後発医薬品国内首位のサワイグループホールディングスと同2位の日医工が、2022年3月期決算でそろって最終赤字に沈みました。いずれも米国事業に関連して多額の減損損失を計上したためです。16年から17年にかけて米国の後発品メーカーを買収し、同国市場に進出した両社。インド勢の本格参入により競争が激化するなど事業環境は厳しくなっており、仕切り直しを迫られています。
最終赤字 日医工1049億円、サワイ283億円
5月13日、私的整理の一種である事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を申請したと明らかにした日医工。同日発表した22年3月期の決算は、売上収益1791億円(前期比4.9%減)、営業利益1100億円の赤字(前期は1億円の黒字)で、最終利益は1049億円の赤字(前期は42億円の赤字)となりました。
巨額赤字の原因となったのが、米国での製品開発の遅れに伴って生じた多額の減損損失です。同社は2016年に約750億円で米後発品企業セージェント・ファーマシューティカルズを買収。同社を通じて北米で開発しているバイオシミラーやオーファンドラッグの承認申請が遅れることが確実となり、のれんを含め836億円の減損損失の計上を余儀なくされました。
サワイグループホールディングス(HD)も米国事業が足を引っ張りました。5月11日に発表した22年3月期決算は、売上収益1938億円(3.5%増)、営業利益は359億円の赤字(前期は189億円の黒字)で、最終利益は283億円の赤字に転落(前期は123億円の黒字)。米子会社アップシャー・スミス・ラボラトリーズに関連して688億円の減損損失を計上したことが響きました。減損前、米国事業の無形資産は745億円ありましたが、その大半を減損したことになります。
一方、大手3社で唯一“平常運転”となった東和薬品の22年3月期決算は、売上高1656億円(6.9%増)、営業利益192億円(3.6%減)で、最終利益は159億円(14.0%増)と増益を確保。欧米で事業展開するスペイン子会社トーワ・ファーマ・インターナショナルHD(旧ペンサ・インベストメンツ)は164.9%の営業増益となりました。大手3社の決算は、海外事業で明暗が分かれた形です。
インド勢参入で価格下落
サワイグループHDの米国事業は業績悪化が続いており、21年3月期、22年3月期と2期連続の営業赤字。21年3月期にアップシャー・スミスの売り上げの半分近くを稼いでいた主力の後発品3製品は、競合の参入によって1年で4割売り上げを落としました。日医工の米国事業も振るわず、セージェントは18年3月期以降、毎年赤字を計上しています。
「米国ジェネリック医薬品市場の競争環境は厳しく、価格下落は続くと予測している」。サワイグループHDの末吉一彦社長COO(最高執行責任者)は5月11日の決算説明会でこう話しました。米国の後発品市場ではここ数年、コスト競争力の高いインド勢の参入が本格化。卸の集約も価格競争に拍車をかけ、アップシャー・スミスを含む多くの後発品メーカーで業績が悪化しているといいます。末吉社長は「業界全体として大きな地殻変動が起こる中、それが復活すると安易に考えるべきではないとの判断の下、将来の収益計画を見直した」と多額の減損を計上するに至った背景を説明しました。
アップシャー・スミスは今期、主力の後発品の売り上げ減少をブランド薬の販売でカバーするとともに、研究開発や原薬調達のコストを削減することで収益の回復を図る考え。23年3月期の米国事業は売上収益322億円(7.4%増)、営業利益6億円と黒字化を見込んでいます。将来に向けては、現地生産体制の集約による効率化や、提携を通じた新製品開発によるリスク低減といった取り組みを示していますが、事業環境の好転が見込めない中、持続的な成長には不透明感が残ります。
「米国参入は失敗だ」。業界関係者からはそんな声も聞かれますが、国内市場が停滞する中、おいそれと手を引くわけにはいきません。21年4月には薬価の毎年改定がスタートし、初の中間年改定では後発品の約8割が薬価引き下げの対象になりました。国内で後発品事業をやっているだけではジリ貧になるのは目に見えています。決算説明会で記者から「将来的に米国事業を完全に見直すことも想定されるのか」と問われた末吉社長は、「現時点でその考えはない」と否定しました。
巨費を投じて参入した米国で果実を得られるか。進むも地獄、退くも地獄の状況の中、明確な成長戦略が求められます。