった」としています。
「完成度の高いデータ出せた」
今回結果が発表されたP2/3試験は18歳以上の成人2500人を対象としたもので、6カ月以上18歳未満の小児600人を対象としたP2/3試験の結果は9月に公表される見込み。KMバイオロジクスは両試験のデータを踏まえ、同月にも緊急承認制度の活用を視野に承認申請を行う方針です。
MeijiSeikaファルマの小林大吉郎社長はこの日の記者会見で「完成度の高いデータが出せたと思っている。国産の不活化ワクチンで有効性が予想されるデータが出たということで、われわれとしては自信を持って申請に踏み切りたい」と強調。小児(5~11歳)の2回接種率は7月11日時点で2割に届いておらず、KMバイオロジクスの永里敏秋社長は「安全性が高い不活化ワクチンの特徴を生かし、小児の接種率を上げていきたい」と話しました。
MeijiSeikaファルマの小林社長(左)とKMバイオロジクスの永里社長
KMバイオロジクスは、国の補助を受けて菊池研究所(熊本県菊池市)に1500万~2000万回分を生産できる設備を整え、今年5月からすでに生産を開始。承認されれば2022年度中の供給開始が可能だとしています。
「安全性の不活化ワクチン」と「スピードのmRNAワクチン」
「現在汎用されているmRNAワクチンは全量が輸入。何とか技術導入して国内生産を視野に入れた開発を進めていきたい」。不活化ワクチンの開発を着々と進める明治グループですが、MeijiSeikaファルマの小林社長はこの日の会見で、新規モダリティとしてmRNAワクチンの技術基盤を獲得する方針を表明しました。
mRNA技術は、新型コロナの発生からわずか1年足らずという驚異的なスピードでワクチンの実用化を実現するのに大きな役割を果たしました。日本企業が開発したワクチンはまだ実用化されておらず、海外勢に大きく後れを取っていますが、その原因の1つとしてmRNAなどの新規モダリティへの取り組みが不十分だったことが指摘されています。
MeijiSeikaファルマの黒沢亨研究開発本部長は「素晴らしいスピードでものすごく効果のあるものをつくることができた。そういう技術であるという点で優位性があり、ぜひ(技術基盤を)獲得して供給できるようにしていきたい」と強調。KMバイオロジクスの永里社長は「遺伝子情報があればつくることができ、ウイルスを扱う必要がない」とmRNAワクチンの利点に言及する一方、「安全性には課題がある」と指摘しました。
「最もふさわしいワクチンを供給するために」
mRNAワクチンが不活化ワクチンを含む従来型ワクチンと比べて副反応が多いのは、mRNAを包む脂質ナノ粒子に起因するところが大きいのではないかと言われています。MeijiSeikaファルマの小林社長は「これからやるのならば、ここが解決されていないものを投入するのはあり得ない」とし、黒沢研究開発本部長も「ファイザーやモデルナに追いつき、追い越していくためには、その欠点を改善するのは必須条件。安全性の高い技術を獲得していくためにベンチャーやアカデミアとの連携をいくつか検討している」と話しました。
安全性の高い不活化ワクチンと、開発のスピードが速いmRNAワクチン。それぞれ長所と短所がある2つのモダリティを持つ理由について小林社長は、流行の状況や変異の特性に応じて適切なワクチンを使い分けていくことが重要だと説明しました。
「今後、新たな感染症の流行が起こったとき、パンデミックの初期はウイルスを使わずスピーディーにつくれるmRNAワクチンで叩き、インフルエンザのようなエンデミックになれば定評のある不活化ワクチンで抑えていく。想定外の変異が出てくれば、また早期にmRNAで叩く。パンデミック、エンデミック、エピデミックというサイクルの中で、最もふさわしいワクチンを供給できるよう選択肢を持っておくべきだ」(小林社長)
2018年、血漿分画製剤の不正製造が発覚した化学及血清療法研究所の主要事業を引き継ぎ、ワクチン事業を取り込んだ明治グループ。国は新型コロナワクチンの開発で海外に後れを取ったことを踏まえ、研究開発や生産拠点整備への支援を強化しており、小林社長は「パンデミックがもたらした業界環境の激変、(ワクチンに関する)技術基盤・創薬基盤のパラダイムシフト、これらを最初は脅威だと思っていたが、われわれにはそれらを成長機会に転換させることができる基盤がある。国の支援も受けながら中長期的な成長へもっていく」と意欲を語りました。