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ニュース解説

コロナ後遺症「ロングCOVID」動き出した治療法の模索

更新日

ロイター通信

[ロイター]製薬企業や研究者らが、「ロングCOVID」と呼ばれる新型コロナウイルス感染症の後遺症に対する治療法の開発に動き出している。米英の5人の研究者がロイターに語ったところによれば、コロナ治療薬を実用化したメーカーを含む主要な製薬企業は、ロングCOVIDを治療する方法について研究者らと早くから議論を行っているという。

 

英グラクソ・スミスクライン(GSK)や米ビル・バイオテクノロジー、米ヒューマニゲンといった企業が、ロングCOVIDに対する既存薬を使った臨床試験について検討を進めていることが確認された。一方、米ファイザーやスイス・ロシュなどは、関心は示しているものの詳細な計画は明らかにしないとしている。

 

世界に1億人以上の患者

WHO(世界保健機関)によると、世界で1億人以上がロングCOVIDに苦しんでいる。研究者やバイオテクノロジー企業、公衆衛生の専門家らは、後遺症への治療を手に入れるには大手製薬会社の存在が不可欠だと指摘している。ロングCOVIDに対する臨床試験を手がけようとしている研究者アミタバ・バネルジー氏(英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)は「大雑把に見積もれば、われわれが議論しているのは心不全や糖尿病といった疾患と同じような規模だ」と話す。

 

ロングCOVIDは、疲労、胸痛、わゆる「脳の霧」など約200の症状が報告されており、それらが3カ月以上続くことと定義されている。米国では、労働年齢の成人の7人に1人に影響を及ぼしていると推定されている。

 

アトランタの元小学校教師、サンディ・ザックさん(53)は、2020年12月に新型コロナに感染してから、極度の倦怠感、めまい、痛み、動悸といった症状に悩まされている。ザックさんは現在、後遺症のせいで働けずにいる。彼女はさまざまな専門家に助けを求め、ステロイドや抗うつ薬フルボキサミンといった薬を試してきた。彼女は「後遺症患者は元の生活に戻れずにいる。私たちは、希望を持ち、治療法を待っている」と話した。

 

十数人の研究者へのインタビューとロイターの臨床試験データベースによれば、ロングCOVIDに対する治療薬の臨床試験は20に届いておらず、初期段階から先に進んでいるものはごく一握りだ。

 

考えられる原因は

研究者らは、自身の研究によってロングCOVIDの原因が明らかになることを望んでいる。これは、新薬のターゲットを見つけたり、治療法として有望な既存薬を特定したりする上で大きなハードルとなっている。

 

英エクセター大講師のデイヴィッド・ストレイン氏は「われわれは牽引力を得る段階まで来ており、苦しむ人々のために治療法を試すことができるようになってきている」とし、「近い将来、後遺症に悩む人々が元の生活を取り戻すために、われわれが提供できるものが出てくることを期待している」と話す。

 

専門家によると、大手製薬会社は治療薬を評価するための疾患特異的なバイオマーカーを探しているという。米ワシントン州にあるポリバイオ研究財団のエイミー・プロアル博士は「大手製薬会社は、ロングDOVIDの症例定義に苦慮している」と指摘する。ウイルス感染による後遺症の専門家である彼女は、ベンチャーキャピタル2社、大手製薬会社1社と会合を行ったと明かした。

 

研究者らは、後遺症の根本的な原因として▽感染によるダメージ▽ウイルスの残存▽免疫システムが自身の細胞を攻撃する自己免疫反応▽微細な血管や神経に損傷を与える過剰な炎症を引き起こす制御不能な免疫反応――などの可能性を考えて研究を行っている。原因は、これらまたはほかの要因との組み合わせであることも考えられるという。

 

英国で大規模試験

英国政府が資金提供し、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが主導する大規模臨床試験では、ロングCOVIDの患者4500人を対象に4つの薬剤がテストされる予定だ。これらの薬剤には、抗ヒスタミン薬ロラタジンや同ファモチジン、痛風治療薬コルヒチン、抗凝固薬リバーロキサバンが含まれる。いずれも、予備的な試験のデータから、炎症や血栓などロングCOVIDでターゲットになる疾患に作用する可能性があることが示唆されている。

 

この試験の主任研究者であるバネルジー氏は、これらの薬剤はロングCOVIDの潜在的なメカニズムのいくつかを標的としており、試験を通じて理解を深めるよう努めると話した。彼はロイターの電話インタビューに対し、「漠然としたターゲットを狙う今回の試験はチャレンジングだ」とし、「業界側の人たちもそれを理解しようとしている」と語った。

 

米アクセラ・セラピューティクスは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)向けに開発した薬剤について、英オックスフォード大と共同研究を行っている。ロングCOVIDに対する作用としては、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの機能を正常に戻すことが期待されている。ミトコンドリアの働きが悪いと、ロングCOVIDで多くの患者が経験する長期の倦怠感につながると考えられるという。主席研究員のペティ・ラマン博士は、新型コロナによってバッテリーが損傷したとすれば、この薬剤はバッテリーを修理し、細胞がエネルギーを使い過ぎることなく通常の機能を発揮できるようにすることが期待されるとしている。

 

米ピュアテック・ヘルスは、新型コロナに関連する長期的な肺の損傷を防ぐことを目的に、開発中の肺線維症治療薬の中間試験を行っている。

 

ワシントン大などの研究者らは、ロングCOVID患者の倦怠感を標的とした薬剤の試験を行っている。同大のリウマチ専門医、ジェームズ・アンドリュース博士によると、試験に使われているのは米リゾブル・セラピューティクスが開発した薬剤で、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群といった自己免疫疾患の炎症に関連する血液中の特定のRNAを溶解することで効果を示すという。

 

ロングCOVIDの根本原因をウイルスの残存と考える研究者らは、既存のワクチンが治療に使えないかテストすることに熱心だ。米モデルナは英国で行われる初期の試験に自社のワクチンを提供し、免疫を活性化することでロングCOVIDの症状を緩和できるかどうか試している。

 

ただ、開発資金の調達に苦労している企業もある。ドイツのバイオテクノロジー企業ベルリン・キュアーズ・ホールディングは、かつて心不全の治療に使われていた自己免疫薬について、第1段階の試験に必要な資金しか確保できていない。この薬剤は、実験的に使用したところ一部の患者に有望であることがわかったという。同社のピーター・ゲッテルCOO(最高執行責任者)はロイターに「後遺症の患者は、われわれに泣きながら電話をかけてくる。家を売って開発資金を寄付したい、とまで言う人もいる」と話した。

 

(Jennifer Rigby/Julie Steenhuysen、翻訳:AnswersNews)

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