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ニュース解説

経口コロナ薬「パキロビッド」需要鈍く

更新日

ロイター通信

ファイザーが開発した新型コロナウイルス治療薬パクスロビド(ロイター)

 

[ロイター]米ファイザーの新型コロナウイルス感染症向け経口抗ウイルス薬パクスロビド(日本での製品名は「パキロビッド」)の需要が想定を下回っている。投与対象となる患者の要件が複雑であること、検査を受ける人が減少していること、薬物相互作用の懸念があること、などがその要因だ。さらには、現在流行中のオミクロン株は感染しても深刻な症状を引き起こさないという認識が広がっていることも、需要の妨げとなっている。

 

米国「感染低水準で治療薬の使用も少なく」

パクスロビドは、臨床試験で高リスク患者の入院・死亡を約90%減らし、新型コロナとの闘いにおいて大きな武器になると期待された。

 

世界的な感染のピークは過ぎたものの、今でも毎週、数千もの人が新型コロナによって死亡している。臨床試験で有効性が実証されている抗ウイルス薬は数種類しかなく、中でもパクスロビドは魅力的な治療薬だ。ほかの抗ウイルス薬には、米メルクのモルヌピラビル(日本での製品名は「ラゲブリオ」)や米ギリアド・サイエンシズのレムデシビル(同「ベクルリー」)などがある。

 

ただ、ロイターが保健当局のデータを分析し、さらには医師や薬剤師に取材したところ、米国、英国、日本、韓国ではパクスロビドの供給が需要をはるかに上回っていることがわかった。

 

米フロリダのアドベントヘルス・セントラ・ケアの上級医長を務めるティモシー・ヘンドリックス医師は「検査に来る人が少なくなっている」と指摘し、この数週間で1度もパクスロビドを処方していないと明かした。ヘンドリックス氏によると、オミクロン株は軽症だと信じている人が多く、要件に該当する患者にも処方を断られるといい、「ほとんどの患者は『家に帰って大人しくしている』と言う」と話した。

 

ファイザーは今年1億2000万人分のパクスロビドを製造する計画で、2月初旬までに締結された各国政府との契約から少なくとも220億ドルの売り上げを見込んでいる。米国は今年、最大2000万人分を購入することで同社と合意しており、公になっている中で最も大きな買い手となっている。米政府の購入価格は1人あたり約530ドルだが、これは国によって異なる。

 

米政府は、国内で今月末までに350万人分の使用が想定されており、ファイザーもそのペースで製造しているとしている。今月前半までのデータによると、パクスロビドは米国で150万人分が供給され、薬局には50万人分が在庫として残っている。米保健福祉省は「米国の感染者数は低水準で推移しており、そのため治療薬の使用も全体的に少ない」との見解を示している。

 

アジアや欧州で使用進まず

ファイザーによると、同社はパクスロビドの供給について100カ国の政府と協議を行っており、26カ国と契約を結んでいる。同社は「各国政府は、変異株の動向やほかの治療選択肢など、刻々と変化する状況を踏まえて需要を定義しようとしている」とコメントした。

 

200万人分の購入で合意している日本では、3月末時点で1万人分が配送され、2900人分が処方された。韓国は4月17日現在で62万4000人分を受け取っているが、政府のデータによるとその3分の1程度しか使われていない。

 

英国は275万人分の供給契約を結んでいる。イングランドのナショナル・ヘルス・サービスによると、4月9日現在で6000人以上の患者が処方を受けた。今年2月から毎月5万人分の供給を受けているイタリアでは、約8300人に投与されている。同国の医薬品庁は最近、専門医に加えて開業医にも処方を認めており、今後、使用が増える可能性がある。

 

ファイザーのアルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)は先週、「複数の国では、供給された分のごくわずかしか使われていない」と述べ、欧州では処方できる患者が制限されており、使用は限定的だと指摘した。

 

米国の医師や薬剤師の中には、医療機関などで検査を受ける人が少なく、高リスク患者が投与対象であることに気付かないことを懸念する人もいる。米ユタ大のシニアファーマシーディレクター、エリン・フォックス氏は「感染者の少ないユタ州では供給は順調で、基本的にはどこでも手に入る」と指摘。同大はソルトレークバレー周辺に4つの大きなヘルスセンターを持っており、それぞれが80人分ほどを在庫しているが、4月に調剤したのは2人分だけだったという。

 

パクスロビドは、広く使われているほかの多くの薬と相互作用を起こす可能性があり、使用にあたっては複雑な検討が求められる。英サウサンプトン大のポール・リトル教授は「処方するのは少し面倒だ」と打ち明ける。

 

今後、低リスク患者やワクチン接種者を含むより大きな集団で有効性を示すことができれば、パクスロビドの需要は増える可能性もある。

 

(Michael Erman、翻訳:AnswersNews)

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